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2014年05月12日21:41

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時代を越えて(26) 工藤美代子「笹川良一伝」における英米派の国粋主義者

 工藤美代子「悪名の棺 笹川良一伝」幻冬舎文庫2013(単行本2010) を読んだ。かみさんが図書館から借りてきたからだが、確か、日経の「私の自叙伝」を以前に読んでいて、印象に残っていたのである。戦後に旧知の国民政府の要人と会った笹川が、(清朝の皇女で笹川の愛人でもあった)川島芳子をなぜ殺したと詰め寄った時、あれは自分じゃないと弁解したが、僕は全部分かってるんだと決めつけた、と書いているところであった。

 笹川家は茨木市の代々の造り酒屋で、庄屋の家であり、近くの同じく庄屋であった川端家とは親しい間柄であった。康成は両親が亡くなって祖父に引き取られていたが、すでに、祖父の家は没落していた。後の、「十六歳の日記」は呆けた祖父の介護日記として記憶に残っている。まだ、二人が小学生の時は川端の祖父は元気で碁敵の笹川の父の所へよくやって来たという。p20

 本書は、題名からも分かるように、笹川良一の名誉回復のためのものである。従って、資料に基づく笹川の人間論という感じなのであるが、私の関心は、笹川のような国粋主義者が戦争にどういう態度をとったのかにあるので、その部分を拾ったのであるが、実はあまりなかった。

 良一は村一番のガキ大将であったが、学校は小学校のみで、アメリカから帰って来た飛行家が、税関に払う金がなく飛行機を受け取れないと困っているところを、親に頼みこんで金を出させ、2年間操縦技術を習ったという。p46
 ・・・この進取的な気性がすばらしい。なお、笹川家は資産家ではあったが、後に、飛行機を買ったり飛行場を作ったりというような資金はすべて良一が相場で儲けた金で、以後、すべての活動資金は自前のものだったという。

 満洲事変について
 満州は早くから西欧先進各国にとっては貴重な権益確保の地であったため、当然軋轢が生じた。・・・だが、かって日英同盟を締結していたイギリスとの関係はまだいいとしても、アメリカの大西洋政策との衝突は避けがたかった。p74

 世界大戦がはじまって3カ月後、笹川は自分の飛行機を操縦して視察に出かけた。ドイツの空軍力を観察し、イタリアではムッソリーニと記念写真をとった。親しくなっていた山本五十六が視察旅行の許可を取ってくれたのである。
 戦後のことであるが、「三国同盟に対して強硬な反対派だった山本五十六と肝胆相照らす仲の笹川が、ファシストと手を組んだかのように言われるのは奇妙だが、それが戦後の現実でもあった。」p116

 「対英米戦争について笹川は、山本五十六の影響もあり反対論者であった。三男陽平は山本から父への言葉の中にその証があると記している。」
 「開戦三か月前・・・。誰よりも君がよく知ってくれているとおり、僕は日独伊同盟にも反対であったし、対米戦争にも反対である。しかし、もはや対米開戦は避けられぬと考える。・・・対米戦争における日本の国力はまず一年半ぐらいなもので、それ以上は支えきれまいと見ている。・・・僕はその時点をシンガポールが陥落した時と考えている。」
 山本は戦地にいるので、和平工作をやってもらいたい、とのことであった。そこで、笹川は旧知の杉山元参謀総長に何度も進言したが、杉山は笹川の進言を聞かなかった、という。p159-160

 外相の重光葵がA級戦犯として逮捕されたのを知って、笹川は驚いたという。
「重光と笹川はかなり以前から知己であったが、・・・まさか、英米派として開戦に反対し、東条内閣で最後に外相になっているとはいえ起訴されるとは思ってもみなかった、と笹川は述べている」p238
 
 ・・・笹川が山本五十六と親しくなったのは、個人で購入した十数台の飛行機と、そのための飛行場を軍に寄付したことで、飛行機に関心のあった山本が笹川に謝意を示したことによる。
 山本が英米派だった理由はよくわからない。海軍は軍縮のための軍艦比率についての交渉を締結しているので、関係が円満だったということか。もう少し調べる必要がある。
 笹川がなぜ英米派で反日独伊同盟だったのか、その理由も分からない。山本の影響だったからだろうか。
 ということで、今のところ何も分からないのだが、さらに、山本の意を受けて講和に動いたとのことだが、これも挫折している。笹川は目標が決まれば粘り強くいろいろな手段を駆使して行動するのだが、この件については、作者の書き方はあっさりしたものである。
 重光や吉田茂などとの連携はなかったのだろうか。得体のしれない右翼と言うことで相手にしてもらえなかったか。あるいは、ムッソリーニと会見したということで、独伊派とみられて警戒されたのか。
 時代を越えて(24)でみた中村武彦が三国同盟派だったのに対して、国粋主義者にも英米派がいたのか、ということを確認して今回は終わることにする。

 なお、作者の工藤美代子の目的である笹川良一の破天荒な人間的魅力については、十分に納得がいった。また、A級戦犯として巣鴨にいた時に連絡員のように動き回ったとか、非推薦で翼賛国会の議員になった時、東条首相にほめ殺しの文句を言ったとか、粘り強い活動についても了解できた。

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