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2016年03月21日08:44

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イスラーム30〜イスラーム文明を分裂させる過激組織ISIL

●イスラーム文明を分裂させる過激組織ISIL

 ISILは、イラクのスンナ派過激派武装組織である。「イラク・レバントのイスラーム国」(Islamic State in Iraq and the Levant)の略称である。レバントとはシリア、レバノン等を中心にギリシャ、トルコ、エジプトを含む地域の名称である。
 ISILは、2014年(平成26年)6月以降、名称からイラクとレバントを除き、「イスラーム国」(Islamic State)を自称している。これを「イスラーム国」と呼ぶと一個の国家と認めているという誤解を生じ、またイスラーム教諸国一般との混同を招く。そこで、ISIL(アイシル)またはIS(アイエス)という呼び方が多く使われている。本稿では、ISILを使用する。
 イスラーム教過激派の元は、国際テロ組織アルカーイダである。その中から地域組織である「イラクのアルカーイダ」が生まれ、ISILとなった。この組織は、イラク戦争後に現れた反米武装集団を起源とし、宗派間の敵対意識を扇動して、マーリキー政権に対抗することで頭角を現した。2007年(平成19年)から翌年にかけての米軍の増派攻勢でいったんは活動が下火になったが、「アラブの春」の影響で内戦が起こったシリアで息を吹き返した。シリアの反アサド政権側には、各国からイスラーム教のジハード(聖戦)義勇兵が終結し、軍事訓練と実践で戦闘力を高めている。なかでもISILはシリアでの戦闘で勢力を増大した。そして、本国イラクでの戦闘を拡大していった。
 ISILは、残忍な行動で知られる。ISILは、クルド人の一部が信仰するヤズィード教という民族宗教の信徒を多数殺害している。イスラーム教の信者、同じスンナ派の信者さえ大量殺害している。また、奴隷制を復活し、キリスト教徒など非イスラーム教徒の女性や子供を拉致して奴隷としている。人身売買を行ったり、少女を含む女性を性奴隷化したりしている。これらを、すべてイスラーム教の教義に対する彼ら独特の解釈によって正当化している。
 こうしたISILは、イラクだけでなく、シリアにおける反アサド政権との闘争でも主導権を握ろうとしてアルカーイダから2014年(平成26年)2月に絶縁宣言を出された。

●カリフ制イスラーム教国家を宣言

 アルカ―イダから絶縁されたISILは、そのわずか4か月後の2014年(平成26年)6月中旬、イラクの北西部各地を制圧し、6月12日にイラク第2の都市モスルを制圧した。さらに首都バグダッドに向かって進撃し、イラク政府軍との戦闘を行った。政府軍は、かろうじて首都を防衛したものの、世界にISIL恐るべしという印象を与えた。
 6月29日、ISILは、指導者のアブー・バクル・アル=バグダーディーを、イスラーム教共同体の指導者「カリフ」として奉じるイスラーム教国家の樹立を宣言した。
 このカリフ僭称者が、初代カリフのアブー・バクルと同じ名であるのは、カリフとしての正統性を装うものだろう。本稿では、主にバグダーディーを使用する。
 ISILは、組織名から「イラク・レバント」を外して「イスラーム国」と名乗ると発表した。バグダーディーは、「カリフ・イーブラヒーム」と呼ばれている。
 スンナ派では、オスマン帝国解体後の1924年(大正13年)にカリフ制が廃止されて以降、カリフは「空位」の状態とされてきた。ところが、ISILは勝手にカリフの名称を使い、「カリフに忠誠を誓うのはイスラーム教徒の義務だ」として、全イスラーム教徒に「イスラーム国」拡大のためのジハード(聖戦)への参加を要求している。
 カリフはイスラーム文明では精神面でも政治・軍事面でも最高の指導者と位置づけられるから、バグダーディーのカリフ僭称は多くのイスラーム教徒の反発を買った。その一方、これを支持する者も増えている。各国からシリアに行ってISILの戦士となる者が続出し、中東諸国だけでなくインドネシア、マレーシア、オーストラリア等からも戦闘参加者がいると報道されている。

●ISIL急発展の事情

 ISILは、カリフ制イスラーム教国家を宣言してから、わずか数か月の間に急発展し、世界的に脅威を与える存在となった。
 東京大学先端科学技術研究センター准教授の池内恵氏によると、ISILはジハードの理念を掲げることで少数の強硬な信奉者を集め、その他の多数派のイスラーム教徒を威圧し黙認を得ている。本来のシャリーア(イスラーム法)におけるジハードとは、イスラーム教を受け入れない異教徒に対して行うものである。しかし、「近代のアラブ世界には、名目上はイスラーム教徒であっても実際には政治的・軍事的に欧米の異教徒と同盟を結んでいるアラブ世界の政治指導者をこそ、まずジハードの対象にすべきだとするジハード主義的な政治思想が根強くある」。その延長線上に発展したのが、「アラブ世界の不正な支配者・体制を支える欧米の中枢あるいは海外資産に攻撃を加えることを重要な作戦とするグローバル・ジハードの思想」だと池内氏はいう。
 グローバル・ジハードの思想に基づくグローバル・ジハード運動を推進しているのが、アルカーイダである。池内氏によると、2001年(平成13年)のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに始まった米国の世界規模の対テロ戦争で、アルカーイダは追い詰められた。そこで、アルカーイダは組織を分散化・非集権化し、「各地で諸勢力・個人が、インターネット上で拡散されるイデオロギーに感化されて自発的に行動を行うネットワーク型の運動」へと組織・戦略を変えた。グローバル・ジハード運動の共鳴者たちは、ローンウルフ(一匹狼)のテロを扇動して存在感を維持しつつ、アラブ世界で政権が揺らいで「開放された戦線」が生じてくれば、そこに世界各地からジハード戦士を集結させ、大規模に組織化・武装化するという展開を待ち望んでいた。
 「アラブの春」により、「シリアやイエメンやリビアなどで中央政府が揺らぎ、周縁地域に統治されない領域が広がってグローバル・ジハード運動が活動の機会を得た」と池内氏は言う。ここで、アルカーイダ系組織は内戦を機にシリアで拠点を確保し、それを背景にイラクでの勢力拡大につなげた。池内氏は、「イラクやシリアで周縁領域を実効支配する土着の政治勢力としての実態とともに、その掲げる理念や組織論により、世界規模でのジハードへの共鳴者を引きつけている」と言う。ここで台頭したのが、アルカーイダから派生したISILである。
 イラクでフセイン政権が崩壊すると、フセイン派の残党はシリア等に逃れた。ISILは、フセイン政権で行政・司法等を担っていた者を誘って、組織力を強めて急成長した。スンナ派同士という宗派的基盤を持つ。
 ISILは、新自由主義・市場原理主義によって格差が拡大していることに不満を持つアラブ諸国や欧米・アジア等の若者を引き付けている。2015年(平成27年)の始めの時点では約2万人の戦闘員が各国から集結しているとみられた。ISILは、戦闘によって支配地域を拡大し、原油関連施設を奪取し、シリア、トルコ、イラン等への密売ルートを通じて原油を売って豊富な資金を獲得している。人質の身代金や寄付・寄進等もあり、管理する資金は20億ドルにも上ると推定された。ISILと戦うイラク政府軍は上層部が腐敗し、兵士は士気が低く、敗走を続けた。ISILは、イラク軍が残した武器を手に入れ、戦闘力を拡大してきた。地対空スティンガー・ミサイル、中国製対戦車ミサイル、ロシア製戦車、ミグ型戦闘機約100機等を保有するとみられる。
 このようにISILは、フセイン派残党の加入による組織力の強化、各国からの戦闘員の増加、原油の密売等による資金の獲得、イラク軍からの武器の奪取等によって、わずかの期間のうちに急発展したと考えられる。
 米国のテロ情報分析会社インテルセンターの調査では、ISILにつながる過激派のネットワークは、2015年(平成27年)の始めの時点で少なくとも15カ国29組織に達しており、ISILに呼応したテロの危険性が高まっていると警告した。ISIL系の過激派組織は、中東・北アフリカ各地のほか、南アジアのインドやパキスタン、アフガニスタン、東南アジアのフィリピンやインドネシアにも存在する。
 ISILは、欧米が中東・アフリカ等に作った国家を否定する。近代西洋的な国家の概念を認めないだけでなく、サウディアラビアなどの伝統的な君主制国家の合法性も認めない。今日の国際社会における国境を否定し、自分たちに従属する者が活動する土地を、自称「イスラーム国」の「領土」と宣言する。そして、各国における傘下組織の存在を理由に、過激派武装組織が支配する地域を「イスラーム国」の「州」と勝手に主張する。
 東京大学名誉教授の山内昌之氏は、ISILの出現こそ「冷戦後の前提だった大国間の平和や国際秩序の枠組みを解体しかねない緊張を増大させ、『ポスト・冷戦期の終わり』を画する異次元の危機をもたらす」と述べている。
 元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、かつてコミンテルンが全世界で共産主義革命を起こそうとしたように、ISILは「それぞれの国内でテロを起こさせ、世界イスラーム革命を起こすことが彼らの目的となっている」と述べている。こうしたISILは、イスラーム文明が生みだし、その文明を分裂させるだけでなく、さらに人類全体を果てしない対立・抗争の道にひきずり込む、底なしの砂地獄のような存在となっている。

 次回に続く。

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