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2022年08月11日10:24

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戦略論41〜コーベットの概要と思想

●コーベット

◆生涯

 ジュリアン・コーベットは、イギリスの海軍史家、海洋戦略家である。1854年生まれで、1922年の没である。マハンは1840年に誕生し、1914年に死去したから、二人は約60年間、同じ時代を生きたことになる。
 コーベットは、19世紀末から海軍史の著作を執筆し始め、英海軍大学校で海軍史を講義した。第1次世界大戦においては、海軍の嘱託として勤務した。海軍記録協会のために史料編纂を行い、日露戦争および第1次世界大戦の公式海戦史を執筆した。

◆著書

 コーベットは、1911年にマハンの影響のもとで独自の海洋戦略を打ち出した『海洋戦略の諸原則』を出版した。
 本書でコーベットは、海軍史の研究をもとに、マハンの海軍戦略(naval strategy)より包括的な海洋戦略(Maritime Strategy)を提示した。その戦略は、クラウゼヴィッツの「戦争は政治におけるとは異なる手段をもってする政治の継続である」という思想を継承し、軍事と外交と結びつける総合的な戦略思想となっている。
 本書の構成は、序論に続いて、第1部「戦争の理論」、第2部「海の戦いの理論」、第3部「海の戦いの遂行」となっている。

◆思想

 コーベットの思想を明らかにするために、主に『海洋戦略の諸原則』に基づいて、マハンの思想との違いを述べる。制海権、海軍の役割、戦争の目的、軍事と外交の4点を挙げたい。

#制海権の確保は海上交通の管制のため
 マハンとコーベットの思想の違いは、第1に制海権についての考え方に見られる。マハンは制海権の確保を主張し、制海権を永続的かつ全体的に拡張することが可能だと考えた。これに対し、コーベットは、絶対的な制海権の確保は意義ある目標ではあるが、達成不可能なものかもしれないという懐疑的な見方を持っていた。
 海では、一方の国が制海権を失うと、即座に制海権が他の国に移ることにはならず、どちら側も制海権を保持していない状況が普通である。人間は、陸を占領するようには海を占領することはできない。味方以外の勢力を完全に排除し、なおかつそこに我が方が居住することはできない。それゆえ、海戦の目的は、海上交通の管制であり、海上交通路(シーレーン)の確保であって、陸戦のような領土の占領ではないとコーベットは主張した。
海戦では海上において通商交通の管制を強いる手段が必要である。それは敵側の船舶の海上での捕獲または輸送財産の破壊によって実施できる」。これをコーベットは、通商破壊ではなく通商防止と呼んだ。

#海軍と陸軍による統合作戦が必要
 マハンとコーベットの思想の違いは、第2に海軍の役割についての考え方に見られる。マハンは海軍を中心に物事を考え、「海軍戦略(naval strategy)」という言葉を多く使った。これに対し、コーベットは、「海洋戦略(maritime strategy)」という言葉を使った。海洋戦略は海軍戦略より広い概念であり、海軍力は海洋戦略の一要素である。
 人々が生活を営んでいる陸上こそが人類にとって最も大切な場所である。海軍力だけで戦争に勝利することは望めないし、また海戦だけではなく陸戦での勝利が求められる。そこでコーベットは、海軍戦略の焦点は、戦争において陸軍・海軍の相補的な役割を決めるものであると主張する。
 コーベットは、ナポレオン戦争で英国がトラファルガーの海戦で勝利したにもかかわらず、その後も戦争が10年間続いたことに注目した。そこから、海軍力による戦闘は防御的な戦いであり、強大な大陸国家を打ち破るには海軍と陸軍による統合作戦が必要であると主張した。海軍力と陸軍力は補完し合う関係にあるという考え方である。コーベットは、また海軍力は上陸戦においても必要であり、陸軍・海軍の統合作戦によって海上からの奇襲が可能になるとも主張した。
 この考え方は、マハンが海軍万能主義・海洋至上主義と批判されるのとは対照的である。

 次回に続く。

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