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2015年01月27日09:20

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イスラム過激派のテロへの対応心得2

 池内恵氏は、1月20日文芸春秋社から『イスラーム国の衝撃』を刊行した。その当日、日本人人質事件が起こった。文芸春秋社は、氏に緊急インタビューを行った。そのインタビューは「本の話WEB」に掲載されている。ここでの発言も参考になるので、紹介する。

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http://hon.bunshun.jp/articles/-/3260

インタビュー・対談 > 日本人人質事件に寄せて――「日本人の心の内」こそ、彼らの標的だ

2015.01.23 12:45
 池内恵さんの『イスラーム国の衝撃』が2015年1月20日の発売直後から大きな話題となっている。発売翌日には増刷が決まり、累計85,000部に達した。著者の池内さんに緊急インタビューをした。

――発売日当日に日本人人質事件が発生しました。
 「イスラーム国」による人質殺害要求やその背後の論理、意図した目的、結果として達成される可能性のある目標については、本のなかで詳細に分析しています。今回の事件も本書で想定していた範囲内の出来事と言えます。
 しかし、偶然とはいえ、あまりのタイミングでした。
 事件発生直後から問い合わせが殺到したため、「中東・イスラーム学の風姿花伝」という個人ブログで、「『イスラーム国』による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ」という文章で見解を載せたところ、「シェア」による拡散が3万8000件(1月22日午後8時現在)にも達しました。
これまでも自分自身の「研究活動」となまなましい「現実」が偶然とは思えないほどにシンクロする経験をしてきました。
 2001年にアジア経済研究所への就職後、ほとんど間をおくことなく、9月11日に米同時多発テロが起き、イスラーム思想が国際テロリズムにどう関係するか、分析を始めました。
 2004年4月に京都の国際日本文化研究センター助教授に転職して、赴任した初日にはイラク日本人人質事件が発生し、メディア対応で東京にとんぼ返りすることになりました。
そして今回の本の発売日に起きた人質事件です。
 ちなみに殺害予告ビデオに「処刑人」として登場しているのは、テロ研究・報道の世界では有名なJihadi Johnとも呼ばれる英国人です。過去の欧米人人質予告映像にも登場しています。偶然のことですが、本書の帯の写真も同一人物です。

――イスラーム国のねらいはどこにあるのでしょうか?
 たとえば「安倍首相の中東での発言がテロを招いた」という議論がありますが、これは軽率であるか意図的なら悪質な反応と思います。安倍首相が中東を歴訪してこれまでと違う政策を発表したからテロが行なわれたのではない。単に首相が訪問して注目を集めたタイミングを狙って、従来から拘束されていた人質の殺害が予告されたのです。本末転倒の議論です。
日本では往々にして、「テロはやられる側に落ち度がある」「政府の政策によってテロが起これば政府の責任だ」という声があがります。しかし、「テロはやる側が悪い」というところから出発しないと始まらないでしょう。その上でそのような暴力を振るう主体からどう人質を取り返し、暴力を振るう主体をどう無力化していくか。
 暴力に威圧されて、武装勢力の意のままに語ったり、自ら意を汲んでしまいがちなのは人間の抗いがたい習性ですが、もし意図的にテロの暴力を背景に日本での政治的な意思を通そうとする人が出れば、まさにテロリストの思う壺です。テロの目的は、まさに、ターゲットとなった社会の人々に「相手ではなくこちらが悪い」「自分たちの政府が悪い」と思わせて内紛を生じさせ、精神的に屈服させることにあるからです。
 中東現地の情勢において、2人の日本人を人質にとることに軍事的な意味は何もありません。「日本人の心の内」こそ、彼らの標的なのです。

――日本では、昨年10月の北大生の渡航未遂事件以降、イスラーム国への関心が高まり、関連本が続々と刊行されています。
 本書『イスラーム国の衝撃』は、ブームを後から追いかけてイスラーム国を取り上げた類書とは異なります。というのも、これまで私は時間をかけて、イスラーム思想と運動の変遷を分析するために、「グローバル・ジハード」という分析概念を練り上げてきました。イスラーム国登場のはるか前から、私の関心テーマ、研究対象だったからです。
 この本では、イスラーム国がなぜ台頭したのか、何を目的に、どのような理念に基づいているのかを解明しています。「グローバル・ジハード」という大きな枠組みとメカニズムの中に、イスラーム国も、そしてパリで起こったようなローン・ウルフ型の分散型テロも、発生してくる。その両方を「グローバル・ジハード」という概念で説明でき、将来の見通しも立てられるのです。

――池内さんは、以前から、日本におけるイスラーム理解のゆがみを問題視されてきました。
 たとえば「『グローバル・ジハード』をテーマにするのは、対立を煽るだけで、大義のない戦争を開始したブッシュ政権と同じ過ちを犯している」などと、飛躍した倫理的非難がよく向けられます。そんなものは学問でもなく、かつ倫理的に悪なのだ、と決めつけるイデオロギーが研究者の間での固定観念になっています。
 しかし、「グローバル・ジハード」という行動原理とそれに基づく組織や現象は現に存在しています。見たくないものでも、現実に目をふさいではいけません。「神の法に支配される社会」と「人間の法に支配される近代社会」が対峙しているのです。
 イスラーム世界は、中世において啓示に基づく絶対の神中心主義と人間主義との対決を終わらせ、神を上位に置きました。それに対して、近代社会は人間性を神からの束縛より上位に置きます。日本も、そうした近代社会の一員で、日本も歴然と「西側」「欧米側」に属しているのです。
ところが、学者にしても、メディア関係者にしても、例えば表現の自由という、人間主義を前提とした近代社会の原理に守られながら、この事実を無視して、人間主義の上に神をおくイスラーム教に「反西洋」という自分自身の過剰な思い入れを投影する傾向があります。それが神の啓示を絶対とする信仰に基づいたものであれば一貫しているのですがそうではない。単に欧米コンプレックスや政権への不満の受け皿として「イスラーム」を想定しているだけなのです。そこでは「イスラーム」にありとあらゆるユートピアを想像します。
 しかしイスラーム国はユートピアには程遠い。
 イスラーム国を、「イスラーム教からの逸脱」とみなすことができれば、話は簡単です。彼らのレトリックは、それなりにコーランやイスラーム法に則っています。だからこそ厄介なのです。考えが同じではないイスラーム教徒たちも宗教権威とその強制的な執行に威嚇されて黙ってしまう。
 今回の人質事件は、国内の不満勢力の「反安倍」「反政権」の感情を刺激し、対策や方針をめぐる合理的な議論を妨げました。テロは首相の責任である、あるいは小泉政権以来の政策全てが悪い、さらには戦後日本の対米関係そのものが悪い、といった議論が盛んに提起されましたが、ついには首相が責任を取って辞任すれば人質を解放してもらえるのではないか、といった議論まで元政府高官から出てきた。テロを利用して政権批判をするどころか、いったい現役世代の政治家や官僚たちにどういう恨みがあるのか知りませんが、首相をやめさせればテロは解決するというのですから、テロリストも想定しなかった反応でしょう。
 日本社会は根底で何かが壊れかけているのでしょうか。あるいは高齢化などもあり、新しい現実に対する思考停止が広がっているのかもしれません。ただ思考停止は中核の現役世代には及んでいないと感じています。だから、テロに対する基礎的な原則を述べた私のブログが異様なまでに拡散されたのでしょう。現実離れしたメディアや評論家には頼っていられないと。日本の外には自分たちとは異なる原理によって成り立っている社会が存在しているということ。この現実の直視から始めるしかありませんし、直視する気構えを備えた新たな中堅層が現れてきていると感じています。
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関連掲示
・拙稿「イスラム過激派が進めるグローバル・ジハード運動の危険性」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/123800b627ef4e94100afa0d12700779
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/8250c1123d1186b7754bc21d1341f659

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