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2020年09月05日12:15

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人種差別14〜歴史的人物の像や記念碑の破壊

●歴史的人物の像や記念碑の破壊

 米国では、人種差別反対や人権擁護の運動の一部が、既成の秩序や制度を覆えそうとするラディカルでアナーキーな運動になってきている。半分は急進的な思想によるものだろうが、半分は破壊衝動によるものだろう。後者は破壊のための破壊、否定のための否定ゆえ、ある程度進むと沈静化すると見られる。だが、前者は思想的な裏付けがあるので、根深く広がる可能性がある。そのことを感じさせるのが、米国の歴史的な人物の像や記念碑を破壊する行動である。
 過激化した暴徒たちの間で、クリストファー・コロンブス、ジョージ・ワシントン、トマス・ジェファーソン等の像や記念碑を引き倒し、落書きをし、踏みつけたり、像の頭部に星条旗を巻きつけて火を点けるといった行動が広がった。こうした行動は、黒人奴隷の売買をしたり、黒人奴隷の所有者だったということをもって、彼らを断罪するものである。
 コロンブスは、アメリカ大陸を発見した最初の西欧人とされる。大西洋を横断する前はアフリカで奴隷商人をしており、アメリカ大陸でも奴隷売買を行なった。だが、アフリカの黒人を奴隷として白人の奴隷商人に売った者も黒人であったことに注意しなければならない。白人だけが奴隷売買をしたのではない。
 ワシントンは、アメリカ独立革命の英雄で、合衆国の初代大統領となった。ジェファーソンは、独立宣言を起草し、第3代大統領となった。彼らはそれぞれ多くの奴隷を所有してプランテーション経営を行った大農場主だった。だが、奴隷所有者だったからという理由で、「建国の父」としての彼らの業績を全て否定するのは、ものの見方が一面的だろう。また、彼らは当時の白人の中では、奴隷に対して開明的な考えを持っていた。
 ワシントンは、奴隷の家族を個々別々に売ることに抵抗を感じ、奴隷の同意なしには売り渡さないことにした。また、遺志の一部として所有していた奴隷を解放した。彼は、奴隷を解放した唯一の「建国の父」だった。ジェファーソンは、南部の大農園主として奴隷を所有する一方、奴隷貿易には反対し、奴隷制度を徐々に消滅させることを主張した。独立宣言を起草した際、国際的な奴隷貿易を非難する文章を書いた。だが、その部分は大陸会議で削除されたので、独立宣言には入らなかった。法律家として黒人の弁護活動を数多く行い、奴隷輸入禁止法の制定に尽力したりもした。
 コロンブス、ワシントン、ジェファーソン等への断罪には、黒人・インディアン等の抑圧された少数民族の側に立った歴史の見方のみを正義とみなす思想が表れている。その思想は、極左翼や急進的な黒人活動家等が主張してきたものであり、米国の国家観や歴史観、価値観を根底から覆そうとするものである。

●マルクス=エンゲルスの歴史観

 米国における極左翼や急進的な黒人活動家等の主張には、共産主義の影響が色濃く見られる。共産主義の元祖であるカール・マルクスとフリードリッヒ・エンゲルスは、原始共同体、奴隷制、封建制、資本主義の各生産様式を段階的に発達するという社会発展論を唱えた。古代ギリシア・ローマの古代奴隷制社会では、奴隷は主に戦争の捕虜や債務が原因で奴隷となった。彼らは、居住移転の自由がなく、売買・贈与の対象になり、主人に生殺与奪権が握られていた。
 だが、マルクスとエンゲルスは、古代奴隷制社会はそれ以前の原始共産制社会より進歩した社会だとみなした。原始共同体間の戦争では、負けた側は全員が殺される。だが、労働集約型の生産活動が発達すると、負けた側を捕虜とし奴隷として働かせるようになった。生産力が発達し、次の生産物の収穫までの間、奴隷を食べさせるだけの余剰食糧が生まれたからである。それゆえ、古代奴隷制社会は、敗者が全員殺される原始共産制社会より、歴史的に進歩した社会であると彼らは評価した。これは、人類の歴史を現在の視点から善悪だけで評価するのではなく、生産力の発達の過程としてとらえる見方である。経済学的・社会学的な見方である。
 これに対し、現代アメリカにおける極左翼や急進的な黒人活動家らの見方は、こうした経済学的・社会学的な見方ではなく、自分たちの思想を基準として、それと異なるものを徹底的に否定し、断罪するものである。
 既成の国家観・歴史観・価値観を徹底的に否定しようとする思想は、徹底的否定主義としてのニヒリズムに至る。だが、破壊を通して“あるべき歴史”“あるべき社会”を追及したところで、過去の歴史はこのようでしかなく、また今日の国家・社会はそのような歴史の結果である。歴史と国家の光と影をともに見すえて、光は光として評価し、影は影として改善していくしかない。

●米国から他国への飛び火

 米国における極左翼や急進的な黒人活動家等の運動は、米国以外にも広がりを見せている。
 黒人奴隷問題をめぐる像や記念碑の破壊や撤去は、イギリスに飛び火した。6月7日、ブリテン島西部にある港湾都市のブリストルで、17世紀に奴隷貿易で富を築いた商人エドワード・コルストンの銅像が、デモ隊に引き倒され、海に投げ捨てられた。
 6月中旬には、ロンドン博物館前に設置されたロバート・ミリガンの像が、周辺を管理する団体によって撤去された。ミリガンは18世紀、ジャマイカで500人以上の奴隷を使って砂糖プランテーションを経営していた商人という。
 オックスフォード大学のオリオルカレッジにあるセシル・ローズ像も、撤去されることが決まったと伝えられる。ローズは、南アフリカのアパルトヘイトなどの人種差別主義の象徴とされている。ローズは南アフリカのダイヤモンド鉱山で巨万の富を築いた。だが、財産を大学に寄付してローズ財団という英国留学奨学金が作られ、アフリカ系の学生にも提供されてきている。この点は評価されるべきだろう。
 こうしたイギリスへの飛び火は、偶発的に起こったものではない。1960年代以降、欧米先進国では、極左翼の中から、近代西洋文明を根底的に批判する思想が現れ、その思想が教育界やマスメディア等に浸透してきている。その思想は日本にも及び、新左翼の過激派からアイヌ系、沖縄系、在日外国人系等の団体に影響を与えている。この思想の特徴は、歴史観・国家観・価値観を根底から覆そうとするところにある。これを左翼による「歴史修正主義」と呼ぶ言い方がある。先住民族ないし少数民族の立場に立って、欧米中心・白人中心・多数民族中心の歴史観・国家観・価値観を徹底的に否定しようとするものである。だが、実際は歴史的事実に基づいて歴史観の修正を行なうのではなく、思想に基づいて歴史を書き換えようとするイデオロギー性が強い。
 この左翼による歴史書き換え運動は、マルクス・エンゲルスの手法を継承したものである。マルクス・エンゲルスは、人類の歴史は階級闘争の歴史であるとし、階級闘争という視点から歴史の書き換えを行なった。今日の左翼による歴史書き換え運動は、根本に階級闘争史観を持ち、その上に支配民族と被支配民族の間の民族闘争史観を重ねたものである。国家、正確に言えば統治機構としての政府は、階級支配・民族支配のための組織であるとし、国家の転覆を起こそうとする。目指すのは、政治権力の奪取と新たな権力集団による支配である。すなわち、革命運動の一環として、歴史の書き換えを企てるものである。
 歴史的人物の像や記念碑の破壊や撤去の動きは、英国だけでなく、奴隷貿易に関わった他の欧州諸国にも飛び火するだろう。わが国にも飛び火する可能性はある。わが国は近代における奴隷貿易を行っていない。だが、既に極左翼やアイヌ系、沖縄系、在日外国人系等の団体が、過去にさかのぼって歴史の書き換えを企てて来た。例えば、古代に皇室を中心とする国家の形成に反抗した集団を「土蜘蛛」等と呼んで、その立場に自らを置き換えて、日本の歴史観・国家観・価値観を覆そうとする。コロンブスやワシントン、ジェファーソン等は銅像や記念碑が建てられているだけだが、皇室の祖先や歴代天皇には、御霊を祀る神社や古墳等が存在する。それらを破壊したり、汚損したりする活動が活発になるかもしれない。警戒を要する。

 次回に続く。

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