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2021年12月22日09:08

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民主対専制4〜民主主義は専制主義を押し返せるか

●民主主義は専制主義を押し返せるか

 民主主義については、イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルは、「これまでも多くの政治体制が試みられてきたし、またこれからも過ちと悲哀にみちたこの世界中で試みられていくだろう。民主主義が完全で賢明であると見せかけることは誰にも出来ない。実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが」と述べた。(1947年11月11日、英下院演説)
 チャーチルの逆説的な表現のように、民主主義は完全なものではない。だが、近代西洋文明の影響を受けた社会では、多くの人が独裁制や専制政治よりはましなものと考えている。第2次世界大戦後、植民地から解放された国々をはじめ、多くの国が民主主義の政治制度を取り入れたのは、それなりの魅力があったからだろう。特に米ソ冷戦の終結後、ソ連が崩壊し、東欧諸国が共産主義を放棄すると、共産主義が世界の多くの地域で後退し、自由主義的な民主主義が優勢になった。アメリカの政治経済学者フランシス・フクヤマは、1989年刊行の著書『歴史の終わり』で、国際社会において民主主義と自由経済が最終的に勝利し、以後、社会制度の発展が終結し、社会の平和と自由と安定を無期限に維持するという説を主張した。米国が唯一の超大国となった時期には、自由民主主義が人類の到達した最高の思想・制度として永続すると予想する楽観的な見方が流行した。
 だが、近年、逆転現象が起こっている。2019年、スウェーデンの調査機関V―Demは、世界の民主主義国・地域が87カ国であるのに対し、非民主主義国は92カ国となり、18年ぶりに非民主主義国が多数派になったという報告を発表した。その後も民主主義は劣勢を続けており、非民主主義の国家の台頭・増加が目立っている。
 この背景には、21世紀に入ってから、米国の衰退が目立つようになり、他方、中国の台頭が目覚ましくなっていることがある。第2次大戦後、自由、民主主義、人権、法の支配を普遍的な価値と称して世界に広めたのは、米国を中心とする国々だった。だが、米国が徐々に衰退するに従って、逆転が生じた。現在は、自由、民主主義、人権、法の支配といった近代西洋文明が生んだ価値の実現よりも、国家的・民族的・政治的・経済的な利益の実現をよしとする考え方が世界的に優勢になってきている。その国々の中心にあるのは、中国である。中国は、急速に経済的・軍事的に国力を増し、政治的・外交的な影響力を広げている。
 私は、現在から21世紀半ばにかけての米中関係は、米中の対決であると認識している。バイデン政権は中国との「対決」を避け、米中関係を「競争」ととらえているが、中国政府は米国の覇権に挑戦し、これを奪取しようとし、攻勢を強めている。中国側は、「100年マラソン」(ピルズベリー)といわれる超長期的な戦略を持って、2049年の世界覇権確立を目指している。劣勢にある民主主義が、勢いを増す専制主義を押し返せるか、これは今後、20〜30年の間、人類世界の重大な課題となる。(註1)
 バイデン政権は、2021年12月9〜10日に「民主主義サミット」をオンライン形式で開催した。約110の国・地域の代表が参加した。この首脳会議は、民主主義の価値観を共有する国々の連携を強化し、専制主義とみなす中国・ロシア等に対抗することを狙いとするものとみられた。だが、目的や主旨がはっきりせず、専制主義の増勢に抗して民主主義の価値観を広げるための理論も戦略も欠けていた。招待した国・地域についても、何を基準に選別したのかはっきりしない。バイデン政権の米国は、リーダーシップの弱さを自らさらし、威信を下げるばかりになるのではないかと案じられた。
 バイデン政権が世界の構図を「民主主義対専制主義」ととらえているので、現在、メディアの報道や政治学者の分析は、「民主主義対専制主義」という構図に基づくものが多い。だが、バイデン政権のいう民主主義と専制主義は定義が定かでなく、この対立構図に基づくのであれば、まず基本的な概念の定義と比較が必要である。次の項目でこの点について述べる。


(1)中国の超長期戦略については、下記の拙稿をご参照ください。
 「中国共産党は『100年マラソン』で世界覇権奪取を狙っている」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-19.htm

 次回に続く。

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