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2021年05月14日10:10

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「一帯一路」の地政学2〜今日までの地政学の発達(続き)

●今日までの地政学の発達(続き)

 第2次世界大戦は、米英系の地政学と大陸系の地政学の戦いだったともいえる。大戦に勝利したアメリカでは、ニコラス・スパイクマンが米国の国益のための地政学を発達させていた。スパイクマンは、オランダに生まれ、アメリカに移住した政治学者・地政学者である。マッキンダーが人類の歴史をランドパワーとシーパワーの闘争の歴史だととらえたのは粗雑な単純化であると批判し、ユーラシア大陸の沿岸地帯を「リムランド」と名付けて定義し直した。リムランドは、ランドパワーとシーパワーが接触する地帯である。ハートランドは、ウラル以東では農業や居住に適しておらず、人口が少なく産業が発展しにくい。これに対し、リムランドは温暖湿潤な気候で人口が多く産業を発展しやすい。そこから、「リムランドを制する者はユーラシア大陸を制し、ユーラシア大陸を制する者は世界の運命を制する」と主張した。
 第2次大戦の前から日独伊枢軸国に対して、アメリカの国益を守るための政策を提案した。日本が真珠湾攻撃した1941年12月の時点で、日本の敗北とアメリカの勝利を確信し、この戦争が終わったらソ連に対抗するために日本と組むべきだと主張した。アメリカはその政策を採用し、ソ連を封じ込めることに成功した。
 スパイクマンはまた、リムランドに位置する諸国をアメリカ抜きの同盟を組まないように分断すること、同時に、ハートランドの国にリムランドの国々を支配させないようにすることを提案した。
 第2次大戦の末期、アメリカは日本に対して、人類初の核爆弾を投下した。間もなくソ連も核実験に成功した。ともに核兵器を持つ米ソが世界的に対峙する状態になった。核兵器の登場によって、人類は世界戦争を行うならば自滅する恐れに直面することになった。この恐れを持ちながら米ソが対峙した体制を、冷戦という。冷戦下の世界で、朝鮮戦争、ベトナム戦争、中ソ国境紛争、ソ連のアフガニスタン侵攻等の局地的な戦いが繰り返された。その間、戦争には至らなかったが、1962年のキューバ危機は、核兵器の使用による人類滅亡の危険性に直面する出来事だった。こうした戦争や国家間の一触即発の危機の多くは、地政学的に見て地理的に重要な地域で起こり続けた。また、核兵器は英・仏も開発し、さらに中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮等へと拡散しつつある。
 第2次大戦後、核時代の世界で地政学を発達させたのが、国際政治学者コリン・グレイである。グレイは、イギリス生まれで、イギリスの国際戦略研究所(ISSS)やアメリカのハドソン研究所などで活躍した。彼は、核兵器とエアパワー(航空戦力)の重要性を反映させた地政学を説いた。1980年代には、ロナルド・レーガン米政権で大統領の一般諮問委員会の委員を務め、スペースパワー(制宙権)を提唱し、戦略防衛構想(SDI)に影響を与えた。SDIの推進は、ソ連を崩壊に導いた。
 21世紀の今日、科学技術の発展により、宇宙空間は安全保障や経済発展において重要性を増している。また、コンピューターとインターネットの発達により、「情報空間を制する者が世界を制する」とも言える状態になっている。情報空間はサイバー戦争の舞台となっており、相手の情報通信システムの撹乱や破壊が戦争において重要な作戦行動となる。こうした変化に伴い、地政学は変容と進化を続けている。だが、人間の生活の場所は主に地上であるという基本的な条件は変わらない。依然として、国際的な政治・外交・経済・軍事において、地理的な環境・条件が重要な要素であることに変わりはない。
 私は地政学の発展の歴史を次のようにとらえている。19世紀末から20世紀初頭までの地政学は、陸と海の2次元の地政学だった。大陸国家と海洋国家の対立を主とするマハン、マッキンダー、ハウスホーファーの地政学は、それである。陸上空間と海洋空間に関する政策科学である。第1次世界大戦期から航空機が出現し、陸海に空を加えた3次元の地政学が発達した。スパイクマンの地政学はその初期のものである。航空空間を含む政策科学である。第2次大戦の末期に核兵器が使用され、人類は核時代に入った。核兵器を搭載したミサイルが開発され、宇宙空間が軍事利用されるようになった。それによって、拡張された3次元の地政学が登場した。グレイの地政学は、この時代のものである。航空宇宙空間を含む政策科学である。
 1990年代に情報革命が起こり、コンピューターやインターネットが発達した。それによって、陸・海・空という物理的な空間に情報空間が加わった。情報空間は、電子の速度で情報が伝達する空間であり、日常的な時間・空間を超えた別次元の空間である。私は、これを一つの次元と考えて、現在は4次元の地政学の時代であるととらえる。今日の4次元地政学は、物理空間と情報空間の全体に関わる政策科学である。
 地政学は、本来軍事を中心とするものである。だが、核時代における国家間の競争においては、大規模な武力行使は核戦争に至る恐れがあるので、それを避けつつ経済的な手段による競争を行うことに重点が置かれている。地政学においては、軍事的な手段を重視する地政学を戦略地政学、経済的な手段を重視する地政学を地経学(geoeconomics)と呼ぶなどの区別が行われている。私は、今日戦略という言葉は、本来の軍事だけでなく、外交・経済・ビジネス・広報等、幅広く使われており、意味も多様になっているので、戦略地政学は軍事地政学、地経学は経済地政学などと称したほうがよいと思う。ただし、本稿では、一般的な名称に従う。

 次回に続く。

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