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2014年08月21日08:44

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現代世界史24〜アメリカは「世界の警察官」をやめた

●アメリカは「世界の警察官」をやめた

 アメリカの外交・安全保障政策は、世界の針路を左右する。経済政策とともに、影響はすこぶる大きい。オバマ政権の外交・安全保障政策は、民主党の特徴である多国間協議を重視し、対話を優先する。外交・安全保障政策についてオバマ大統領の最も重要な発言は、「米国は世界の警察官である意思はない」という発言である。米国は、今も超大国ではあるが、経済力・軍事力が相対的に低下してきている。冷戦終結後、一時的にそうだったように、世界各地に米軍を派遣し、地球帝国の盟主のように振る舞うことはできなくなってきている。世界は一極支配体制から多極体制へと移行しつつある。米国の力の衰えに対し、明らかに挑戦的な姿勢を示している国々が現れている。イラン、北朝鮮、ベネズエラ等である。
 第1期政権でオバマは、イランに対して「核開発疑惑には経済制裁で対処する」とし、中国に対しては、柔軟な対話路線を取り、軍拡・海洋問題では牽制する一方、対北朝鮮・対イランでは協力を要請するとした。
 オバマ大統領は、9・11の真相解明を行うことなく、共和党ブッシュ子政権の中東政策を引き継いだ。若干の政策変更は行いつつも、基本的な方針は変えることなく、進んできている。米国の支配構造を改革しようとする意思は全くない。
 ブッシュ子政権が行ったアフガニスタン戦争は、短期間で終結宣言が出されたものの、その後も戦闘は続いている。オバマ政権は、ブッシュ子政権によって9・11の主犯とされたオサマ・ビンラディンの追跡を継続した。ようやく2011年(平成23年)5月2日、オサマは、米国海軍特殊部隊が行った軍事作戦によって死亡したと報道された。だが、CIAが本物だと断定した2002年(平成14年)発表のオサマのテープは、スイスの専門機関が声紋分析し、「替え玉による録音」と報告した。本人は既に相当前に死亡しており、この時、死亡が発表されたのは替え玉だった可能性が指摘されている。オサマの死亡発表後も、アフガニスタン戦争は、終結していない。

 オバマ大統領は、2012年(24年)11月の選挙で再選された。オバマは、再選後、2014年中にアフガニスタンからの米軍の完全撤退を行うと発表した。リーマン・ショック後、一層進んだ財政の悪化によって、米国は中東を始め、海外で大規模な軍事作戦を展開する力を失いつつある。だが、タリバン側に停戦の意思はない。米軍の撤退後、アフガニスタンが安定した状態を保つことができるのか、米国内外で疑問の声が上がっている。
 アフガニスタン戦争と同じくブッシュ子政権が行ったイラク戦争も、短期間で終結したものの、イラクの統治は安定していない。サダム・フセインは、2006年(平成18年)12月に処刑された。その後、イラクの治安は再び悪化し、小規模な戦闘が続いている。第2期政権に入ったオバマ大統領は、2010年(22年)8月に改めてイラクでの「戦闘終結宣言」を出し、軍の撤退を始めた。  
 2011年(23年)12月に完全撤収し、同月14日大統領がイラク戦争の終結を正式に宣言した。だが、イラクには様々な内部対立があり、マリキ政権が自力で治安維持できるかどうか、不透明な状況での米軍撤退の実行だった。
 オバマ政権は、米軍の撤退完了後、イラクの政権が自らの手で民主化を進め、社会的な統合を行えるようにするという構想の実現には失敗した。マリキ首相は、シーア派の専制体制を築き、スンニ派や旧フセイン政権関係者等の反発を受けている。隣国シリアでは、シーア派のアサド政権に対する反政府運動が高まり、内戦状態になった。中東や東南アジア等のイスラム諸国や米国、西欧諸国からもイスラム教徒の義勇兵が反政府側に多く参加している。イラクからも、スンニ派の過激派武装組織「イラクとシャームのイスラム国家」(ISIS)が戦闘に参加した。ISISは、シリアで戦闘力や資金力を増強し、イラク国内で反マリキ政権の武装闘争を展開するようになった。
 2014年(平成26年)6月中旬、ISISはイラク北西部各地を制圧し、同月29日、指導者のアブバクル・バグダーディを、イスラム共同体の指導者「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)」として奉じるイスラム国家の樹立を宣言した。組織名も「イスラム国」(Islamic State)に変更した。この動きに、マリキ政権だけでなく、イラン、シリア、トルコ、ヨルダン等の周辺諸国も対抗行動を取っている。さらに、イラク国内のクルド自治政府が、ISの進撃の混乱に乗じて勢力圏を広げた。クルド人は「国家を持たない世界最大の民族」といわれる。イラク、トルコ、イラン、シリアにまたがって居住し、民族全体では2000万人以上いるとされる。ISとクルド人の対立が深まるなか、オバマ大統領は、8月「イスラム国」に対する限定的な空爆に踏み切った。それにより、どの程度の効果が上がるかは疑問視されている。イラクの内戦は、大規模な中東紛争に拡大する可能性を孕んでいる。今後、マリキ政権に替わる挙国一致内閣が樹立され、内戦を終息し得るかどうか、イラク情勢は不透明である。

 私は、超大国アメリカが中東で果たすべき役割は、イスラエルとアラブ諸国の対話を促し、中東に和平を実現することにあると思う。そういう試みも一部の政権ではなされたが、むしろ両者の対立を強める結果を生む動きのほうが多い。特に9・11の同時多発テロ事件とそれをきっかけとしたアフガニスタン戦争及びイラク戦争が、中東を中心として、国際社会に大きな歪みと対立を生み出している。
 だが、オバマ大統領は、イスラエル支持を表明しており、ネオコンが多く参加したブッシュ子政権の中東政策を、概ね継承している。政権が共和党から民主党へ、ブッシュ子からオバマへと変わっても、根底にある親イスラエルの権力構造は変わっていない。
 アメリカは、イラクでの失敗を教訓として、極端な親イスラエル政策を改め、イスラエルとパレスチナ及びアラブ諸国を仲介して中東和平をめざす政策に転換しなければならない。軍事力にものを言わせた支配やアメリカ的価値観の押し付けをやめ、文明や宗教・民族の間の相互理解と、それに基く協調を追及しなければならない。そういう転換をしなければ、アメリカは世界の指導国としての地位を失っていくことになるだろう。問題は、現在のアメリカに代わって、理念と実力の両面から世界を平和と安定に導くことのできる国家が存在せず、今後も近い将来にそういう国家が出現することは期待できない。むしろ、共産中国がアメリカにとって替わろうと覇権主義の姿勢を強めており、米中決戦に向かう恐れもある。
 21世紀の人類は核戦争と地球環境破壊による自滅の危機を乗り越えて、物心調和・共存共栄の新文明へと飛躍できるかのどうか、かつてないほど重要な段階にある。だが、中東に平和と安定が実現しなければ、中東における宗教戦争・民族戦争に世界全体が巻き込まれる恐れがある。中東が世界の焦点の一つであるという状況は、今後も数十年にわたり、続くことだろう。

●アメリカはアジア太平洋を重視している

 オバマ政権は、第1期・第2期ともアジア太平洋重視の外交を行っている。
 2009年(平成21年)11月、オバマ大統領は、アジア諸国を歴訪した。来日したオバマ大統領は、11月14日に行った東京演説で、「日米同盟が発展し未来に適応する中で、対等かつ相互理解のパートナーシップの精神を維持するよう常に努力していく」「米軍が世界で二つの戦争に従事している中にあっても、日本とアジアの安全保障へのわれわれの肩入れは揺るぎない」と強調した。その後、シンガポールで米・ASEAN首脳会議に参加したオバマは、経済成長を続けるASEANの重視と連携強化の姿勢を明確にした。以後、基本的にオバマは、アジア太平洋重視の方針を取っている。
 中国について、当初オバマ政権は、大パートナーとして過大評価する傾向があった。また中国にひどく低姿勢だった。2009年11月のアジア歴訪の際に、オバマは「中国を封じ込める意図はない」と述べ、封じ込め政策の放棄を宣言した。また米中首脳会談で、軍事交流を推進することを決めた。こうした姿勢は、中国が米国債の最大の保有者となり、ドルの価値を中国に大きく依存する関係となってしまっていること。また中国が軍事力を増強し、ますます侮れなくなっていることが原因だろう。
 だが、その後、中国との外交を続ける中で、オバマ政権は中国に対する姿勢を改めた。中国の危険性を意識した政策を行うように変わった。そして、2011年(平成23年)秋に、米国は「アジア太平洋シフト」外交に転じ、在日米軍再編など日米同盟を通じた対中抑止強化に踏み出した。
 中国は、アメリカに対抗して西太平洋の海洋覇権を目指している。ベトナム・フィリピン等の東南アジア諸国と海洋権益をめぐって緊張を高めている。またわが国の尖閣諸島や沖縄を奪取する工作を進めている。世界の平和と安定にはアジア太平洋地域の平和と安定が不可欠である。日米が連携し、アジア太平洋における中国の覇権主義を抑える必要がある。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「中国の日本併合を防ぐには」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12a.htm
・拙稿「中国の『大逆流』と民主化のゆくえ」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12h.htm
・拙稿「尖閣を守り、沖縄を、日本を守れ」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12o.htm

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