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2021年05月12日10:14

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「一帯一路」構想の地政学的考察1

 共産中国は、米国に挑戦し、世界的な覇権を獲得しようとしている。その世界覇権獲得を目標とする国家戦略の一環をなすのが、「一帯一路」構想(the Belt and Road Initiative)である。
 「一帯一路」構想は、習近平国家主席が2013年に提唱した広域経済圏構想である。かつてユーラシア大陸の東西を結んだ交易路シルクロードに沿ったもので、中国から中央アジアを経由して欧州へと陸路で続く「シルクロード経済ベルト」を「一帯」と呼び、南シナ海からインド洋を通り欧州に続く「21世紀の海上シルクロード」を「一路」と呼んでいる。現在ではアジア、アフリカ、欧州にまたがる広大な経済圏構想に発展しており、沿線の国家・地域は100以上に上るといわれる。
 私は、「一帯一路」構想は単なる経済政策の構想ではなく、外交・軍事・情報管理を含む総合的な政策として立案されたものと見ている。また、この構想の立案において、地政学を取り入れていると推測する。私は、地政学の研究者ではなく教養程度の知識しかない。その知識レベルによるものではあるが、「一帯一路」構想を地政学的な観点から考察してみたい。10回ほどの連載を予定している。

●今日までの地政学の発達

 地政学(geopolitics)とは、地理的な環境・条件を考慮して国家戦略を立てるための調査・研究・提案を行う政策科学である。
 地政学は、19世紀末のいわゆる帝国主義の時代に出現した。20世紀初頭に米国のマハン、20世紀前半に英国のマッキンダー、ドイツのハウスホーファー、米国のスパイクマン、20世紀後半に米国のグレイらが地政学を発達させた。彼らの地政学は、主に軍事的な観点から、それぞれの国家の国家戦略の策定に貢献した。
 まず地政学の展開を簡単に見てみよう。
 しばしば地政学の祖とされるのは、アルフレッド・セイヤー・マハンである。マハンは、アメリカ海軍の軍人・歴史家・戦略研究者だった。1890年に『海上権力史論』を発表し、制海権が国家にとって重要であるというシーパワー(海洋国家、海軍強国)の理論を打ち立てた。マハンは、アメリカがイギリスに匹敵する強国となるためには、海軍力を増強し、海上交通路を確立する必要があると唱えた。大海軍の建設、商船隊の拡充、海外基地・植民地の獲得を説いて、米海軍の戦略に大きな影響を与えた。その理論は、アメリカだけでなく、イギリス、ドイツ、日本などの指導者にも大きな影響を与えた。
 マハンは、大陸国家は隣接する国家の攻撃に備えるために強大な陸軍を維持しなければならないので、海洋に進出するための費用を負担できないと考えた。ランドパワー(大陸国家・陸軍強国)であることと、シーパワー(海洋国家・海軍強国)であることは両立し得ないという見方である。
 サー・ハルフォード・ジョン・マッキンダーは、イギリスの地理学者、政治家だった。1919年に『デモクラシーの理想と現実』を発表し、ハートランド理論を唱えた。マッキンダーは、ユーラシア大陸とアフリカ大陸を合わせて、世界島(ワールドアイランド)と呼んだ。その中心部、心臓地帯をハートランドと呼んだ。また世界島の沿岸地帯を「内周ないし縁辺の半月弧」と呼んだ。ヨーロッパ、中東、インド、中国などである。その外側を「外周ないし島嶼性の半月弧」と呼んだ。イギリス、南アフリカ、オーストラリア、アメリカ合衆国、カナダ、日本などである。
 マッキンダーは、人類の歴史はランドパワーとシーパワーの闘争の歴史だととらえた。第1次世界大戦でランドパワーのドイツによる世界島支配、それに続く世界全体の支配を阻止できたが、また、同じ野望を持つ国が現れるかもしれないと主張した。そして、「東欧を支配する者はハートランドを制し、ハートランドを支配する者は世界島を制し、世界島を支配する者は世界を制する」と述べた。そして、イギリスを中心としたシーパワーがランドパワーによる世界島支配を阻止すべきだと主張した。
 マハン、マッキンダーが米英の国益のために地政学を発達させたのに対し、ヨーロッパ大陸では、ドイツの地理学者フリードリッヒ・ラッツェルは「生存圏(レーベンスラウム)」の概念を中心とした理論を唱え、スウエーデンの政治学者・歴史学者ルドルフ・チェーレンは「アウタルキー(自給自足)」の重要性を説いた。
 彼らの理論を継承したドイツの地政学者カール・エルンスト・ハウスホーファーは、ドイツの国益の拡大を目指す理論を構築した。彼は、国家は国力に応じて資源を得るための領域として「生存圏」を獲得しようとするものであり、その獲得は国家の権利であるとした。経済的な自給自足を確実に維持するために、「生存圏」に加えて「経済的に支配する地域」の確立が必要であるとし、ドイツの植民地再分割の挑戦を正当化した。ハウスホーファーは独ソのランドパワーの同盟を主唱し、ドイツによる世界支配を説いた。これこそ、マッキンダーが恐れていたことだった。
 彼の理論は、ヒトラーに影響を与え、ナチス・ドイツの政策に反映された。だが、ハウスホーファーの独ソ同盟論とは反対に、ヒトラーはソ連に侵攻して破滅の道をたどった。妻はユダヤ系で、息子はヒトラー暗殺計画に加わり、処刑された。敗戦後、ハウスホーファーは服毒の上、割腹自殺した。

 次回に続く。

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