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2022年06月15日08:43

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戦略論13〜非軍事分野への応用

4.非軍事分野への応用

 本稿の冒頭に書いたように、strategyとしての戦略は本来軍事用語だが、今日では、政治・経済・外交等の国家活動の諸分野や民間企業の経営、スポーツ、ゲーム、生物学等でも、広く使われている。ここで簡単ではあるが、こうした非軍事分野への応用について書いておく。

●政治・経済・外交等の国家活動における戦略

 私は、国家において特に重要な活動として、政治・経済・外交・軍事・文教・情報・科学技術を挙げる。本稿では、各活動分野において、それぞれ政治戦略、経済戦略、外交戦略、軍事戦略、文教戦略、情報戦略、科学技術戦略が立案され、それらを総合したものが国家戦略となる。あるいは、逆に、全体的な国家戦略の下に、個別的な分野の戦略が策定されると書いてきた。
 こうした非軍事分野への戦略思想の応用は、第1次世界大戦期に現れた総力戦の理論に基本的な発想が見られる。軍事戦略を中心に国家活動を統括しようとするものである。これに対し、総力戦理論を批判する軍事評論家リデル=ハートは、軍事的な戦略思想を国家戦略のレベルに応用し、1929年に「間接的アプローチ戦略(indirect approach strategy)」という独自の戦略思想を発表した。彼が戦略を大戦略(grand strategy:国家総合戦略)と戦略(strategy:軍事戦略)に区別し、国家総合戦略のレベルから軍事戦略を研究したことは既に述べた。「間接的アプローチ」の戦略とは、直接的な武力行使ではない間接的な手法によって勝利することを図るものである。国家戦略としては、正面衝突を避け、同盟国への支援や経済封鎖・通商破壊などの間接的な手段を用いて相手国を弱体化させ、政治目的を達成することを目指す。これは、戦争において、外交・経済等の非軍事的な手段を戦略的に活用するものである。リデル=ハートは、こうした発想によって、最小限の資源によって最大限の成果を得るための戦略のあり方を説いた。
 リデル=ハートは軍事理論家だが、彼による軍事的な戦略思想の国家戦略のレベルへの応用は、政治・経済・外交・文教等の国家活動の諸分野への戦略思想の応用の先駆けとなった。特に第2次世界大戦後、核兵器の時代になり、核保有国が全面的な核戦争を回避しながら、国益を追求する国家活動を行うに当たって、非軍事分野における戦略思想の応用が活発になった。いかにしてできるだけ非軍事的な手段で国益を実現するかが、国家にとって重大な課題となったからである。
 世界大戦期に現れた戦略思想については、後の項目で詳しく述べる。

●経営における戦略

 戦略の語が民間の活動で広く使われるようになったはじめは、経営の分野である。アメリカの経済は、第1次世界大戦・第2次世界大戦を通じて、軍需産業の発展に伴って著しい成長を遂げた。だが、第2次大戦の終結によって、大きな転換期を迎え、平時における経済活動に重点が移った。
 企業は一つの集団として、他の企業と争う競争的な環境にある。競合会社は、国家における敵国に相当する。競争に敗れたならば、大きな損害を出し、ひいては倒産に至る。常に利益を出し続けなければならない。そのためには、製品の開発、組織の改変、事業の多角化、環境への適用などを推進しなければならない。武器を商品に替えた企業間の戦争である。この戦いにおいて、競合会社との相互作用を通じて、集団の目的を達成するための総合的・長期的な計画を策定・実行する必要に迫られた。こうした事情のもとで、本来軍事用語であった戦略という用語が、経営の分野に応用されるようになった。
 戦争つまり軍事的な闘争では、武器を使用して敵の人的・物的資源に損害を与えて、目的を達成する。これに対し、企業活動つまり経済的な闘争では、商品や貨幣を使用して相手企業より利益を上げることによって目標を達成する。前者の軍事的な闘争、後者の非軍事的な闘争において、重要なことは、ともに限られた人的・物的資源をどのように配分し、最も有効に活用して、最も効率的に目的を達成するかである。その方法を体系化したものを戦略と呼ぶことができる。
 軍事的な研究の成果が経営に応用された例の代表的なものに、「ランチェスターの法則」がある。この法則は、第1次世界大戦の戦闘による兵士の損耗率を敵味方の兵数と武器の性能から計算した結果、発見されたもので、ランチェスター戦略として企業の販売戦略等に広く応用されてきた。
 また、近年世界的に活用されているものに、「OODA(ウーダー)ループ」がある。朝鮮戦争の航空戦の結果をもとに米国空軍が開発した軍事理論である。品櫃管理・業務改善に有効なPDCAサイクル(計画 Plan、実行 Do、評価 Check、改善 Act)に対して、状況に応じて機動的に対応できる理論とされている。OODAは、観察 Observe、情勢判断 Orient、意思決定 Decide、行動 Act をサイクルとする。
 「ランチェスターの法則」と「OODA(ウーダー)ループ」について、詳しくは後にそれぞれの項目で触れる。
 軍事の分野で開発されたものが一般に使われるようになった事例は多い。今日、代表的なものはインターネットやGPSである。戦略論もその事例の一つである。思考の技術の一般利用ということができる。
 注意すべきこととして、経営戦略論では、軍事戦略のように戦略と戦術をはっきり区別していないことがある。戦術に相当するものも「〇〇戦略」ということが多い。そのため、経営戦略をさらに他の分野に応用する場合においても、戦略と戦術を区別せずに使う傾向が見られる。

●スポーツやゲームにおける戦略

 スポーツのうち、試合を行って勝敗を決するものは、競技という形式の戦いである。それゆえ、軍事戦略が応用されている。
 また、およそ勝敗を伴うゲームは、囲碁・将棋・チェスのような古典的な遊びから、今日のITを使ったものまで、競技は戦争に例えられる。それゆえ、軍事戦略が応用されている。

●生物学における戦略

 生物学においては、個々の種や個体が複数の行動を取り得る時に、それぞれの行動や行動の組み合わせを、戦略と呼ぶ。生存・繁殖・捕食・環境への適応等における行動の仕方について用いる。
 生物の行動に戦略の概念を応用するようになった背景には、進化論の仮説があり、適者生存・自然淘汰を競争の結果と考える発想がある。

 次回に続く。

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