田航編著「桜前線開架宣言」左右社2015 から(3)小原奈実1991年東京都
1枚目 映画「コクリコ坂から」
2枚目 清水焼の碗
3枚目 つげ義春「海辺の叙景」 いずれもネットから
わが過ぎし空間に陽がなだれこむ振り返らざる朝の坂道
☆海風:映画「コクリコ坂から」のヒロインが坂を下って行く場面を思い出す。
水溜りに空の色あり地の色ありはざまに暗き水の色あり
☆海風:私は天地までで、水の色まで見分けるのはできなかった。
声あらば鋭きならむふち薄き陶器の碗は鳥の眼をせり
☆海風:ぬくもりのある陶器ではなく刃のように薄い磁器だと思う。鋭い鳴き声はヒヨドリだろうか。
ゑんどうの花の奥処をまさぐりてメンデルは夜に手をすすぎしか
☆海風:夜中にメンデルが奥処をまさぐった淫靡な指を念入りに洗っている。
別れしはあのあたりなり太陽の反対側にをりし夏の日
☆海風:つまり夏の夜なのだが、太陽を巡る惑星の図を見ながら指差しているのだろうか。それとも時間が場所に変換されているのか?
遠ければひよどりのこゑ借りて呼ぶそらに降らざる雪ふかみゆく
☆海風:呼びかける相手は遠くにいるのである。ヒヨドリの声なら届くかもしれない。雪は私に降らず、空の上につもり、むなしさばかりが私に届く。「水に降る雪 白うは言はじ 消え消ゆるとも」
俊足のごとくレモンの香りたち闇のふかみへ闇退りたり
☆海風:レモンの香が闇を押し出してゆく。
くちなしの花錆びそめてゆふぐれか朝かわからぬごとき雨ふる
くちなしの白い花は錆びて萎れてゆく。だから雨も朝だか夕方だかけじめのつかない降り方をするらしい。そんな無茶な。しかし詩人は常識でなく自分の感性に従うのである。
その羽に天ひるがへし身に享くる時間せまくはなきかつばめよ
☆海風:詩人の同情はつばめに及ぶ。それはいいのだが、時間が狭かったりするものだろうか。詩人の時空は一つに統合されているらしい。
浜風にもろきともし火 まばたけば闇夜の海と空溺れあふ
☆海風:海辺のキャンプファイヤーだろうか。エロチックに聞こえる。
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