◆シナ仏教の特徴
�仝柔せ峺�が強く現実的・実利的な傾向がある
シナ文明の精神文化は、来世志向は弱く、現世志向が強い。また、現実的・実利的な欲求が強く、現世利益が重視される。インド仏教は本来、現世否定的で一切皆苦を説き、ひたすら輪廻転生の世界からの解脱を目指した。シナ仏教は、インドにおけるほど、輪廻転生の観念に呪縛されておらず、現世肯定的な傾向がある。また、インドでは高度な論理性を持つ哲学的思考が重視されたが、シナでは実践的な儀礼や行法が好まれた。それがシナ文明の諸民族の民族性に合っているからだろう。
��解脱より脱俗と自然との一体化を目指す
輪廻転生の世界からの解脱を目標とする仏教は、シナに来て大きく変化した。インドの仏教は現世否定的で、解脱を目指すために出家して修行する。だが、シナの道教の教義に取り込まれた老荘思想は、隠遁して天地大自然の中での生き方を楽しむ。方や宇宙からの離脱、生命の完全停止を目指すのに対し、方や俗世間を離れて自然との一体化を求める。シナ仏教はその影響を受け、解脱より脱俗と自然との一体化を目指す傾向がある。
�２�律を緩和して大乗戒を生む
インドの仏教は、出家して解脱を目指す修行者の集団における戒律を重視した。もともと釈迦の説いた五戒は「〜をしない習慣を身に着けよう」というものであり、禁止や命令ではない。戒は、それを守ろうとする自発的・自律的な誓いだった。しかし、仏教教団では、詳細な戒律を定めるようになり、部派仏教のいわゆる小乗戒は、比丘２５０戒、比丘尼３４８戒を数え、制約的・禁止的な性格を持つようになった。
こうした戒律がシナでは緩和された。儒教には、人間の本性を善とする性善説がある。シナの仏教はその影響を受けて、戒律もまた人間の善なる本性に照らして制約的・禁止的性格を改め、大乗戒を生んだ。菩薩戒ともいう。また、シナ仏教は教団の戒律よりも個人の自覚を重視し、自律自戒を尊んだ。
大乗戒は、日本でさらに簡略化された。日本仏教はその大乗戒が主になったが、シナでは大乗戒・小乗戒の二つの戒律を並行して保持し、その融合を図った。
�な�性を植物や無生物にも認める
インドで編纂された『涅槃経』は、「一切衆生悉有仏性」を説く。その仏性説は、対象を人間や動物を主としている。これに対し、シナでは、仏性を持つものを、植物や無生物にまで拡大した。これを「草木国土悉皆成仏」という。この変化は、シナ文明に固有の思想である天人一貫すなわち天の道と人の道は同根であり、道は万物を貫くという考え方に基づくものである。その思想から、万物は一体であるという共感が生じ、仏教の「草木国土悉皆成仏」に最も良く表現された。
�ダ�治的な価値観と合う部分のみが受容された
儒教は、政治を通じて国家・社会の安寧・秩序を目指す宗教である。儒教は、法家の思想を摂取し、政治倫理と法治体制を結合した。そうした宗教が、シナ文明の精神的中核となっているので、仏教はシナ人の政治的な価値観に合う部分のみが受容された。
東南アジア諸国やチベット及びその周辺国は、国家単位で仏教を受容した。現在も仏教国であり続けている国も多い。これに比べ、シナ文明の諸王朝・諸国家のごく一部を除いて、仏教を国教としなかった。これは、もともと高度な家族的・氏族的・政治的な倫理を説く儒教があったことによる。
�θ寝搬嘉�・反国家的な点が排撃された
インド仏教は、強固な輪廻転生思想により、個人の解脱を目標とし、家族を離れて出家することを原則とした。しかし、シナ文明は、家族が価値観の中心にあり、家族的道徳である孝が道徳の基礎となっている。儒教は先祖供養が高度化した宗教である。家族が存続し繁栄することが、人生の主要目的であり、死後の安心も子孫によって供養してもらえることにある。そうした家族重視のシナ社会で、仏教徒のように家族を捨てて出家することは、非常に不道徳的な行動となるため、仏教は排撃された。
これに対し、シナ仏教は、シナの家族重視の思想・制度と妥協し、家族制度との併存を図った。儒教の孝の理念を取り入れ、先祖供養を実行した。これは、仏教の儒教化である。
また、仏教の僧侶は兵役に就かない。仏教が尊重された時代には税金が免除された。そのような宗教に多くの者が入って出家すれば、国家が危なくなる。この点からも、シナ仏教は排撃された。
�Д轡癖�教から世界宗教へ
仏教は、シナ文明に伝来し、ここで聖典が漢訳された。それによって、仏教はシナ文明の周辺文明である漢字文化圏に広く伝播された。漢字文化圏とは、漢字で表現された制度・思想・文化等が伝播し、漢字またはそれをもとにした文字が使われている地域をいう。
仏教は、シナ文明において、種族・文化・慣習の違う諸民族の大衆の帰依を通じて、インド仏教とも儒教・道教とも違う新たな世界宗教に成長したと言える。この成長には、シナ文明では紙の使用が進んでおり、さらに印刷技術が発達したという技術的な条件もプラスに働いた。
次回に続く。
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