mixiユーザー(id:525191)

2017年01月04日10:31

245 view

人権397〜人権発達のための実践で重要なこと(続)

●人権発達のための実践で重要なこと(続)

(8)現実を踏まえ、漸進的な改善を目指す
 次に、人権発達の実現は、世界の現実を踏まえ、漸進的な改善を目指すべきである。ミラーは、「複数のネイションからなる世界」のための国際的正義は、「基本的人権の普遍的擁護を要請する」と説く。またミラーは、人権は「全人類に共通の基本的ニーズ」という観念を通じて最もよく理解され正当化されると説く。人権の内容については、先に書いたが、私は、人権は主に国民の権利として発達してきたものであり、権利の付与と保障は各国の政府が行い、権利に伴う義務は各国の国民が負うと考える。基本的人権についても、その内容は、まずそれぞれの国民が決めればよいと考える。国によって規定が違ってよい。国際間で様々な考え方が併存している状態で協議をして、基本的人権について合意を作っていけばよいと考える。その際、合意を図るべき最低限保障の権利については、私見を述べたとおりである。
 世界的に基本的人権について合意を作るには、センのいうケイパビリティとしての主体的な能力、ミラーのいう基本的ニーズとしての環境的な条件について検討し、ケイパビリティを具体化し、基本的ニーズを絞り込むことが必要だろう。ヌスバウムはケイパビリティのリストを提示しておりミラーは充足すべき基本的ニーズを揚げている。私は私の考えを書いたが、こうした素案をもとにして協議を行い、かつ目標を数量化しなければならない。
 ここで注意したいのは、ミラーが「すべてのニーズが直接的に権利を基礎づけ得るわけではない」と言っていることである。彼は、「人権は、人間の生活における道徳的緊急性の局面を表現しなければならないだけでなく、ある種の実現可能性の条件にも合致しなければならない」とし、「すべてのニーズが直接的に権利を基礎づけ得るわけではない」と述べる。
 すべての社会のすべての人に基本的条件を提供することを、一挙に実現することはできない。国際社会の現実を踏まえた現実主義的な考え方が必要である。基本的条件の充足は、政府間・国民間の合意を積み重ねながら、漸進的に実現していくしかないだろう。

(9)必要な費用を算出し、分担・管理・運用の仕方を決める
 次に、最低限保障を目指すべき権利を保障するために必要な費用を試算して総額を出し、費用の分担・管理・運用の仕方を決める必要がある。ミラーは、基本的ニーズの充足に必要な費用について、具体化できていない。まず国際的支援が必要な国を絞り、人口・年齢構成等を調査することが必要である。基本的ニーズを仮に人類に一律のものとするなら、例えば食糧は1日あたり、カロリーがどれだけとか、必要な栄養素がどれだけとか、水は飲料用に1日何リットル、それ以外の生活用に何リットルなどと計算し、各国の物価や人口構成の違い等を考慮したうえで、要支援国について全体的なコストを試算しなければならない。国連はミレニアム宣言で2015年までに1日1ドルという生活水準の人々を半減するという目標を掲げた。1日1ドル以上で、どれだけの食糧や水を確保できるかは、物価や人口構成等によって異なるだろう。
 国連のミレニアム宣言は、2015年までの世界の貧困の半減だけでなく、教育・医療等にも係る8つの目標に対して、先進国にGNIの0.7パーセントの拠出を義務付けるものだった。結果は達成できなかったが、今後も、その拠出義務をネイションとしての責任で履行する仕組みを補強すれば、現在よりは状態を改善できるだろう。
 費用を集めるには、集金の仕組みを設計し、資金の管理・運用・評価の主体を決める必要がある。その実行については、これまでのミレニアム宣言に基づく拠出は多くが政府間援助(ODA)だったので、どの国にどれだけ出すかは各国の判断に任されていた。この仕方では、支援国の国益と要支援国の要望とが合致する部分としない部分が出てくる。これを改善するため、国際機関で統一的に行う方を採用すべきである。

(10)国家間の過度な不平等の是正に取り組む
 次に、国家間の過度の不平等を是正する措置が必要である。今日国際社会で期待されているのは、富裕国の国民及び発展途上国の富裕層による道徳的な義務の実行である。その際、資源や機会、所得等の全面的な平等ではなく、過度の不平等の是正を進めるという考え方が現実的である。
 私は、近現代の世界史において、支配―服従の権力関係によって、形式的には等価交換に見えるが、実質的には不等価交換となり、一方的に価値が移動する国際間の構造が存在してきたと考える。この不等価交換の構造を明らかにしてのみ、過度の不平等を是正することができる。不等価交換の構造は、国際間の権力関係による。経済外的な権力関係において優勢な側が、劣勢な側から富を収奪する。かつては植民地支配がこの構造を形成していた。第二次世界大戦後は、IMF・GUTT・WTO・世銀等の国際的経済機構が、金融や貿易の仕組みを通じて、不等価交換による富の収奪を合法化してきた。経済力・軍事力の差が不等価交換の原因となっている。また、それが世界的な貧困と過度の不平等を生む構造を作り出している。そこで、先進国主導の国際的経済機構を改革し、発展途上国の意見・要望を反映し、発展途上国が「発展の権利」を実現できるようにする必要がある。
 これに対して当然、巨大国際金融資本による強い抵抗が起こるだろう。その抵抗を押し返していくには、世界各国でデモクラシーが発達するとともに、共存共栄の指導原理が世界の指導者層に浸透し、富と権力を持つ階層の精神を大きく向上させることができなければならない。

 次回に続く。

3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する