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2020年06月21日10:13

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世界コロナ危機をどう見るか4〜イアン・ブレマー1

●イアン・ブレマーのコロナ危機論

 米国の国際政治学者でコンサルティング会社ユーラシアグループ社長のイアン・ブレマーは、「G0(ゼロ)論」で知られる。G0論とは、現在の世界を有力な指導国のない世界ととらえるものである。ブレマーには『「Gゼロ」後の世界:主導国なき時代の勝者はだれか』『スーパーパワー:Gゼロ時代のアメリカの選択』『対立の世紀:グローバリズムの破綻』(日本経済新聞出版社)等の著書がある。
 ブレマーによると、米ソ冷戦終焉後の世界は、最初米国がリーダー役だったが、その後、主要先進国が協議に参加するG7、そこに新興国が加わったG20へとバトンをつないできた。だが、現在は、G7の個々の国にリーダー役を担う余裕がなくなり、G20も政治的・経済的な価値観が共有されていないために限界がある。そのため、リーダー役不在の状況となっている。このG0の世界で最も高い確率で起こり得るケースは、米中が対立し、米中以外の国々は地域限定的な強さを発揮するという地域分裂的な分断の世界である。米国は、リーダー役の限界を受け入れざるを得なくなり、米国の世界に対する貢献は再構築を迫られる、とブレマーは見ている。
 ブレマーは、昨年末、週刊ダイヤモンドの取材に応えて、今年(令和2年、2020年)の世界情勢を地政学的観点から次のように予想した。
 「米中関係はさらに悪化し得る上、世界経済のサイクルは弱体化の方向に転じており、米国の大統領選挙は深刻な問題を抱えている。こうしたひどい状況に人々が怒りを覚えても、各国政府に多くのツールは残されていない。よって、2020年はより危険な年になり得ます」
 彼がこのように語った時点では、まだ武漢ウイルスの世界的な感染拡大は始まっていなかった。より危険な年になると予想されると彼が予想していたところに、パンデミックが起こった。
 中国から武漢ウイルスの感染が世界各地に広がった後、ブレマーは、NHKテレビ、朝日新聞、産経新聞のインタヴューに応えた。
 4月11日に放送されたNHKのETV特集「緊急対談 パンデミックと世界 海外の知性が語る展望」では、ジャック・アタリ、ユヴァル・ノア・ハラリとともに登場し、G0論に基づく分析と予想を語った。4月29日付の朝日新聞は「新型コロナウイルスの感染拡大は、米国の国力低下と中国の台頭、さらには世界各地で分断が広がる中で起きている。パンデミックを経て、国際社会はどのように変化をするのか」をブレマーに尋ねたとして、彼の発言を載せた。5月11日付の産経新聞のシリーズ「コロナ 知は語る」の記事は、「米国と中国の対立が新型コロナウイルス感染拡大の責任をめぐり一段と激しくなっている。G7を構成する主要先進国が指導力を失い、G20も機能しなくなった『Gゼロ』という国際社会のリスクを警告してきた米国際政治学者のイアン・ブレマー氏は、双方の分断がさらに深まり、世界の『最大の脅威』になると懸念する」と紹介した。
 次に、NHK、朝日、産経による三つのインタヴューを、アタリの項目と同じ仕方で掲載する。

◆パンデミックの世界的な影響

―――「G0」の世界で経験する最初の危機について(NHK−ETV特集 2020.4.11)
「今回のパンデミックは『Gゼロ』の世界つまり指導者なき世界で私たちが経験する最初の危機です。その結果として、この危機に各国がバラバラに対応しています。協調性が欠けています。リーマンショック(ほそかわ註 2008年)や9・11(同註 2001年)の時は世界各国が米国のリーダーシップの下で団結しました。2020年の今、これまでで最も深刻な危機が発生しています。それなのにアメリカ国民は団結していません、世界も団結していません。G7の協調行動もありません。G20の協調もありません。経済的な打撃は大きな問題ですが、政治的な問題は更に大きいと思います」

――米中対立について(NHK−ETV特集 2020.4.11)
「更に米中の対立は激しさを増してきます。(略)(それによって起こる)分断は、地球規模の危機に対して大きな問題をもたらします。気候問題、サイバーセキュリティ、AIやバイオテクノロジーの倫理問題、民族主義、ポピュリズム。これらの問題に対して国際社会が協調できないのは深刻な状況を生むと思います」

――「Gゼロ」の世界がパンデミックに見舞われました(朝日新聞 2020.4.29)
「第2次大戦以来のグローバル危機です。(医療物資の)供給網、人やモノの移動の管理、ワクチン開発、経済刺激策などあらゆる面で国際連携がフル回転すべきです。なのに、だれもリーダーシップをとらない。G7もG20も機能しない。実に恐ろしいです」
「希望があるとすれば、世界経済を牽引する中国が再開しつつあることや、欧米のIT企業が危機下でも機能していることです。おかげで、在宅中も商品の宅配やサービスを享受でき、経済の完全停止を免れています」

ほそかわ
 ブレマーの見方の基本は、「G0」である。この見方が適当かどうかについては、後に私見を書く。

◆世界はどう変わるか

――新型コロナ危機で世界はどう変わるか(産経新聞 2020.5.11)
「グローバリゼーションは減速し、米中の経済圏が分断される『デカップリング』が深まる。分断はすでに先端技術のサプライチェーン(調達・供給網)で進み、今回の危機では医療品や医療用品を囲い込む動きが目立った。製造・サービス業に今後広がり、(消費地の近くで生産する)ローカリゼーションや(外部委託した業務を自社に戻す)インソーシングも進む。その結果、国や企業の生産性や成長率が低下する」
「米中は新型コロナの発生源をめぐり非難合戦を展開し、互いに信頼を欠く。経済の相互依存が弱まるにつれ、両国の対立は一段と厳しくなっていくはずであり、地政学的に最大の脅威になると懸念している」

◆パンデミックの克服と世界経済

――米国の一部の州では経済活動再開をめぐって論議が広がっています。(朝日新聞 2020.4.29)
「9・11の同時多発テロの教訓は、物事の一つの側面だけを見て判断してはならないことです。米国はあのとき、対テロに突っ走った結果、アフガニスタンで膨大なカネを費やすことになりました。今回、経済活動の休止による代償は甚大です。一方、経済活動を再開すれば感染が再び広がり、さらに人命が失われる危険があります。リーダーに問われるのは『どちらか』の選択ではなく、『トレードオフ(妥協点)』の見極めです」

ほそかわ
 ブレマーの指摘の通り、生命の尊重か経済の優先かは、どちらかを選ぶかの二者択一の選択ではない。各国の指導者には、そのバランスの見極めが求められている。
 なお、ブレマーが例示する2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件について、彼のとらえ方は表層的である。この事件には謎が多い。事件の真相を追及しないと、事件以後の世界を深くとらえることができない。私は、拙稿「9・11〜欺かれた世界、日本の活路」でこの事件について書いた。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12g.htm

――パンデミックを克服すれば、世界は元の繁栄に戻れるのでしょうか(朝日新聞 2020.4.29)。
「ワクチンの完成に1年半かかるとされます。それを世界中に届ける必要があります。接種のための啓発活動も必要です。経済が復興し、人々が安心して旅行できるようになるまで3年はかかるでしょう」
「ですが、それでも今までとは全く違う世界になります。物流は在庫を抑える『ジャスト・イン・タイム方式』から、危機に備えて在庫を確保する『ジャスト・イン・ケース方式』に転換する。経済活動は世界に広がるグローバル展開から、消費者に近いローカルなものに移行するでしょう。人の作業がなくても済むオートメーション(自動化)も進み、世界の経済人が将来のものとして予想していた第4次産業革命が一気に到来します」

――ー保護主義が強まることを心配しているか(産経新聞 2020.5.11)
「世界でマスクや防護服などの医療用品が足りず、(物資を自国で抱え込む)保護主義的な行動が見られた。ワクチンも仮に開発に成功すれば、その対象になりかねない。気候変動が深刻化し、(農産物が不作となって)各国が食糧の調達を競い合う事態も懸念される。保護主義的な傾向は感染の収束後も続き、加速する恐れがある。政治の機能不全や国際的な対立は、この問題を一層悪化させる要因となる」

ほそかわ
 ブレマーは、世界コロナ危機で生じる食糧問題に関して、気候変動の深刻化に触れている。食糧問題の専門家・柴田明夫(資源・食糧問題研究所)は、週刊エコノミスト2020.4.25号の「新型コロナでついに勃発!『世界同時多発食料危機』が自給率4割の日本を襲う」という記事で、新型コロナウィルスの感染拡大による農業生産への影響、移民労働者不足、港湾での荷役作業遅延、トラック運転手の敬遠等による輸出規制の動きが重なり、世界同時多発で食料連鎖危機が起きる懸念が出てきたことを述べている。
 食糧生産に対して、武漢ウイルスの感染拡大による影響に、気候変動の影響が重なる可能性は高い。気候変動の深刻化については、デイビッド・ウォレス=ウェルズの著書『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』(NHK出版)が、最新の研究やデータをもとに衝撃的な報告をしている。気候崩壊は、食糧生産だけでなく、人類の社会と文明の存続に関して、感染症のパンデミックより遥かに危険な重大問題である。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神〜新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

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