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2020年06月09日14:34

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武漢ウイルス対応を踏まえて、憲法に緊急事態条項を定める議論を〜百地章氏

 4月7日、安倍首相が緊急事態宣言を発出した。当初の対象地域は7都府県だったが、その後、全国に拡大した。5月25日に全面解除となったが、この間、具体的な緊急措置を行なったのは、各都道府県の知事だった。首相ではない。各自治体の事情が尊重される反面、全国一斉の統一的な措置をすることができない。
 わが国の緊急事態宣言は、名称は諸外国と同じだが、法的強制力がなく、要請や指示に従わなくとも罰則はないという緩やかなものである。この点、イタリア、フランス、米国等では買い出しなど一部を除いて外出や移動を原則禁止し、違反した場合は罰金を科すとした。カナダでは違反者に最大76万カナダドル(約5800万円)の罰金か禁錮6カ月を科すとした。インドでは13億人の国民を外出禁止とし、違反した場合は罰金だけでなく最大6カ月の拘束を行なうとした。
 わが国の緊急事態宣言が法的強制力を持たないのは、憲法に緊急事態条項がなく、緊急事態において私権を一時的に一定程度、制限し得ると定められていないからである。それゆえ、もしオーバーシュートが起こり、感染者・死者が爆発的に増加してしまったら、欧米諸国がやってきたような厳しい措置が出来ず、収拾がつかなくなってしまうおそれがある。
 憲法学者の百地章氏は、産経新聞令和2年3月27日付に「武漢ウイルス、特措法で大丈夫か」と題した記事を書いた。
 わが国で、武漢ウイルスを「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(平成24年)の対象に加えるための改正法は3月13日に成立した。百地氏は、改正特措法の内容についえて、私権(財産権などの私法上の権利)の制限に当たる緊急措置は、次の通りだと説明する。

 「特措法によれば、新型ウイルス感染が国内で発生し、全国的かつ急速な蔓延(まんえん)によって国民生活と国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある場合、首相が『緊急事態宣言』を行い(32条1項)、蔓延防止のため知事は以下のような権限を行使できる。

・みだりに外出しないなど、感染防止に必要な協力を『要請』(45条1項)
・学校、社会福祉施設、興行場等に対し使用制限や停止等の措置を講ずるよう『要請』し(同条2項)、正当な理由がないのに応じない時は措置を講ずるよう『指示』(同条3項)
・臨時の医療施設を開設するため土地、家屋、物資を使用する必要があるときは、『所有者の同意』を得て、土地等を使用(49条1項)。正当な理由がなく同意が得られないときは、同意なしに利用(同条2項)
・緊急事態措置の実施に必要な医薬品、食品などの物資で、販売、輸送業者等が取り扱うものについて、その所有者に『売渡し』を『要請』(55条1項)。正当な理由がないのに要請に応じないときは収用(同条2項)
・必要物資の収用のための立ち入りや検査(72条)
・緊急の必要があるときは、それらの物資の生産、販売、輸送業者らに保管を命じ(55条3項)命令に従わず物資を隠匿などした者に6月以下の懲役または30万円以下の罰金(76条)
・国会が集会できない時は、内閣が金銭債務の支払い延期等のための政令を制定(58条1項)」

 これらが、私権の制限に当たる緊急措置に当たる事柄である。百地氏は、「大部分が『命令』ではなく『要請』や『指示』にとどまり、強制力はない。また必要物資の保管命令に従わない場合の『罰則』も、物資を隠匿したりした場合に限られている」と解説する。
 百地氏は、「危機管理の要諦は『想定外の事態』にも対処できるようにしておくことであるといわれる。しかし、武漢ウイルスのパンデミックによる緊急事態は、想定外どころかいわば目の前で起こっている危機であり、いつ日本で爆発的感染が発生するかもわからない。にもかかわらず、わが国の特措法ではそのような本当の緊急事態に効果的に対処する方法を定めていない。それゆえ、万一イタリアのように感染の爆発的拡大や医療崩壊が生じたら大変なことになろう」と懸念を述べている。そして、「国会はさらに実効性のある法制度を検討するとともに、憲法の中に法律上の緊急措置を担保するための緊急事態条項を定めるよう、活発な論議を始めるべきだ」と主張している。
 私は、憲法に緊急事態条項を定めることに賛成であり、そのことを20数年前から一貫して主張している。
 百地氏は、「憲法は、国民のすべての権利・自由が『公共の福祉』によって制限されうることを明記し(12条、13条、22条、29条)、民法も冒頭で『私権は、公共の福祉に適合しなければならない』(1条1項)と明言している。にもかかわらずそのことを忘れ、『私権』を絶対視するかのような言説が目立つ。これでは真の緊急事態において、国が国民の命と健康を守ることはできない」と指摘している。全くその通りである。現行憲法は、個人の権利の保障に厚い反面、個人の義務が少なく、個人の自由を尊重する反面、個人の責任を軽視している。そのために、緊急事態において公共の利益を守るために私権の制限をすることができず、多くの尊い人命が失われたり、大切な財産が失われたならば、取り返しがつかない。自分のためは、みんなのため、みんなのためは自分のためなのである。国民はそのことをよく考える必要があると思う。その点は、ほそかわ憲法私案に私見を書いている。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08h.htm
 武漢ウイルスの感染拡大は、第二波、第三波がいつ起こっても不思議ではない。今回の経験を踏まえて、憲法に感染症対応を含む緊急事態条項を新設すべきである。
 以下は、百地氏の記事の全文。

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●産経新聞 令和2年3月27日

武漢ウイルス、特措法で大丈夫か 国士舘大学特任教授、日本大学名誉教授・百地章
2020.3.27

 中国・武漢発の新型ウイルスの感染者と死亡者は世界的規模で拡大しており、欧米各国も相次いで緊急事態宣言を行ったり、厳しい緊急措置を取りだした。
 わが国でも、武漢ウイルスを「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(平成24年)の対象に加えるための改正法が3月13日成立した。ところがこの平成24年特措法の定める「緊急事態宣言」や緊急措置に対しては、警戒する声や私権制限への批判が少なくない。

≪特措法は第一歩にすぎない≫
 特措法によれば、新型ウイルス感染が国内で発生し、全国的かつ急速な蔓延(まんえん)によって国民生活と国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある場合、首相が「緊急事態宣言」を行い(32条1項)、蔓延防止のため知事は以下のような権限を行使できる。

・みだりに外出しないなど、感染防止に必要な協力を「要請」(45条1項)
・学校、社会福祉施設、興行場等に対し使用制限や停止等の措置を講ずるよう「要請」し(同条2項)、正当な理由がないのに応じない時は措置を講ずるよう「指示」(同条3項)
・臨時の医療施設を開設するため土地、家屋、物資を使用する必要があるときは、「所有者の同意」を得て、土地等を使用(49条1項)。正当な理由がなく同意が得られないときは、同意なしに利用(同条2項)
・緊急事態措置の実施に必要な医薬品、食品などの物資で、販売、輸送業者等が取り扱うものについて、その所有者に「売渡し」を「要請」(55条1項)。正当な理由がないのに要請に応じないときは収用(同条2項)
・必要物資の収用のための立ち入りや検査(72条)
・緊急の必要があるときは、それらの物資の生産、販売、輸送業者らに保管を命じ(55条3項)命令に従わず物資を隠匿などした者に6月以下の懲役または30万円以下の罰金(76条)
・国会が集会できない時は、内閣が金銭債務の支払い延期等のための政令を制定(58条1項)

≪万一爆発的感染が生じたら≫
 私権(財産権などの私法上の権利)の制限に当たる緊急措置はこの通りだ。つまり、大部分が「命令」ではなく「要請」や「指示」にとどまり、強制力はない。また必要物資の保管命令に従わない場合の「罰則」も、物資を隠匿したりした場合に限られている。
 「緊急事態宣言」は国民に警戒を呼び掛けると共に、国が責任をもって国民の生命や健康を守るとの決意表明ともいえよう。しかも緊急措置を行うのは首相ではなく知事である。にもかかわらず、国民の命と健康を守るための一時的な「私権制限」さえ危険視し、3月14日の安倍晋三首相の記者会見では、宣言によって私権が制限され、やがて「安倍独裁」に繋(つな)がらないかなどという質問まで出た。
 幸い、政府による大規模イベントの自粛や全国の小中高校の一斉休校要請などによって、現在、わが国では感染の拡大は抑制されている。しかし、専門家会議は予断を許さないという。
 感染の爆発的な拡大や医療崩壊は世界的に発生しており、中国と違って人権の手厚く保障されている欧米各国でさえ、国民の外出や移動の禁止、商店の閉鎖などを次々と行い始めた。
 フランスでは買い物などを除き全土で国民の外出を禁止し、移動のための通行証まで発行しだした。米国ではトランプ大統領が国家非常事態を宣言し、カリフォルニア州では実質的な外出禁止令が出された。英国も、全国の学校を閉鎖している。中国を超える死者を出したイタリアでも3月10日から国内全域で移動制限を行い、理由なく外出した者に罰金まで科している。また、商業活動も大幅に制限されるようになった。

≪憲法にも緊急事態条項を≫
 危機管理の要諦は「想定外の事態」にも対処できるようにしておくことであるといわれる。しかし、武漢ウイルスのパンデミックによる緊急事態は、想定外どころかいわば目の前で起こっている危機であり、いつ日本で爆発的感染が発生するかもわからない。
 にもかかわらず、わが国の特措法ではそのような本当の緊急事態に効果的に対処する方法を定めていない。
 それゆえ、万一イタリアのように感染の爆発的拡大や医療崩壊が生じたら大変なことになろう。
 憲法は、国民のすべての権利・自由が「公共の福祉」によって制限されうることを明記し(12条、13条、22条、29条)、民法も冒頭で「私権は、公共の福祉に適合しなければならない」(1条1項)と明言している。にもかかわらずそのことを忘れ、「私権」を絶対視するかのような言説が目立つ。これでは真の緊急事態において、国が国民の命と健康を守ることはできない。
 国会はさらに実効性のある法制度を検討するとともに、憲法の中に法律上の緊急措置を担保するための緊急事態条項を定めるよう、活発な論議を始めるべきだ。(ももち あきら)
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