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2015年12月22日08:48

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中台首脳会談は台湾総統選に影響を与えるか

 台湾の総統選が12月18日に公示された。来年1月16日の投票日まで約1カ月間の選挙戦に入った。世論調査では野党、民主進歩党の蔡英文主席が他の候補に大きく水をあけており、8年ぶりに政権が交代し、また初の女性総統が誕生する可能性が高い。同日行われる立法委員(国会議員に相当)選挙で民進党が過半数を取れるかどうかによって、新政権の安定性が決まってくる。
 今回の総統選及び国政選挙は、かつてなく増大している中国の圧力のもとに行われる。ここで、台湾の動向に大きな影響を与えつるある11月に行われた中台首脳会談を振り返っておきたい。
 11月7日、中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統とがシンガポールで会談した。「中台首脳の会談は1949年の分断以来、初めてのことであり、歴史的な会談となった。
 中台は互いの統治権を認めておらず、これまで現職の首脳同士の会談は困難だった。会談は中台の「指導者」の身分で行われた。双方が「総統」「主席」の肩書を避けた形である。
 台湾の総統選は、来年1月に行われる。総統選まで約2カ月と迫った時期の中台首脳会談に対し、台湾内部には賛否両論があった。国民党は昨年末の統一地方選で惨敗した。馬総統の任期が残り約7カ月となった中での「国共会談」に、台湾の野党は反発した。
 この会談に関して、拓殖大学総長で開発経済学者の渡辺利夫氏は、「来年5月に退任する馬英九総統の性急な要請に習近平国家主席が応じて、後者に有利な形で終始したのが今回の中台首脳会談だった」という見方をしている。妥当な見方と思う。
 今回の歴史的な会談に至った台湾・馬総統側の狙いは何か。馬総統は、来年5月に退任する。会談を自身の政治的遺産(レガシー)として示すという意図が指摘される。また来年1月の総統選で独立志向が強い野党、民主進歩党が8年ぶりに政権を奪還する可能性が高まっている中で、与党の国民党だけが中台関係を安定させうるとアピールする意図があるともみられる。
 馬総統は会談前の5日の記者会見で、「現状と平和の維持」のためだとしつつも、「次の総統が誰でもこの基礎の上に両岸(中台)関係を進める」と述べ、首脳会談の定例化を目指している考えを明らかにした。また、「台湾の次世代に有利なことを行わないのは(職務)怠慢になる」と述べて、政治的遺産作りだとの批判を意識した発言をした。
 一方、習近席主席の側の会談への狙いは何か。習主席は「中華民族の偉大な復興」を掲げ、中台統一の実現を悲願としている。2008年に発足した馬政権の下で、中台間の直行便就航や貿易・投資の拡大など経済関係は飛躍的に緊密化した。また台湾は、中国主導のアジア・インフラ投資銀行(AIIB)に参加を表明した。中国は、人民元がIMFによって国際通貨に認定されるよう画策している。習主席には人民元の力による中台関係の現状変更の狙いがあるだろう。こうした時、中台首脳会談を実現させ、中台交流は「一つの中国」の原則に基づくと確認することは、「台湾独立派」の民進党を牽制する意図があると見られる。
 そもそも、今回の会談は急遽決まったものだった。月刊『正論』1月号の記事で、産経新聞中国総局の矢板明夫氏は、次のように書いた。 
 「発表から実施まで、わずか4日間しかなかった。内部で議論が深まらないのも当然である。台湾では民意を完全に無視した馬氏が周辺だけで決めたといわれている。中国側も『習近平氏と側近数人で決めた』(共産党幹部)という。そのため、今回の会談は二つの政権の会談というより習氏と馬氏による政治パフォーマンスに近い。馬氏が習氏と会う最大の理由は『自分の任期の残りはすでに少なく、自らの歴史的評価を高くしたいため』と台湾メディアが分析している。これに対し習氏が会談に応じた理由について、ある共産党幹部は『外交が最近、連続して失敗したことへの焦りがある』と説明した」と。
 この外交の失敗とは、9月3日に北京で行われた軍事パレードでは招待したほとんどの主要国の首脳にボイコットされたこと。9月末に習氏が訪米してオバマ大統領と首脳会談を行ったが、その約1カ月後に中国が造成する人工島の12カイリ内に米国の軍艦が入るなどメンツが丸つぶれとなったことなどである。矢板氏は「習氏の外交手腕を疑問視する声は党内からも聞かれ、習氏は史上初の中台トップ会談を実現させたことを大きな成果として国内外に宣伝し、求心力につなげたいとの思惑があるとみられる」と書いている。
 会談では、「一つの中国」という原則に基づき、馬政権下での中台交流の基礎となってきた「92年コンセンサス」が再確認された。「92年コンセンサス」について、渡辺氏は次のように述べている。
 「これは、台湾側窓口機関『海峡交流基金会』と中国側窓口機関『海峡両岸関係協会』の双方が、1992年の香港での協議において口頭で交わした合意であり、台湾・行政院大陸委員会の蘇起主任委員(当時)により『九二共識』として2000年に公表されたものである。台湾側はこの合意の内容を『双方が“一つの中国”を堅持するものの、その解釈は各自異なることを認める』(『一中各表』)ものだとし、中国側は『双方が“一つの中国”を堅持する」(『一中』)としており、中台の思惑には大きな懸隔がある。台湾においては、国民党が『一中各表』原則に立つ一方、民進党はそのような合意は存在しないと主張する。実際、当時の総統、李登輝氏はかかる合意がなされたとの報告は受けていないといい、香港協議に出席した当時の海峡交流基金会理事長の辜振甫氏自身が合意の存在を認めていない」と。
 そして、渡辺氏は、「台湾統一工作の場を求める中国側はこの『幻の合意』を利用して中台交流を正当化してきたのだが、中国が『一中各表』を認めて『一中』原則を放棄することなどありえない。ただコンセンサスがあったふうに装って行動してきたというにすぎない」と指摘している。
 しかしながら、今回こうした「92年コンセンサス」に基づいて、習主席と馬総統は「一つの中国」の原則を確認した。このことは、これまで台湾側窓口機関「海峡交流基金会」と中国側窓口機関「海峡両岸関係協会」の代表者レベルで交わした口頭の合意が、中台の首脳レベルでの合意に高められたことを意味する。
 次期総統選で、国民党は劣勢に立たされており、民進党に政権が交代する可能性があり、中台は駆け込みの首脳会談で「92年コンセンサス」の再確認による格上げを図ったものと見られる。
 「一つの中国」の原則確認の経緯について、小笠原欣幸・東京外国語大准教授は、次のように述べている。
 「馬英九総統の事前の演説原稿には『92年コンセンサス』の部分で『一つの中国』の中身についてそれぞれが述べ合うという『各表』の文字が入っていた。しかし、先に発言をした習近平国家主席が台湾を刺激する発言を避けたことから、馬氏はその場の判断で中国側が嫌う『各表』を言わず、中国側と同じ解釈だけを述べた。その結果、取材カメラが入った会談冒頭での両者の発言を基に『中台は一つの中国を確認した』と世界で報じられた。国際的には『一つの中国』は中国の主張を意味し、台湾に『中華民国』が存在するという『各表』はないがしろにされやすい。馬氏はその後の非公開の会談の中で『各表』を語ったが、後の祭りである」と。
 民進党の蔡英文主席は、当然のことながら「92年コンセンサス」の存在自体を否定している。そうした蔡氏に対し、中台首脳はコンセンサスの意義を強調して、その受け入れを迫る構えである。台湾の独立を希求する人々は、今回の中台首脳によるコンセンサスを認めてはならない。

 私は、中台首脳会談は中国有利に終わったと考える。台湾側に具体的な成果があったかというと、一部の中国追従の勢力を利するのみで、台湾人民にとっては、ほとんど成果のない会談だったと思う。
 渡辺利夫氏は、次のように見ている。「馬氏が『東アジア地域包括的経済連携』(RCEP)交渉への参加の意向を訴えれば習氏はこれに前向きの姿勢を示しはした。しかし、習氏はそれと引き換えに中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)と『一帯一路』建設への台湾加盟を歓迎する旨を表明した。馬氏は台湾に向けて中国が配備するミサイル撤去を求めた。しかし習氏は『台湾住民に向けられたものではない』とそっけなく答えただけだという。台湾も領有権を主張する南沙諸島を擁する南シナ海問題については、馬氏はこれを協議のテーマに取り上げることさえせず、中台首脳会談に寄せる周辺諸国のせめてもの期待に応えることもできなかった」と。台湾側が「対等な立場」と繰り返し強調した会談は、ほぼ中国ペースで進められたといえる。
 台湾では、馬総統が進めた急速な対中接近の結果、中国に経済的にのみ込まれ、自らの将来をめぐる議論も中国に主導権を握られるとの警戒論が高まっている。昨年3月、台湾では「両岸サービス貿易協定」に反対する大学生が大挙して立法院(国会)を24日間にもわたって占拠した。「ひまわり学生運動」と呼ばれる。「両岸サービス貿易協定」が成立すると台湾の中国依存が一段と深まり、政治的にも中国にのみ込まれてしまいかねないという危機感が、学生たちから台湾人民の多くに広がった。昨年11月に行われた地方選では、与党の中国国民党が惨敗し、最大野党である民進党や無所属候補が躍進する結果となった。来年1月に予定される総統選でも、国民党が後退し、民進党が伸長すると予想されている。
 こうした中で行われた中台首脳会談は、中国による台湾の選挙への介入と受け止められ、有権者の反発を招く可能性が高い。
 かつて中国共産党政権は、1996年の台湾総統選挙では、圧力をかけるべく台湾海峡でミサイル発射試験を行った。これに対し米国は空母2隻を派遣して中国を牽制した。この中国の脅迫は裏目に出て、総統選で李登輝候補が当選し、米国内では台湾支援の動きが加速した。
 2000年3月の総統選の際には、民進党・陳水扁候補の当選を阻もうと朱鎔基首相が脅迫めいた発言をした。それが逆効果となり、陳氏への支持が増加した。陳氏の当選は、50年にわたる中国国民党の一党統治体制に終止符を打ち、台湾において初めて選挙による政権交代が実現したという意義があった。
 これに対し、中国は台湾民衆の反中感情が高まるのを警戒し、経済、文化分野を中心に交流を進めてきた。政治的分野については介入してこなかったが、今回の中台首脳会談の実現によって、習政権は従来の政策を変更し、台湾への統一工作を加速することが予想される。
 最も注意すべきは、中国は台湾を核心的利益とし、台湾統一のためには、武力行使も辞さないという原則を掲げていることである。習主席は会談のなかで、米国の関与を排す姿勢をとり、独立派を牽制した。今後、中国は台湾に対して強大な軍事力で圧力をかけ、また人民元の威力を用いて、台湾への影響力増大を図っていくだろう。
 ただし、習主席の対台湾外交は、当面の選挙には逆効果になる可能性が高い。月刊『正論』の記事で矢板明夫氏は、次のように書いた。
 「台湾では2016年1月、総統選と立法委員選のダブル選挙が行われる。その直前に会談を実施したことが、台湾で『中国による露骨な干渉』と受け取られかねない。台湾の有権者が中国国民党への不信を募らせる展開になれば、習氏の意に反して台湾の独立勢力が勢いづく可能性もある。そうなれば、『会談は逆効果だった』といった批判が中国国内で噴出しかねない。習氏の権威が傷つく可能性がある」と。
 迫りくる中国の脅威を跳ね返し、自由で民主主義的な社会を守るには、台湾人民が目先の経済的利益に惑わされず、中国の野望を見抜いて、自らの意志を明確に示すことが必要である。
日本にとって台湾の運命は、決して他人ごとではない。日本と台湾は、わが国が大東亜戦争の敗戦まで56年間にわたって台湾を統治し、台湾の経済的・文化的発展に寄与したという歴史を持つ。大戦後も日本と台湾は、自由・デモクラシー・人権・法の支配等の多くの価値を共有している。台湾が共産中国に実質的に併合されてしまったら、わが国の安全保障は、今より格段と厳しい状況に置かれる。台湾人民の賢明なる選択に期待したい。

関連掲示
・拙稿「台湾は確かに自由民主主義国家である」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/b871e4d199516180daab3391d745d593

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