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2020年08月23日10:12

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仏教44〜東南アジアでの展開:仏教国全般

◆マレーシアとシンガポール
 マレーシアでは、もともと仏教・ヒンドゥー教が分布していたが、13世紀からアラブ商人やインド商人がイスラーム教を伝え、イスラーム教が優勢になった。14世紀末に樹立されたマラッカ王国の国王が15世紀初めにイスラーム教を国教とした。16世紀初めから西欧諸国の進出を受け、ポルトガル、オランダ、イギリスの植民地とされた。大東亜戦争で日本はマラヤ全域を占領した。敗戦によりこの地域はイギリスの植民地状態に戻ったが、1957年にマラヤ連邦として独立した。63年シンガポール、イギリス保護国北ボルネオ、イギリス領サラワクがマラヤ連邦と統合し、マレーシアが成立した。その後、65年にシンガポールがマレーシアから独立した。
 マレーシアは、イスラーム教を国教とする。日本外務省の資料によると、イスラーム教が61%を占める。だが、民族構成が複雑であることの反映として、仏教が20%、ヒンドゥー教が6%いる。仏教徒の多くはシナ系であり、シナ系の国民は仏教・道教を主に信仰している。ヒンドゥー教はインド系に多い。
 シンガポールの宗教は、シナの浄土系の仏教が主に華人により信仰されており、2015年現在、人口の33.2%を仏教徒が占める。華人には道教も多く、人口の10.0%に上る。キリスト教18.8%、イスラーム教14.0%、ヒンドゥー教5.0%である。

◆インドネシア
 インドネシアは、世界最大のイスラーム教徒を有する国である。仏教徒は人口の1%に満たない。しかし、かつては仏教が栄えた時があり、ジャワのボロブドゥール寺院の遺跡が有名である。
 インドネシアは、古代には、インド商人を通じてヒンドゥー教の文化が浸透していた。それが地域の名称の由来となった。また、歴史的には東インドと呼ばれた。ヒンドゥー教とともに仏教が栄えたが、当地には上座部仏教ではなく主に大乗仏教が伝わった。7世紀にスマトラ島に建国されたシュリーヴィジャヤ王国は大乗仏教が盛んで、インドからも多くの僧侶が学びに来る仏教の一大中心地だった。また、8世紀半ばからジャワ中部で栄えたシャイレーンドラ王国は、密教が広まり、在来の祖先崇拝と融合した混交宗教が生まれた。同国で建造されたボロブドゥール寺院は、8世紀末に完成したと見られる。長くその存在は忘れられていたが、19世紀の初めに、密林の中に埋もれていた建物が発見された。オランダの植民地になっていた時代である。今日この寺院は、世界最大級の仏教寺院であり、ウェーサーカ祭には、世界各国から仏教徒が集まって、祭儀がされる。
 12世紀以降、ムスリム商人がイスラーム教を広めたことにより、イスラーム化が進んだ。イスラーム教が支配層に浸透するに従って、ジャワ仏教は衰微し、15世紀以後にほぼ消滅した。
 大東亜戦争で日本がオランダから主要部を獲得・占領し、民族独立運動を支援した。日本の敗戦後、インドネシア人はオランダと戦い、1949年に独立を勝ち取った。
 日本外務省のサイトによると、2016年の宗教省の統計では、仏教徒は人口の0.72%とされる。そのほとんどは、新たに入ったスリランカ系の上座部仏教の信徒である。人口のうち、圧倒的に多いのはイスラーム教で87.21%、次いでキリスト教9.87%、ヒンドゥー教1.69%である。
 インドネシアは、イスラーム教国といえるが、インドネシア政府はイスラーム教だけでなく、ヒンドゥー教、仏教、キリスト教プロテスタント、キリスト教カトリックの5大宗教を国教に定め、憲法上平等な権利を保障している。

◆東南アジアの仏教及び仏教国全般
 1980年代後半または90年代から、東南アジア諸国連合(ASEAN)の諸国は目覚しい経済発展を見せている。それによって、急速な近代化及びそれに伴う都市化が進行している。また、情報通信の発達によって、人々の生活は大きく変化している。その中で民衆の価値観が変化しつつある。東南アジアの仏教の主流をなす上座部仏教は、出家者の教団であるサンガを中核とする。古代的で保守的な上座部仏教は、経済と社会と文化の変化への対応を迫られている。
 東南アジアのタイ、ミャンマー、カンボジア等では、上座部(テーラワーダ)仏教が継承されてきた。その伝統的な瞑想法が簡略化されたものが、今日アメリカでインサイト・メディテーションあるいはマインドフルネスとして普及している。この点については、後に現代のアメリカや日本の仏教に関する項目に書く。
 東南アジアの上座部仏教は、土俗信仰を排除していない。大乗仏教ほどではないが、異なるものを受け入れたり、共存したりしている。それは、仏教の持つ寛容性の表れだろう。この点は、ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教というセム系の唯一神教との大きな違いである。また、仏教は、各国内において、これらの唯一神教を含む他宗教と共存している。
 東南アジアは、世界で最も宗教的に多様な地域である。ASEAN10か国のうちミャンマー・タイ・カンボジア・ラオス・ベトナムの5か国は仏教国、インドネシア・マレーシア・ブルネイの3か国はイスラーム教国、フィリピンはキリスト教国といえる。残るシンガポールは複数の宗教が大差なく併存している。ベトナム・マレーシアでは、ヒンドゥー教徒もかなりの割合を占める。世界の主要宗教がモザイクのようになっている。また、どの宗教も地域全体を主導し得る勢力とはなっていない。そのため、ASEANは、キリスト教を共通の文化とするEU(ヨーロッパ連合)とは、全く異なる宗教的・文化的な事情を抱えている。多宗教・多民族の地域における諸国連合は、人類の歴史における壮大な実験ともいえる。その実験において、仏教及び仏教国がどこまで諸宗教の連携や融和に貢献し得るか注目されるところだが、歴史的に見ると、仏教はそうした現実的・社会的な力は弱く、多くを期待することはできない、と私は考える。

 次回に続く。

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