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2018年03月11日08:48

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宗教7〜宗教と道徳・法

●宗教と道徳・法

 宗教の社会的な機能の一つに、集団に規範を与える働きがある。人間は、生物的存在として生存・繁栄していくため、また文化的存在として文化を継承・発展させるために、集団生活を営む。集団生活には、社会的な秩序が必要である。秩序とは、物事の規則だった関係である。社会的な秩序を維持するためには、何らかの決まりごとがなければならない。決まりごとがあることによって、集団の成員に「してよいこと」「してはならないこと」「なすべきこと」「なすべきでないこと」等の認識が共有される。
 決まりごとには、行為や判断や評価を行う際の基準が必要である。それを規範という。規範には、集団的なものと個人的なものがある。集団的な規範を、社会規範という。社会規範は、集団において共同生活を行うため、成員が行為・判断・評価を行う際の基準として共有されている思想である。個人規範は、これをもとに集団の中で個人が自らに対して定めるものである。
 社会規範を示す主なものには、習俗・神話・宗教・道徳・法がある。これらのうち、習俗は最も広い概念であり、ある社会で昔から伝わっている風習や、習慣となった生活様式、ならわしをいう。神話は、宇宙の始まり、神々の出現、人類の誕生、文化の起源等を象徴的な表現で語る物語である。象徴的な思考によって、それを生み出した人々の世界観、人間観、実在観を表している。人間は、神話によって、世界の成り立ちや人間の由来や生きることの意味等を考え、理解し、継承してきた。また神話は、その世界で生きていくための規範を示すものともなっていた。
 神話においては、宗教・道徳・法は未分化であり、それらが分かれる前の思考が象徴的な形式で表現されている。しかし、その思考には、独自の論理が見られる。神話は、共同体の祭儀において、人類の遠い記憶を呼び覚まし、人間の自己認識と生きることの意味を確認するものでもあった。
 習俗や神話には、祖先から受け継がれてきた規範が含まれており、それが社会に秩序を与えてきた。宗教は、習俗や神話をもとにして、人間の力や自然の力を超えた力や存在に対する信仰と、それに伴う教義、儀礼、制度、組織が発達したものをいう。宗教の中心となるのは、人間を超えたもの、霊、神、仏、理法、原理等の超越的な力や存在の観念である。その観念をもとにした思想や集団的な感情や体験が、教義や儀礼で表現され、また生活の中で確認・再現・追体験されるのが、宗教的な活動である。宗教は、社会を統合する機能を持ち、集団に規範を与えるとともに、個人を人格的成長に導き、心霊的救済を与える。宗教は、また社会を発展させる駆動力ともなる。国家の形成や拡張を促進し、諸民族・諸国家にまたがる文明の中核ともなる。
 宗教から超越的な要素をなくすか、または薄くすると、道徳となる。道徳は、集団の成員の判断・行動を方向づけ、また規制する社会規範の体系である。善悪の判断や行動の可否の基準を示すものである。道徳のうち、制裁を伴う命令・禁止を表すものが、法である。法は、集団の成員に一定の行為を命じるか、禁じるかし、これに違反したときには制裁を課する決まりごとの体系をいう。法は、成員の間で争いが起こった時は、裁定の基準ともなる。
 近代西欧以前及び以外の多くの社会では、宗教は道徳や法をそのうちに含むものだった。古代のローマ文明やシナ文明では、宗教からある程度自立した道徳思想や法の体系が発達したが、人類史全体では数少ない事例である。近代西欧で初めて宗教から道徳や法が明確に分離し、独自性を持つようになった。
 ただし、近代西欧においても、道徳・法が完全に宗教から自立したのではない。道徳や法が示す社会の規範の根底には、ユダヤ=キリスト教の教義や観念があり、根拠を突き詰めると、そこに帰着する。
 非西欧では、宗教の内に道徳と法を含んだ社会規範を保っている社会が、今日も多く存在する。イスラーム教やヒンドゥー教はその典型である。そして、超越的な力や存在の観念を堅持し、それを中心とした社会規範を保ちながら、近代化を進めている文明が複数存在する。近代西欧における宗教・道徳・法の分離形態は、非西欧社会で広く承認された形態ではない。

 次回に続く。
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