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2015年12月03日08:49

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パリ同時多発テロ事件と国際社会の対応4

●フランスでのテロ対策の甘さと難しさ

 今年(27年)1月の風刺週刊紙本社銃撃事件以降、フランス政府はテロリスト予備軍の監視の常態化など、国内警備を強化していたという。それでも、今回のような大がかりなテロを阻止することができなかった。その原因は何か。
 フランスは昨年(26年)9月から、米国を中心とする有志連合の一員としてISILの支配地域への空爆に参加している。空爆参加以来、フランス政府はテロ対策を国内治安維持の最重要課題の一つとしてきた。昨年11月には新たなテロ対策法を施行して、国内治安総局(DGSI)の陣容を強化し、武装警官をパリの要所に貼り付けるなど未然防止策をテコ入れした。風刺週刊紙本社が襲撃された本年1月以降は、過激派サイトや電子メールの監視強化やテロ対策チームを内務省が直接管轄できるようにするなど、制度面も見直したと伝えられる。
 だが、今回の同時多発テロ事件が起こってしまった。その原因は何か。いくつかの原因が挙げられよう。
 テロリストは最小の犠牲で相手に最大の恐怖と衝撃を与えようと試みる。その際、彼らは最も脆弱なターゲットを選ぶ。犯人たちは聖戦(ジハード)で殉教する覚悟だから、そもそもこうしたテロの抑止は難しい。宮家邦彦氏は、「パリに限らず、西欧主要都市にはイスラム移民の『海』がある」という。「『イスラム国』などと称してはいるが、決して一枚岩の強固な組織ではない。だが、個々の集団が小規模だからこそイスラム移民の『海』で深く潜航できるのだろう。これに対し、当局側は全ての場所を守る義務がある。要するに、『テロとの闘い』は攻撃側が圧倒的に有利なゲームなのだ」と。
 EUの場合、域内での「移動の自由」が保障されている。テロリストは、EUの域内に入ってしまえば、各国の国境を越えて自由に移動できる。地球上でこれほどテロリストが行動しやすい地域はない。こうしたEUの「移動の自由」がテロを許した背景にある。
 フランス警備当局の甘さも、原因の一つとして挙げられる。1月の事件後、数か月が経過し、警備にゆるみが出ていたことが挙げられる。また、11月30日からパリで世界100カ国以上の首脳が参加するCOP21の開催を控え、そちらの警備に力を入れていたので、その隙を突かれたという見方もある。
 また、別の原因として、今回の事件は海外で準備されたことが挙げられる。オランド大統領は、パリ同時多発テロについて「シリアで計画し、ベルギーで組織され、フランスで実行された」と述べた。主犯格のアバウドは、ベルギー国籍でシリアのISILの支配地域に出入りしていた。これにフランス在住者らが協力し、ベルギーの組織が動員された。仏諜報機関は世界最高水準にあるとされるが、国境を越えたテロリストの動きは捕捉しにくかったと見られる。
 ベルギーでは、襲撃犯のフランス人兄弟が犯行用の車両を借りていた。凶器の自動小銃はそれぞれ製造地が異なり、武器の闇市場で知られるベルギー経由で仏国内に持ち込まれたと推測される。
 事件後分かったこととして、ISILと対峙するイラクやトルコからフランス政府側に対し、テロの危険を事前に警告する情報が提供されていた。だが、凶行を防ぐことはできなかった。多種多様な情報の中から確度の高い情報を見極め、テロ対策に生かすことの難しさが浮き彫りとなっている。

●テロリストが跡を絶たない事情

 ヨーロッパには、中東・北アフリカ・西アジア等から多数の移民が流入している。移民の問題の全般については、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」に書いた。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09i.htm
 フランスの場合、中心部のパリ盆地は、平等主義核家族が主であり、自由と平等が社会における基本的価値である。フランス人は普遍主義的だが、移民を受け入れるのは、双系ないし女性の地位がある程度高いことと、外婚制という二つの条件を満たす場合である。この最低限の条件を満たさない集団に対しては、「人間ではない」という見方をする。北アフリカ出自のマグレブ人は、この条件を満たさない。女性の地位が低く、族内婚である。フランス人が要求する最低限の条件の正反対である。そのため、フランス人は彼らを受け入れない。
 フランスの普遍主義は「小さな差異」の範囲外に対しては、差別的である。しかし、フランス人には、集団は拒否しても、その集団に属する個人は容易に受け入れる傾向がある。エマヌエル・トッドは「フランス人は習俗のゆえに異なる集団に敵意を抱くが、その集団出身の個人がフランス社会に加わりたいという欲求を明らかにすると受け入れる」と述べている。実際、マグレブ人は婚姻によってフランス人との融合が進んでいる。
 こうした家族型的な特徴を持つフランスでは現在、移民の数が約500万人となっている。約6000万人の人口の8%以上を占める。私は、家族型的な価値観の違いに関わらず、移民の数があまり多くなると、移民問題が深刻化するという見方をしている。その境界値は人口8〜10%と考える。実際、スランスでは、移民の多くが今日、貧困にさらされている。失業者が多く、若者は50%以上が失業している。イスラム教徒には、差別があると指摘される。宗教が違い、文化が違い、文明が違う。そのうえ、イスラム過激派のテロが善良なイスラム教徒まで警戒させることになっている。
 貧困の中で生活し、失業と不安にさらされている若者たちに、ISILが近づき、イスラム教過激思想を吹き込む。シリアへと勧誘する。また、自国でのテロを呼びかける。ある者は、シリアに行って軍事訓練を受け、戦闘にも参加する。ある者は自国でテロを起こす。若者たちの不満は貧困層だけでなく、インテリ層にも広がっている。
 ここで注目すべきは、いかにも狂信的なイスラム教徒が過激な行動を起こすというより、とてもそうは思えない普通の若者がテロに走っていることである。パリ同時多発テロ事件の実行犯には、ベルギーに在住していたフランス国籍の兄弟がいた。彼らは、バーを経営し、イスラム教では禁止されているアルコールを販売していた。ヨーロッパの若者が好む音楽を愛し、タバコも愛飲していた。とても敬虔なイスラム教徒とは言えない。だが、そういう若者が過激思想に染まり、無差別テロを実行した。また、モスクに行かず、飲酒や夜遊びをしたりしてイスラム教に無関心だった女性が、急にイスラム教に関心を示し、戒律を守るようになったかと思うと、無差別テロに参加していた。彼らの友人や知人が驚いている。
 フランスやベルギー等の社会である程度、西洋文明を受容し、ヨーロッパの若者文化に下っていた若者が、ある時、イスラム教の過激思想に共鳴し、周囲も気づかぬうちに過激な行動を起こす。貧困や失業、差別の中で西洋文明やヨーロッパ社会に疑問や不満を抱く者が、イスラム教の教えに触れ、そこに答えを見出し、一気に自爆テロへと極端化する。
 こうした文明の違い、価値観の違いからヨーロッパでイスラム教過激思想によるテロリストが次々に生まれてくる。これを防ぐには、貧困や失業、差別という経済的・社会的な問題を解決していかなければならない。これは根本的で、また長期的な課題である。
 なお、パリ同時多発テロが準備されたベルギーでは、現在イスラム教徒が人口の6%、特にブリュッセルでは25%以上となっている。移民で入ったイスラム教徒は家族を呼び寄せる。また、イスラム教は性愛を肯定する教えゆえ、自然と子だくさんとなる。15年後にはイスラム教徒が国内人口の過半数になるという予測もある。欧州のど真ん中に半イスラム国家が出現し、そこが国際テロの根拠地となるおそれがある。

●無差別自爆テロをする若者が続出する宗教的な理由

 一般市民への無差別テロは非人道的行為であり、また自爆テロも多くの宗教や倫理思想では許容される行為ではない。だが、イスラム教においては、これらが宗教的に正当化される。
 専門細分化した社会科学の総合を試みた知の巨人・小室直樹氏は、著書『日本人のための宗教原論』に次のように書いている。
 「イスラム教の予定説は、現世限りの予定説である。現世で幸福になるか不幸になるかは、神がすでに決めてしまっている、ということだ。しかし、来世で天国(緑園)へ行くか地獄へ行くかは、現世でよいことをするか悪いことをするかによって決まる。つまり因果律であり、この点は仏教と同じである。すなわち、現世でどんなに不幸になっても、それにめげずに神の教え、すなわちイスラム法を正確に守れば、来世で緑園に行くことができ、守らなければ地獄へ行く」
 「イスラム教は、人間の目にはさまざまな欲望の追求こそが美しく見えるのだ、ということをよく知っている。そのため、欲情の追求を否定せず、しかし目の前の欲望など大したことはなく、よいことをすればあの世では遥かに凄い欲望の追求がなされます、とこう教えている」
 イスラム教にも、ユダヤ教・キリスト教と同じく最後の審判の思想がある。では、「アッラーのために戦い、聖戦(ジハード)で死んだ者」はどうなるか。「最後の審判の時、イスラム教徒はすべて肉体を持って生き返る(略)そして、審判を受ける。しかし、聖戦で倒れた者は、すでに生きて天国に入ることができる」
 「これなら、戦闘に当たり、現世の死など恐れるに足らぬ」「日本で一向門徒が同じような論理で戦争に参加、織田信長もさんざん苦しめたことを考えただけでも、いかに強力な軍隊になりうるか想像ができよう」と。
 この最後にある「強力な軍隊」という文言を「強力なテロリスト」という言葉に置き換えると、現代世界の状況が鮮明になるだろう。
 こうした他の多くの宗教や倫理思想には見られない来世観、死生観、そして戦争観が、イスラム教を特徴づける。そして、それが絶対唯一神の教えとして若者の心をとらえる時、ごく普通の若者が、来世の至福を信じて、自爆による異教徒の無差別殺人を決行することになるのだろう。

 次回に続く。

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