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2015年12月07日10:22

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パリ同時多発テロ事件と国際社会の対応6

●各国の対応〜ロシア

 ロシアのプーチン政権は本年(27年)の夏以降、ISILの掃討には全ての勢力が結集する必要があるとし、米国などの有志連合にシリアのアサド政権やイランなどを加えた「大連合」の形成を訴えた。ロシアは、クリミア併合によって欧米から経済制裁を科され、主要8カ国(G8)からも事実上追放されている。シリア内戦やISILに絡む問題で存在感を発揮し、G8に復帰することがプーチン大統領の念願と見られる。
 プーチン大統領は8割以上という高い支持率を誇っているが、経済の落ち込みがひどく、国民の不満が高じる恐れがある。ちなみに本年のGDPは4%近く下落し、ルーブルは2013年以来の半値になり、外貨の流出も止まらない。欧米による経済制裁は相当こたえているはずである。国際的な孤立から脱し、経済制裁が緩和ないし解除されるよう、ISILの掃討を利用したいところだろう。
 だが、ロシアは「大連合」構想を有志連合から拒否された。この結果を受けて、ロシアは本年9月にシリア空爆を開始した。この攻撃は、ISILだけでなく、アサド政権に反対する穏健な反政府勢力の自由シリア軍をも攻撃していたと見られる。これに対して、反政府勢力を支援している米国を中心に、ロシアへの批判が上がった。また、ISILはロシアの空爆に対し、ロシアへの報復を予告していた。
 そうした中で、10月31日ロシアの旅客機がエジプト北東部シナイ半島で墜落した。乗客乗員224人が死亡した。欧米諸国はテロの可能性に言及したが、プーチン氏は墜落の原因特定に慎重な姿勢を取った。シリア空爆がテロを招いたということは政権に不都合と考えたためだろう。
 9月の空爆開始後、プーチン氏は「テロリストを攻撃している」という言い方をして、ISILを攻撃しているとはあまり言わなかった。これは、ロシアに約2000万人おり、人口の14%を占めるイスラム教徒を刺激することを避けようとしたものだろう。ISILはスンニ派であり、ロシア国内のイスラム教徒の多くもスンニ派である。スンニ派を攻撃していると受け止められると、ロシア国内でのテロが増え、政権の支持率に影響することをプーチンは懸念していたのだろう。
 パリ同時多発テロ事件の直後に開催されたトルコでの20カ国・地域(G20)首脳会合では、テロに対して、より実質的な協力体制を構築すべきだとの意見が支配的となった。オバマ米大統領もプーチン大統領との会談で、ISILへの空爆に集中するよう求めながら、ロシアとの協力に肯定的な姿勢を見せた。
 すると、プーチン政権は、この機を捉えて、17日エジプトでのロシア旅客機墜落が爆弾テロだったとする調査結果を発表した。プーチン氏は、それまでの姿勢を変え、フランスと同様、テロの犠牲者を出した当事国としてテロとの戦いに臨む姿勢を示し、対ISILで主導権を確保しようとしているのだろう。同時にクリミア問題による国際的な孤立からの脱却を図り、また、対テロを旗印にしてロシア国民の結束を狙っているものと見られる。
 ロシア旅客機の墜落が爆弾テロだったことを公表した日、プーチン氏は、シリアでの作戦強化を国内外に誇示した。当日の出撃計画はそれまでの2〜3倍にあたる127回だった。東西冷戦期から知られる長距離戦略爆撃機「ツポレフ95」が、ロシア本土を発進して、巡航ミサイルでシリア北部アレッポの同組織拠点などを攻撃する様子が大きく報じられた。
 このシリア空爆に際し、ロシアは米国に事前通告を行った。米露両軍の偶発的な衝突回避に向けて、双方が10月に合意した手続きに基づく初の通告だったという。この点は、米国との接点を探ろうとしたものと言えよう。
 同日の17日、プーチン大統領は、フランスと共同作戦を行うことを提案し、露仏の共同作戦が開始された。プーチン氏はフランスをテロとの戦いを進める「同盟国」と呼んだ。これはフランスを取り込み、米国主導の有志連合を自国に有利な方向に持っていこうとするものだろう。
 ロシア機の爆弾テロとパリ同時多発テロ事件は、欧米とロシアが一定の協力を進める結果となった。ロシアにとっては、テロとの戦いを掲げることでウクライナやシリアをめぐる欧米との溝を埋め、国際的孤立から脱却を図る好機となっている。
 ただし、事がプーチン氏の思惑通りに運ぶとは思われない。欧米の主要国は対露協力に肯定的な姿勢を示してはいるが、ロシアにシリア反政府勢力への攻撃をやめさせ、空爆をISILに集中させることに力点が置かれている。対テロでの連帯で、ロシアがクリミア半島を武力で一方的に併合したことを帳消しにしないだろう。
 プーチン大統領は、シリア空爆の強化やフランスとの共同作戦によって、対ISILの主導権を握ろうとしていると見られる。これまで欧米やトルコ等とロシアは、シリアのアサド政権の評価をめぐって対立してきた。シリアでは、1970年のクーデターでアサド家が実権を握った。人口の約10%といわれるイスラム教アラウィ派を基盤とし、スンニ派の蜂起を弾圧して軍事的に独裁を維持している。シリアの内戦は、平成23年(2011)のチュニジアのジャスミン革命に始まる「アラブの春」が、シリアにも波及して起こったものである。同年以来、内戦による死者は25万人を超え、400万人以上の難民を出している。難民は近隣のトルコ、レバノン、ヨルダン、エジプト、リビアに逃れ、約32万以上が地中海を渡ってヨーロッパへ流入している。それゆえ、欧米諸国はアサド政権の正統性を認めていない。だが、ロシアは、欧米が非難するアサド政権を支持している。昨年(2014年)6月シリア領のわずか18%で実施された大統領選挙も合法としている。
 ロシアがシリアへの空爆を強化しているのも、ISIL掃討後を見越して、アサド政権を擁立し、シリアやその周辺諸国への影響力の拡大を目指しているものだろう。地政学的な利益を追求しようと動きである。このことは、ISILへの有志連合プラスロシアによる攻撃が奏功し、ISILを弱体化させ得た場合、必ずロシアと欧米・トルコ等の間の対立が顕在化することを意味する。それと同時に、シリアの内戦は、アサド政権と反政府勢力の戦いに重点を移しつつ、なお継続することが予想される。シリアの統治機構が安定しない限り、難民の流出も止まることはないだろう。
 ロシアの空母からの巡航ミサイルの発射と艦載機による空爆は、ISILの司令施設や石油関連施設、石油輸送車等をピンポイントで攻撃していることが、ロシア側から発表されている。一度の攻撃でISIL約600人を殺害したというような大きな戦果が報告されている。こうした報告が事実とすれば、昨年来行われている有志連合による空爆が、本気でやってきたのかを問われよう。朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争等、アメリカが主導する戦争は、必要以上に期間を引き伸ばし、軍需産業を潤しているという批判がある。ISILに対しても、その疑いが起こっていたところである。
 ISILについては、アメリカやイスラエルが育成・支援してきたのではないかという見方もある。オサマ・ビンラディンやアルカーイダについては、アメリカについて疑惑が起こった。この点は、拙稿「9・11〜欺かれた世界、日本の活路」に書いた。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12g.htm
 現代世界における国際関係の深層には、常識を覆すような不可解なことがいくつもある。その点については、拙稿「現代世界の支配構造とアメリカの衰退」に書いている。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09k.htm
 ISILについても、疑惑の可能性を排除することはできない。

 次回に続く。
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