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2017年01月03日09:23

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トランプ時代の始まり〜暴走か変革か14

(2)ロシア

 ヨーロッパで、リベラル・ナショナリズムの運動が高揚することは、ロシアにとって、ヨーロッパに影響を広げる好機である。EUの弱体化や分裂は、ロシアにとって願ってもないところである。英国のEU離脱決定を、プーチンは大いに歓迎した。ロシアの銀行は、ヨーロッパの反EUの勢力またはEUに懐疑的な政党に資金を提供している。フランス国民戦線(FN)の党首マリーヌ・ルペンは、ロシア系の銀行から多額の運動資金の融資を受けている。もしフランスが英国に続いてEUから離脱すれば、プーチンは大喜びするだろう。プーチンは、クリミア併合をロシアに課せられている経済制裁が解除されることを欲している。また、安全保障の観点から、特にNATOの弱体化を狙っている。ナショナリズムを再興する側は、ロシアに対する地域安全保障の構想をしっかり持って国際的に連携しないと、足並みの乱れからロシアに隙を突かれる恐れがある。各国は、EUを脱退してもNATOには加盟し続けることが必須である。
 NATO加盟国は、GDP2%の防衛支出を課せられている。ところが、それを履行しているのはわずか4カ国で、大半の国が履行していない。トランプは、米国は自由諸国の防衛に責任を持つが、過剰は費用負担はできないという考えを明らかにし、NATO加盟国に2%支出の実行を求めていく構えである。NATOは米ソ冷戦期にソ連・東欧の共産主義諸国から西欧の自由主義諸国を防衛するという役割があった。だが、ソ連・東欧の共産主義体制が崩壊し、東欧諸国がEUやNATOに加盟するようになって、NATOの役割は変化してきている。米国は冷戦終結後、NATOに関して見直しをして然るべきところ、その見直しをせずに来ている。トランプは、NATO加盟国に決められた費用負担を求め、それが実行されない場合、NATOの結束にゆるみが出る可能性がある。そうなれば、ロシアにとっては有利になり、東欧諸国やさらには西欧諸国への影響力を増すチャンスとなる。
 さて、今回の米大統領選挙に対し、世界で最も強い関心を持っていた国は、明らかにロシアだった。トランプは選挙期間中、KGB(旧ソビエト連邦国家保安委員会)の後身でロシア連邦保安局(FSB)長官だったプーチン大統領を賞賛していた。プーチン大統領を、「バラク・オバマよりも優れた指導者だ」とトランプは発言していた。クリミア併合以来、米欧から厳しい経済制裁を受けているプーチンは、突然現れて自分を賞賛するトランプが大統領に就任することを望んだに違いない。トランプは、ヒラリー・クリントンが国務長官時代に私用メールアカウントで重要情報をやり取りしていたことを非難し、ロシア政府にハッキングを要望する発言を公の場で繰り返していた。ヒラリーは外交の責任者としてあるまじき重大な犯罪を犯したが、一方のトランプもこういう反国家的な発言をすることには大きな問題がある。
 2016年12月9日、米紙ワシントン・ポスト電子版は、ロシアが米大統領選で共和党候補のトランプを勝利させることを狙って、サイバー攻撃などで選挙に干渉したと結論付ける極秘の分析結果を中央情報局(CIA)がまとめたと報じた。
 選挙期間中、民主党全国委員会(DNC)やヒラリー陣営幹部のコンピュータがハッキングされ、流出したメールが再三にわたって内部告発サイト「ウィキリークス」を通じて暴露された。絶妙のタイミングで暴露され続け、ヒラリーには大きな打撃となった。情報筋はこの暴露はアメリカ人の政府に対する信頼を失わせる意図でロシア側が仕掛けたものだと指摘し、ヒラリー陣営はロシアが同国に好意的なトランプを支援するためにやっていると訴えていた。米国家情報長官室は昨年10月、ロシア政府を名指しで「大統領選に干渉しようとしている」と異例の声明を出した。CIAは、ロシアが明らかにトランプ氏勝利を狙って情報操作していたと結論づけ、数千通のメールをウィキリークスに提供したとし、ロシア政府と関係する複数の人物を特定したと報じられる。それらの人間は、トランプを支援し、ヒラリーを妨害するロシアの作戦の一端を担っていたという。
 先にも書いたが、オバマ大統領は、2016年12月16日にプーチン大統領の関与なしになされることはまずないという認識を述べ、同年9月に中国で行われたG20の際に、直接プーチンにやめるよう警告したことを明らかにした。だが、トランプ陣営は、アメリカの情報機関はその信頼性に疑問があるため、報告は信用できないと述べている。「今回の報告は、サダム・フセインが大量破壊兵器を保有している、と発表したのと同じ情報源からきたものだ」と、トランプの政権移行チームは声明を発表した。
 オバマ大統領は12月29日、大統領選へのサイバー攻撃で米国の国益が害されていることへの報復として、米国で外交官の身分で駐在するロシア情報機関員35人を国外退去処分とし、ロシアが諜報関連活動に使っている2カ所の施設の閉鎖などの制裁を実施した。しかし、トランプ次期大統領は、この処分に対してプーチン大統領がすぐ報復をしなかったことを賞賛する言葉をツイッターに載せた。米国の歴史で、大統領選挙に外国が介入したというのは、初めてのことである。独立主権国家である自由民主主義の国に対する重大な主権侵害である。政権を担うのがどの党であれ、また大統領がだれであれ、断固とした措置を取るのは当然のことであり、トランプの言動は異常である。
 ロシア政府によるサイバー攻撃による大統領選への介入がどの程度の影響を与えたかはわからないが、大統領選挙の結果は、ロシアのプーチン大統領が大いに満足するものとなった。プーチンを手放しで評価するトランプが「アメリカ・ファースト」、自国第一主義の外交を行った場合、最も利益を得るのは、ロシアだろう。米国が国際社会で後退すれば、ロシアはクリミア・ウクライナ問題やシリア・ISIL問題で、有利に外交・軍事を進められるからである。
 プーチン政権は、ウクライナの親露派政権が崩壊した政変に米国が関与しているとして、ロシア系住民の「保護」を掲げてクリミアを併合した。ウクライナ東部でも親露派を軍事支援して紛争をたきつけ、1万人近い死者が出た。選挙期間中、厳しい対露批判を展開したヒラリーと対照的に、トランプはロシアのクリミア併合を擁護し、プーチンとの良好な関係を目指すと発言した。トランプの当選後、ウクライナのポロシェンコ大統領はトランプと電話会談し、「ロシアによる侵略」に対抗するためには「米政府の毅然とした支援が必要だ」と訴えた。プーチンが対米関係改善に向けてトランプとの取引に動き、ウクライナがそのカードに使われるという懸念が、同国では高まっている。
 中東については、次の項目に書くが、トランプは中東においてプーチンとの連携を検討しているという見方がある。それが実現すると、シリア内戦をめぐるロシアとの対立は解消し、いわゆる「イスラーム国」(ISIL)掃討作戦で、米露が結束できる。それによって中東情勢を改善させ、米軍を南シナ海・東シナ海に集中させる計画があるという情報もある。先にヨーロッパにおける反グローバリズムかつ反リージョナリズムの運動の高まりについて書いたが、EUが大きく揺らぎ出している中で、ロシアが欧州大陸への影響力を増しつつある。ここでトランプ政権が米露接近の外交戦略をとるならば、ヨーロッパでのロシアの外交的進出を許し、EUだけでなくNATOの結束にも影響するかもしれない。トランプは実業家としては成功者だが、外交の経験はゼロである。外交1年生のトランプが安易にロシアに友好的な言動を続けると、経験豊富で狡猾したたかなプーチンに利用される可能性がある。それゆえ、トランプが国務長官にだれを起用するかが、極めて重要である。
 こうした状況で、トランプが国務長官に指名したのが、アレックス・ティラーソンである。彼については、先に書いたが、エクソンモービルの会長兼CEOとして、ビジネスを通じてプーチン大統領と太いパイプを持つ。「非常に親しい関係」だと自ら語っている。トランプには、彼の起用を、悪化した米露関係の改善につなげる意図があると見られる。だが、ティラーソンは、ロシアがクリミアを併合した際はオバマ政権による経済制裁に反対した。また、自分が経営する私企業を通じて、ロシアとの利害関係が深すぎる。また、非常に優秀な経営者なのだろうが、外交官の経験はない。外交には商売とは違う独自の文化がある。雑誌『フォーブス』が2016年末に、4年連続で「世界で最も影響力のある人物」に選んだプーチンという稀代の策士に対して、どこまでティラーソンの交渉力が通用し得るのか、注目される。石油や天然ガス等のビジネスをエサにして、いいようにしてやられる恐れは十分ある。

次回に続く。

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