◆��小平の「韜光養晦」
毛沢東が行った大躍進政策や文化大革命は、中国の社会に混乱をもたらし、経済的な発展は進まなかった。毛沢東は劉少奇・��小平らを「走資派」と呼んで批判したが、１９７６年（昭和５１年）に毛国家主席が死ぬと、復活した��小平が実権を握った。そして、１９７８年（昭和５３年）に改革開放路線を打ち出した。
彼の打ち出した「社会主義市場経済」という概念は、明らかに資本主義を取り入れる政策だった。共産党政府が強権的に進める統制主義的な資本主義政策である。この政策の推進によって、１９８０年代から中国は経済成長を始めた。特に１９９２年（平成４年）に��小平が行った南巡講話以後、中国は急成長した。
��小平が実権を握って以降、米中関係はさらに深まっていった。ピルズベリーは、「西洋人にとって��は、理想的な中国の指導者だった。物腰が穏やかなおじいさんのようでありながら、改革精神に富むバランスのとれた指導者」と見えたと書いている。
米国は、��を惜しみなく支援することにした。カーター大統領は、��と領事館、貿易、科学、技術についての協定に署名した。「それは、アメリカが中国の科学者にあらゆる種類の科学的・技術的知識を提供することを約束するもので、結果的にアメリカの科学的・技術的専門知識の史上最大の流出を招いた」とピルズベリーは書いている。
ピルズベリーは、��小平について次のように書いている。
「中国がマラソンで前に出るには、アメリカから知識とスキルを獲得するしかない。つまり、先頭を満足げに走るアメリカからエネルギーをこっそり抜き取り、それで遅れを取り戻してマラソンに勝とうと彼は考えていた」「中国が経済力でアメリカをしのぐ唯一の道は、科学と技術を大々的に発展させることだと確信していた。それを手っ取り早く実現するには、アメリカがすでに持っているものを拝借すればいい」と。
また、��小平は、改革開放の方針のもと、文化大革命によって荒廃した国土に４つの経済特区を指定することで経済成長を促した。これを米国は、他国との摩擦を避け、経済建設に専念する施策だと理解し、最恵国待遇での援助を続けた。これによって、��は、米国から強力な支援を取り付けることに成功した。
こうして��小平は、ほとんど無償で米国から科学と技術の提供を受け、また好条件で多大な経済的な支援を受けて、中国の「奇跡の成長」を実現した。
私は、共産中国が「１００年マラソン戦略」をこれまで成功裏に進めて来ているとすれば、最大の貢献者は��小平だと思う。老獪で、微笑みの下に野心を隠し、謙虚に下出に出て弱みを見せて、相手を油断させ、支援すれば相手は大きなもうけを得られると思わせる。シナ人特有の長期的な思考を以って、３年・５年ではなく５０年・１００年の期間で、じっくりと物事に取り組む。単に経済的な発展を目指すだけでなく、成長する経済力を以って軍事力を蓄え、将来、米国を凌駕するという目的に向かって進んでいく。復讐と勝利という目的のためには、手段を選ばない。
こうした��小平の態度を「韜光養晦（とうこうようかい）」という。「光を韜 (つつ) み養 (やしな) い晦 (かく) す」という言葉である。才能や野心を隠して、周囲を油断させて、力を蓄えて時を待つといった意味である。
ピルズベリーは書いていないが、��小平は「韜光養晦」によって、経済成長だけでなく、軍事力の増強も推し進めた。��は、もともと経済発展によって強い軍隊を作ることを目指していた。１９８７年（昭和６２年）の人民解放軍建軍６０周年の式典で、「わが軍隊を建設するとは、強大な現代化され正規化された革命軍隊を創るために奮闘することである」と述べた。��のもと、中国は１９８１年（昭和５６年）に核ミサイルの多弾頭化をめざす実験に成功し、１９８８年（昭和６３年）に原子力潜水艦からの弾道ミサイルの水中実験に成功した。こうして中国は、１９８０年代には、第１世代の核兵器を完成させ、最小限核抑止力、すなわち米国の本土を攻撃できる「対米第二撃能力」を保有した。中国は、米国本土を核攻撃すると米国を威嚇できるところにまで至ったのである。
米中国交回復後、米国の指導層は中国の軍事力増強を警戒せず、むしろソ連に対抗するうえで中国の軍事力増大は、米国にとってプラスになると考えていたように見える。共和党のニクソン政権は１９７３年からイギリスを介して中国に軍事援助を行った。１９７７年から８１年の民主党カーター政権は、ペンタゴンとＣＩＡが中国に軍用機材を輸送した。８１年から８９年の共和党レーガン政権は、対中武器輸出を行い、中国から武器を購入した。
そして、中国は、��小平のもと、１９８９年（平成元年）から毎年２ケタ台の伸び率で軍事予算を増加し、猛烈な軍拡を推進することになる。
次回に続く。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 著書のご案内 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
『人類を導く日本精神〜新しい文明への飛躍』（星雲社）
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
『超宗教の時代の宗教概論』（星雲社）
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ログインしてコメントを確認・投稿する