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2017年01月19日09:30

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ユダヤ的価値観の超克〜新文明創造のために1

●はじめに

 人類は今日、核戦争による自滅と地球環境の破壊による生存の危機に直面している。未曾有の危機を解決するには、現代の世界を覆っている近代西洋文明の欠陥を是正し、その弊害を除去しなければならない。そして、人類が互いに共存共栄でき、自然と調和できる新しい文明を創造する必要がある。そのためには、東洋の精神文化が興隆し、物心両面のバランスを実現することが切望される。とりわけ日本の精神文化に、人類の文明を物心調和・共存共栄の文明へと導く可能性がある。
 このように考える者として、私は日本精神の実践・究明・啓発に努める傍ら、近代西洋文明の歴史を振り返り、その欠陥・弊害の原因を追究してきた。その過程で、近代西洋文明におけるユダヤ人・ユダヤ教・ユダヤ文明の影響の大きさを認識した。そして、「近代西洋文明において、ユダヤ人はどういう役割を果してきたか」「現代世界においてユダヤ的な価値観はどういう影響を及ぼしているか」「それを超克するため何をなすべきか」という問いを問い続けてきた。
 この問題を解明するには、人類の文明、近代西洋文明の特質、ユダヤ人の歴史と文化、移民問題、人権、宗教、精神文化等についての考察が必要である。そこで、まず「人類史に対する文明学の見方」(平成17年、2005年)を始めとして文明学に関する拙稿を書いた。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09a.htm
 そのうえで、上記の問いに関する準備的な考察を行った。それが、「西欧発の文明と人類の歴史」(平成20年、2008年)、その続編としての「現代の眺望と人類の課題」及び「現代世界の支配構造とアメリカの衰退」(平成21年、2009年)である。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09e.htm
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09f.htm
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09k.htm
 次に、移民と人権の問題を検討する必要を感じ、「トッドの移民論と日本の移民問題」(平成24年、2012年)及び「人権――その起源と目標」(平成28年、2016年)を書いた。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09i.htm
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion03i.htm
 これらにおいて、ユダヤ人の歴史と文化、自由と権利等について書いた。また、この間に書いた文明学や国際関係・国際経済・宗教と精神文化等に関する著述においても、しばしば関連することを述べた。
 こうした拙稿における考察を踏まえて、ようやくユダヤの宗教・民族・文明について主題的に書く段に至った。
 近代西洋文明は、ギリシャ=ローマ文明、ユダヤ=キリスト教、ゲルマン民族の文化という三つの要素が融合してその骨格が出来上がった。それらのうち、ユダヤ=キリスト教が文明の宗教的な中核になっている。特にユダヤ教に基づく価値観が文明を強く性格づけており、近代西洋文明の欠陥・弊害のかなりの部分はユダヤ的価値観によっている、と私は考える。
 ユダヤ的価値観とは、ユダヤ教の教えに基づいて発達した価値観であり、近代西洋文明に浸透し、全世界的に普及しつつある物質中心・金銭中心の考え方、自己中心、対立・闘争の論理、自然の管理・支配の思想である。人類が未曾有の危機を乗り越えて、この地球に物心調和・共存共栄の新文明を創造するには、ユダヤ的価値観の超克が必要不可欠の課題である。
 本稿の目的は、人類新文明の創造のためにユダヤ的価値観の超克を図ることである。最初にユダヤ教とユダヤ人の概要を書き、続いてユダヤの宗教・民族・文明の歴史を書く。そして、最後に現代世界に浸透しているユダヤ的価値観をいかに超克するかについて述べる。ブログとMIXIへの連載は、150回程度を予定している。
 なお、本稿における聖書の引用は、日本聖書協会の新共同訳による。

●宗教の定義

 ユダヤ教は、現存する世界の諸宗教の中で、最も古く歴史をさかのぼることのできる宗教の一つである。ユダヤ教とはどのような宗教か。そのことを述べるに当たり、最初に宗教とは何かということから始めたい。
 漢字単語の「宗教」という言葉は、西欧言語の英語・独語・仏語のreligionの訳語として作られた言葉である。religion は、ラテン語のreligio に由来する。religio は「再び(re)」「結びつける(ligio)」を意味する。漢字単語の「宗教」は、もともと仏教において「宗の教え」つまり究極の原理や真理を意味する「宗」に関する「教え」を意味していた。その「宗教」の語が、幕末期に西洋言語のreligion等の訳語として、今日のような宗教一般をさす語として採用され、明治初期に広まり、現在に至っている。
 宗教の定義は、多くの宗教学者・宗教研究者によって試みられてきた。それらを簡単に集約すれば、宗教とは、人間の力や自然の力を超えた力や存在に対する信仰と、それに伴う教義、儀礼、制度、組織が発達したものをいう。宗教の中心となるのは、人間を超えたもの、霊、神、仏、理法、原理等の超越的な力や存在の観念である。その観念をもとにした思想や集団的な感情や体験が、教義や儀礼で表現され、また生活の中で確認・再現・追体験されるのが、宗教的な活動である。宗教は、社会を統合する機能を持ち、集団に規範を与える。また社会を発展させる駆動力ともなる。国家の形成や拡張を促進し、諸民族・諸国家にまたがる文明の中核ともなる。同時に、個人を人格的成長に導き、心霊的救済を与えるものでもある。
 今日宗教と呼ばれるものの多くは、古代に発生し、幾千年の年月に渡って継承され、発展してきたものである。それらの宗教には、その宗教を生み出した社会の持つ習俗・神話・道徳・法が含まれている。
 習俗とは、ある社会で昔から伝わっている風習や、習慣となった生活様式、ならわしをいう。その起源はきわめて古く、人類諸社会の文化の発生と同時に生じたものが、世代から世代へと継承され、伝統を形作ってきている。習俗の一部は、その社会で伝承されてきた神話で語られる物語に起源を持つ。
 神話は、宇宙の始まり、神々の出現、人類の誕生、文化の起源等を象徴的な表現で語る物語である。一つの世界観の表現であり、またその世界で生きていくための規範が表現されている。神話は、共同体の祭儀において、人類の遠い記憶を呼び覚まし、人間の自己認識、世界の成り立ち、そして生きることの意味を確認するものだった。神話においては、宗教・道徳・法は未分化であり、それらが分かれる前の思考が象徴的な形式で表現されている。その思考は、不合理のようでいて独自の論理が見られる。
 宗教は、こうした習俗や神話をもとにしながら、人間の力や自然の力を超えた力や存在に対する信仰と、それに伴う教義、儀礼、制度、組織が発達したものをいう。
 宗教から人間の力や自然の力を超えた超越的な要素をなくすか、または薄くすれば、道徳となる。道徳は、集団の成員の判断・行動を方向づけ、また規制する社会規範の体系である。善悪の判断や行動の可否の基準を示すものである。道徳のうち、制裁を伴う命令・禁止を表すものが、法である。法は、集団の成員に一定の行為を命じるか、禁じるかし、これに違反したときには制裁を課する決まりごとの体系をいう。
 宗教は、習俗・神話とともに道徳・法を含むものであり、これらを抽出して完全に分離することはできない。宗教はまた生活の知恵や技術、制度、芸術をも中に含む。現代においては、宗教と無関係であり、むしろ対立するものと考えられる傾向のある科学でさえも、そのよって立つ基本的な人間観や世界観は、宗教に深く根ざしている。人間が創り出した精神文化を最も総合的に表しているのが、宗教である。
 そうした宗教の一つであるユダヤ教には、ユダヤ民族の習俗・神話・道徳・法が混然と含まれており、ユダヤ民族が生み出した生活の知恵や技術、制度、芸術、科学の萌芽等もそこに見ることができる。
 続いて、ユダヤ教について概要を示し、教義、組織、信仰、生活の四つの項目に分けて概述する。

 次回に続く。
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