１枚目 ピルグリム・ファーザーズ
２枚目 洗礼を受けるポカホンタス（合衆国議会）
３枚目 ルイザが若草物語を執筆したオーチャード・ハウス（コンコード）
著者は1956年生。東京外語大学卒業。エッセイスト、作家。
１）全体の構成
本書は家族を連れての若草物語の舞台となったコンコードへの旅から始まって、若草物語を構成する、ルイザの父で教育学者のブロンソン・オルコット、彼の盟友で思想家ラルフ・エマーソンとヘンリー・ソローたちとルイザとの関係を一方に置き、もう一方には母アヴィゲイルと四人の姉妹との関係を明らかにしたものである。
さらに父ブロンソンやエマーソンの思想に与えたヴァージニア、ペンシルヴァニアを中心としたクエーカー教徒の宗教とそれに対照的なボストンやコンコードの清教徒の暗い影を、南北戦争に絡めて分析している。
２）骨格としての超越主義思想
独立戦争に勝利したアメリカは産業化都市化が進み、それまでの自然に囲まれた生活が失われていった。エマーソンは「直観によって真理を把握し、神的、霊的なものと直接結びあうことを目指す」超越主義思想の理念を構想して、その普及運動を始めていた。この思想はカント哲学や東洋的アニミズムやブロンソンが紹介したクエーカー教徒の思想に影響されたものとのことで、教義ではなく心の中のある神と対話する敬虔主義（ドイツやスイスで盛んになり、「ハイジ」のヨハンナ・シュピリ一族の宗教でもあった）に似た思想だと思える。本来のプロテスタントの思想を純化して行ったものと考えられる。
ブロンソンはコネチカットの貧しい農家出身であるが、農作業になじめずヴァージニアへの行商人となって、そこで出会ったクエーカー教徒の生活習慣に感銘を受ける。さらにキリスト教の三位一体説から離れたユニテリアン（イエスは神でなく人間だとする）でもあった。
そして独学で教育学者となって、故郷で小学校の教師になった。彼の教育学の基本にはクエーカー教徒の「心の内なる者」を輝かせること、またペスタロッチの「子供の心を開いて、それぞれの子供が持っている個性と能力を引き出し、温かく育ててやること」を目指したものである。つまり当時の鞭を使った厳しいしつけに真っ向から反対したもので、今ではこちらが普通になっている。多分、黒柳徹子のトモエ学園のようなものだったのだろう。
ところがブロンソンは預かった子供たちの親の考え方に一切妥協しなかった。性教育を始めたりして当時としては自由主義的な親たちの顰蹙を買い学校は破綻した。
彼はさらに、「超越主義思想」仲間による新しい村「フルーツランズ」を始めた。ルイザ10歳の時だったが、何しろ思索中心で（ソローの「ウオーデン」と同じ）あまり働かないので、収穫も少なく冬に至って行き詰ってしまった。そもそもブロンソン自体が必要なものは神がくれるという信念の持ち主だった。なお、有島武郎や武者小路実篤の「新しい村」もこの超越主義思想に基づいている。
以上のような超越主義思想が「若草物語 little women」の枠組みになっているのである。
小説の第１巻自体には、父は登場せず、母と四人姉妹に隣のローレンス一家が主要人物で、今も評価されているのは当時のプロテスタントの少女―婦人の生活が生き生きと描かれているからであろう。
なお、ローレンス氏のモデルはエマーソンで、息子（孫だったか）のローリーのモデルは、ルイザが裕福な家庭の少女に付き添ってのヨーロッパ旅行で出会った青年と、ルイザにとっておじさんか兄のようだったエマーソンの弟子ヘンリー・ソローだと著者は推定している。
「若草物語」が大ベストセラーとなって、失意の中で逼塞していた父ブロンソンも再評価されたわけだが、ブロンソン氏は講演で、ジョーはローリーと結婚すべきと述べたそうである。しかし、ルイザは従わなかった。小説内で、ジョーはベスの相手と考えて身を引いたのであるが、ローリーはかわいいエイミを選んでしまった。それにベスも結婚を望んでいなかったのである。
☆海風：この件をボーボアール「第二の性」も不審として、自立しようとするジョーには好青年の相手がいなかった。あるいは遠慮せざるをえなかったのだと結論付けた。
で、ジョーは２巻の終わりで、妹ベスを失った虚しさの中でかなり変人のベア教授と出会い、３巻目（２巻だったか？）で結婚することになる。著者はこのベア教授が父ブロンソンであり、３巻と４巻は二人による学校教育に充てられている。父は教育実践では失敗したのだが小説ではルイザの協力で成功させたわけである。
ということで、著者は１、２巻は苦労して育ててくれた母への感謝、３、４巻が生活者としては破綻していた父の思想信念へのオマージュだったとするのである。
２）アメリカの二大潮流
アメリカを作ったのはピルグリム・ファーザーズだとばかり思い込んでいたが、それは一つであって、もう一つがヴァージニアに植民したクエーカー教徒だったとは初めて気づかされた。
メイフラワー号のピルグリム・ファーザーズ（清教徒ピューリタン会衆派）のコンコード、ボストン入植者（1620年）１０２名のうち半数がその冬に死亡したことは良く知られている。それをWASP（white,angro/saxon,puritan）と言うのだと解釈していたのである。
著者によれば、現地人インディアンにトウモロコシ栽培を教えられ生き延びたのだとか。
しかし、宗教的な専制政治であって（今のイスラム諸国のように）、その緊張感からある少女が魔女がいると告発し、それがもとで次々に告発されて結局、セイレムで２５名ほどが処刑、獄死、発狂するという凄惨な魔女裁判が行われた。
その暗鬱な宗教（会衆派）専制政治による生活を描いたのが超越主義思想家だったホーソン「緋文字」だとのことである。「緋文字Ａ」は不倫した者が自身の胸につける印だった。牧師と不倫した女性はそのマークを付けて罪人としての生涯を送ったのである。
一方、同じく清教徒から派生したクエーカー教徒はピルグリム・ファーザーズより少し早くヴァージニア（1607年入植）した。そして、冬になって104人のうち半数が死亡しインディアンにトウモロコシ栽培を教えられた。クエーカーはコンコードなどニューイングランドの会衆派と違って宗教的に寛容で他の宗派の移住も許していた。その教えはウィリアム・ペンによって後にペンシルヴァニアとなる隣の州にも広められている。
もう一つは現地人と友好関係が作れたということである。ポーハタン族酋長の娘ポカホンタス（これはお転婆という意味のあだ名とのこと）はインディアンと白人との紛争を調停し、白人の青年ジョン・ロルフと結婚した。（なお、彼女の子孫としてレーガン大統領のナンシー夫人、天文学者ローウェル、ジョン・マケイン議員などでアメリカ屈指の名家の一つとされている）そのロルフはインディアンからタバコ栽培を学んで大農場を作って成功した。その労働力が黒人奴隷だったのである。
ヴァージニアの光と影だった。
独立後は、ヴァージニア出身の大統領が続いて俗にヴァージニア王朝とまで呼ばれたが、南北戦争で破たんしたわけである。しかし、アメリカ合衆国憲法は宗教的寛容の思想によってつくられたのである。
☆海風：まとめ
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彼の教育思想は今に通じるリベラルなもので、生徒との対話を通じて考える力を養うというものらしい。必要な知識は必要な時に学べばよい。その学ぶ力を教える。それも本来備わっている自発的な力を養って、ということである。
一方、生活の方は天命に従って生きていれば、それは彼の場合教育者と言うことなのだが、必要なものは神から与えられる、とする信仰である。実際、貧しい少年時代だったので貧乏は苦にならなかったらしいが、夫人や娘たちはそうはいかない。
そういうわけで、小説冒頭は「プレゼントのないクリスマスなんて考えられない」と不満を漏らす娘たちの声から始まるのである。もっともベスは「それでもお母さまがいてくれるから」（父の牧師は南北戦争の従軍牧師になって不在）と言って、他の三人を恥じ入らせることになっている。
となれば、ベスが父の信仰の理解者だと言うことになる。
ジョーは違っていて、自分の小説でみんなを安楽にして見せる、父には学校を、と宣言するのである。ブロンソン氏と違って現実的なのである。ただ、小説というのは女には稼げるような職業がなかったからで、自分が男だったらというのがジョーの見果てぬ夢だった。
ということで、リバラルな教育家にして、現実生活の信仰原理主義者とでも名付けるしかない、いわばスフィンクスのような存在だったと言わねばならない。
そもそも農作業が嫌いなのに、集団農場などと無謀なことなのだが、そこが原理主義なのだろう。信仰があればエデンの園になるとでも思ったのだろうか？
これではウェーバーの「資本主義の精神とプロテスタンティズムの倫理」は成り立たない。彼はブロンソンやソローを知らなかったのだろう。
�▲�ーパー「モヒカン族の最後」（the last of mohawk 「最後のモヒカン族」が正しいとのこと）のこと
些細なことだが、トウモロコシをインディアンに教えられたとあるところでオヤッと思ったのである。トウモロコシはマヤやインカが原産地だと思っていたのだが、ウィキによればコロンブスの時には南北大陸で主穀だった。コロンブスはカリブ海の諸島で発見して欧州に持ち帰るや急速に広がっていったとのことである。
ただ、移住者たちが知らなかっただけのようだ。どうも信仰のことばかりでアメリカ現地でどう生きるのかまでは考えていなかった疑いがある。
「モヒカン族」では最後まで戦っていたモヒカン族の青年が降伏して、白人からこれで狩猟ができなくても生きていけるとしてトウモロコシ栽培を教えられることになっていたのである。子供の頃映画で見て、最後のトウモロコシの芽が出て育っていく場面だけを覚えていたのだが。クーパーは何か勘違いしていたのか。それとも青年が戦士は農民ではないと突っ張っていただけなのか？
�２な討僚ゞ技�情は不可解
赤毛のアンでは長老派（アンの養母マリラなど）とメソジスト派は仲が良くなかった。それが子供たちにも波及していたのである。で、私もメソジストって嫌われるのかと思っていたが、ある時注をみると訳者の村岡花子がメソジスト派は立派な宗教家が設立した教えと書いてあったので、いささか不審だった。小説と違うじゃないかと。
ところが朝ドラ「花子とアン」を見て、村岡花子が奨学生となっていた東洋英和女学校はカナダのメソジストが設立したものだったこと、それでウィキを見ると今や長老派とメソジスト派は統合したとのことで驚いた次第である。
今回調べたクエーカー教徒はその長老派に嫌われていて、ニューイングランド諸州に立ち入ることはできなかったそうである。
一方、寛容だとされるクエーカーはヴァージニアにアーミッシュを受け入れている。
私は映画でしか知らないが、「刑事ジョン・ブック目撃者」ではアーミッシュの少年が犯罪現場を目撃してギャングに狙われるのを刑事が守っていることで、少年の母の未亡人と淡い恋が生じるのだが、しかしあまりにも孤立した社会にいるアーミッシュとの結婚をあきらめるというものだった。
日本では最近世界遺産になった隠れキリシタンの教会があるが、今の説によればむしろ仏教と和解して生き延びたとのことである。だからまったくの秘密結社ではなかったというのである。
他には、他の仏教宗派と仲の悪い日蓮諸宗派ぐらいしか思いつかない。
ここに一神教と多神教の違いがあるのだろう。
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