mixiユーザー(id:525191)

2015年12月18日08:51

985 view

人権241〜国連を背後に持つ「宣言」の矛盾と限界

●「国連=連合国」を背後に持つ「宣言」の矛盾と限界

 ここまで世界人権宣言の大略を書く中で、「宣言」の矛盾と限界を指摘してきた。次にそのもとになっているものについて書きたい。
 国連が人権を掲げ、人権の平等を謳う。その人権を保障する世界人権宣言は、国連を組織的な裏づけとしている。連合国による国家連合的な政治権力が、「宣言」の裏付けとなっている。ただし、国連における加盟国の権利は平等ではない。むしろ、国際的な不平等を固定化するのが、国連の組織である。というのは、国連の主要な意思決定機関は、安全保障理事会であり、安全保障理事会の常任理事国は、アメリカ・イギリス・フランス・ロシア(以前はソ連)・中国(以前は台湾)の5カ国である。これらの5カ国は、旧連合国の主要国であり、第2次大戦の戦勝国及びその地位の継承国である。これら5カ国は国連の設立において、拒否権という特権を持った。他の加盟国はこの権利を持たないから、各国の権利は同権とは言えない。特権をもつ国の国民と、特権をもたない国の国民との間には、権利において差別がある。歴史的には、特権の否定によって、勝ち取られたのが人権であった。平等というのであれば、諸国家の間に特権を認めてはならないはずである。しかし、国連は不平等を制度化している。こうした機関が、人権の平等を謳っているのである。ここに大きな矛盾がある。
 国連の発足後、米ソの対立が表面化し、米ソのイデオロギーがぶつかり合う冷戦時代となった。ソ連は軍事力強化を進め、東西に「鉄のカーテン」が引かれた。そのため、国連は拒否権を持つ大国の権力闘争の場と化してしまった。
 戦後、主要諸国は、米国に続いて次々に核兵器を開発し、核大国となった。核を持つ大国は、他の大国と激しい対立を生み出す行動を避けようとする。米国を中心とした旧西側の自由民主主義諸国は、旧ソ連、ロシアあるいは中華人民共和国が直接関わっている問題では、積極な介入はしない。小国が対象の場合であれば、5大国が一致することがある。1990年(平成2年)8月22日サダム・フセイン率いるイラクがクエートに侵攻した。この時、国連安保理はイラク軍のクエートからの即時かつ無条件の撤退を要求し、武力行使容認決議をした。国連始まって以来初めて五つの常任理事国が歩調を合わせたのである。この決議を後ろ盾に、91年(平成3年)1月から2月にかけて湾岸戦争が行われた。ただし、国連軍ではなく米国中心の多国籍軍が編成され、イラクに侵攻し、圧勝した。国連は、こうした小国の間の紛争を解決するには役立つことはあっても、大国が直接係った紛争には無力である。人権に関する問題も同様である。
 国連には、アメリカが主導で作られた組織という側面がある。国連創設後、アメリカは国連を自国の国益のために利用しようとして運営してきたが、他の主要国の存在や新興国の増加等により、アメリカの思惑通りにいかなくなってきている。アメリカは、国連が自分の利益に合わないとなると、独自の行動を取ってきた。2001年(平成13年)9月11日、世界貿易センタービル爆破事件が勃発した。これに対し、アメリカはイスラム過激派のテロリズムに対して強硬な姿勢を示した。国連の決議なしに、アメリカはイラクに侵攻した。日本をはじめとして、多くの国々がこの行動を支持・協賛したが、国連加盟国には、反対する国々もあった。現在は米国は議会が分担金を納めないことを決議したため、分担金を納めていない。さらに国連からの脱退論まで出ている。
 既成の秩序を維持する力は必要である。それが弱まれば、秩序を壊そうとする力が横行する。しかし、力だけでは、平和と安寧は実現できない。大国は、指導者と国民の意識を高め、その力を全体のために善用すべき務めがある。冷戦終焉後、唯一の超大国となったアメリカは、「世界の警察官」としての力を持ち、それを自認してきた。ところが実際にアメリカが行っているのは、国家と資本の利益の追求であり、利己的行動の正当化である。
 現代の世界において、国際問題における判断基準は、突き詰めると利害関係つまり各国の国益の追求にある。米国を始めとする主要国は、それぞれの利害関係の枠内で、正義や人道や環境への配慮を追求しているに過ぎない。国連はこれらの国々の権力関係の動的な均衡の上に成り立っている。このような実態を持つ国連を背景とし、国連の軍事力、実は各国の軍事力と同盟関係に裏付けられているのが、世界人権宣言である。国連という矛盾と限界を持つ組織を背後に持つ世界人権宣言は、それゆえに多くの矛盾と限界を露呈している文書なのである。

 次回に続く。
5 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する