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2019年10月23日09:32

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インド12〜ヒンドゥー教の人間観

●人間観

◆始祖
 ヒンドゥー教において、現在の人類の始祖は、最初の王マヌとされる。聖典の一つである『マヌ法典』は、人祖マヌによって宣述せられたものと伝えられている。
マヌの語はもともと人間を意味する。ただし、マヌは、ユダヤ=キリスト教のアダムのような最初の人間ではない。現在の人類より前の人類がいたと考えられており、過去の人類の最初の王はプリトゥという。
 マヌは、世界的な大洪水の後に人祖となったとか、大洪水の際に魚に権化したヴィシュヌに助けられて生き延びたとも、伝えられている。
 マヌに関する大洪水の物語は、ノアの洪水など世界各地にある洪水伝説を思い起こさせる。『シャタバタ・ブラーフマナ』(1・8・1)には、概略次のような物語が書かれている。早朝マヌに濯ぎの水がもたらされた。彼が水を使って手を洗っていると、一匹の魚が彼の手の中にはいった。その魚は彼に言葉をかけた。「私をお飼いください。あなたを助けることがありましょう」と。「何ごとからお前はわたしを救うのか」と問うと、「洪水があらゆる生物を掃蕩するでしょう。それからあなたをお救いいたすでしょう」と答える。そのとき魚は「かくかくの年に洪水が起こりましょう。船を設えて、私に注意してお待ちなさい。そして洪水が起こったとき、船にお乗りなさい。そうすれば私があなたをお救いいたすでしょう」と言った。マヌは、洪水が起ったとき、船に乗った。その魚は彼に泳ぎ近づいた。その角にマヌは船の索を結び付けた。それによって魚は、この北方の山(ヒマラヤ山)へ急いだ。洪水は実にこのあらゆる生物を掃蕩した。そしてこの世界にマヌただ独りが残った、と。(辻訳に基づく)
 話は複雑だが、プラーナ文献では過去から未来へと各時代ごとに数えて、14人のマヌを挙げる。現在のマヌは第7番目で、ヴァイヴァスヴァタ・マヌと呼ばれ、太陽神ヴィヴァスヴァットの子だとされる。人間が太陽神の子孫だとする考えは、世界に広く見られる。ヴィシュヌが魚に権化して救ったのはこのマヌとされている。
 この説によれば、現在の人類の前に、異なるマヌの時代が6度あったことになる。しかも、今の時代の先も想定されている。ここでもインドの思考特有の複雑さと執拗さが見られる。

◆輪廻
 ヒンドゥー教では、人間は死んで無に帰するのではなく、再び新しい肉体を得て生まれ変わり、生死を無限に繰り返すと教える。これを、輪廻(サンサーラ)という。この思想の基礎には、霊魂は死後も存続するという考え方がある。ヒンドゥー教では、人間が人間に生まれ変わるとは限らない。他の動物や神々等、様々な生命体に転生し得るとする。人間に限らず、生きとし生けるものは、過去の行為の結果として、輪廻転生を繰り返すとする。
 ユダヤ=キリスト教では、唯一絶対神が人間を神の似姿として創造したとする。また、人間は万物を支配すべき特別の存在だとする。これに対し、ヒンドゥー教では、世界は根本原理が展開して出来たとする。したがって、生きとし生けるものは根本において一体ということになる。また、人間の霊魂は人間として輪廻転生するとは限らず、動物や神々や地獄にある者にも転生し得ると考えるわけである。インドの思想は、唯物論、不可知論等を数少ない例外として、輪廻の観念を前提としている。
 輪廻転生の思想は、自然と生命の観察に基づく素朴な説から発達したものである。その点については、実践の項目の来世観のところで述べる。

 次回に続く。

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