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2017年10月04日09:40

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ユダヤ110〜レヴィ=ストロース、構造主義、その後

●レヴィ=ストロースと構造主義の論者たち

 1960年代から80年代にかけてフランスを中心に流行した構造主義は、幅広く人類学・哲学・経済学・精神医学等に及ぶ思潮だった。ここでもユダヤ人が活躍した。
 構造主義は、歴史よりも構造を、実体ないし主体よりも関係ないしシステムを一義的なものと見る。その始祖とされるのは、社会人類学者・民族学者のレヴィ=ストロースである。彼は、1908年に、アルザス出身のユダヤ人を両親として、ベルギーのブリュッセルで生まれた。
 レヴィ=ストロースは、フェルディナン・ド・ソシュールからロマン・ヤコブセンに至る構造言語学の音韻論や、数学・情報理論等の新しい方法に示唆を得て、未開社会の親族構造や神話の研究に、構造分析の方法を導入した。社会的事象は象徴的コミュニケーションのシステムであるとし、構造分析によって従来の理解とは異なる見方を提示した。それゆえ、彼の人類学は、構造人類学と称する。
 1962年(昭和37年)に発表された『野生の思考』は、大きな反響を巻き起こし、そこから構造主義が始まった。本書の最終章「歴史と弁証法」において、レヴィ=ストロースは、実存主義と西洋中心主義を批判した。まずサルトルの実存主義における主体の偏重を指摘し、主体ではなく主体間の構造こそが重要だと主張した。主体の偏重は、近代西欧的な人間中心主義(ヒューマニズム)の表れであるとして、はそれへの反省を迫った。また、西洋社会における西洋中心主義を指摘し、「野蛮」から洗練された秩序が形作られたとする西洋的な考え方に対し、混沌の象徴と結びつけられた「未開社会」の考え方にも、一定の秩序・構造が見いだせると論じた。各民族にはそれぞれ独自の構造があり、西洋人の側からそれらの構造に優劣をつけることは無意味だと断じた。
 レヴィ=ストロースの主張から、実存主義に対立し、それを乗り越えるものとしての構造主義という思潮が生まれた。彼に続いて、様々な論者がそれぞれの分野で構造分析を行った。
 哲学者で批評家のロラン・バルトは、流行の世界に構造分析を加え、社会的経験を記号としてとらえてその神話的構造を明るみに出す記号学的探究を行った。
 哲学者のミシェル・フーコーは、文化的基層と認識理論に構造論的視野を切り開いた。一つの時代の文化の根底にある知のシステムであるエピステーメーを解明する知の考古学をめざし、主体なき思考のシステムを解析するエピステモロジー(認識理論)を探求した。フーコーは、常に権力に真の関心を持ち、権力のミクロ分析を提唱した。フーコーの権力論は、共産主義やフェミニズムに人権の観念を利用する左翼の人権主義に取り入れられてきた。詳しくは、拙稿「人権――その起源と目標」第3章で述べた。
 精神科医で精神分析家のジャック・ラカンは、ユダヤ人だった。無意識の領野で構造論的研究を行った。無意識を言語によって構造化されたものと理解し、フロイト学派における自我概念を再検討し、精神分析の思想的含意を問題化した。
 哲学者のルイ・アルチュセールも、ユダヤ人だった。マルクス主義における理論的実践の構造の解明に取り組み、マルクスの新しい理解の仕方を提示した。史的唯物論とは、ある社会を、その歴史的変容に即して分析する、ひとつの科学に他ならないと主張し、マルクス主義を歴史の「科学」として再構成して延命させようとした。しかし、その目論見は結局、ソ連の崩壊という歴史的な現実によって、水泡に帰した。
 バルト、フーコー、ラカン、アルチュセールらの著作が一斉に刊行されたのは、1965年(昭和40年)前後だった。どれもレヴィ=ストロースによる実存主義と西洋中心主義への批判を受けて、近代西欧思想の諸前提を再検討する取り組みだった。それは、同時に人間中心主義、合理主義、実証主義、歴史主義等の乗り越えを図る運動だった。

●ポスト構造主義の時代から今日へ

 1980年代以降、構造主義の時代以後のフランスの思潮を、しばしばポスト構造主義という。これは構造主義の継承と克服を図る思想の総称であって、ポスト構造主義という新たな主義が生まれたのではない。ここでもユダヤ人――哲学者のジル・ドゥルーズ、ジャック・デリダ、文学評論家のジュリア・クリスティヴァら――がフランスの論壇をリードしてきた。彼らの思想は、構造主義がなお抱えていた実体主義的・形而上学的傾向からの脱却を目指すものと言われる。だが、新奇な概念が多用されて難解であると同時に、実存主義・構造主義のように異文化の社会に伝播していく浸透力を欠く。フェミニズム、マイノリティ等への訴求が特徴的であり、フーコー権力論の影響が顕著である。
 21世紀の今日のフランスでは、エマヌエル・トッドとジャック・アタリという二人のユダヤ人が、現代ヨーロッパ最高の知性に数えられている。彼らについては、別途、現代ユダヤ人の諸思想についての項目に書く。

 次回に続く。

関連掲示
・フーコーの権力論については、拙稿「人権――その起源と目標」の第3章を参照のこと。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13i.htm
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