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2015年07月03日08:48

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英国総選挙で大勝のキャメロン首相は、不法移民対策を強化

 本年5月7日イギリスで下院の総選挙が行われた。定数650のうち、与党の保守党が331議席を獲得し、1992年の総選挙以来、23年ぶりに単独過半数を制した。キャメロン首相は、保守党単独政権を樹立すると表明した。首相は勝利宣言で、「一つの連合王国を統治していく」と述べ、スコットランドの独立を阻止する意向を示した。また、欧州一の経済成長を達成した実績を強調し、経済政策の重視を約束した。欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の実施に向けた動きが活発化している。
 最大野党の労働党はスコットランドを中心に議席を減らし、232議席に終わった。選挙直前まで、保守党は労働党と支持率30%台で拮抗していた。だが、大方の予想を覆して、大勝を勝ち取った。奇跡的な勝利という評価もある。スコットランド民族党の躍進が確実視される中、キャメロン首相は、選挙戦で「国を分裂させようとするSNPと、国を経済破綻に追い込む労働党が手を組んだら、英国は存続の危機に瀕するだろう」と、「国家の危機」を徹底して訴えた。労働党とSNPが連立政権を樹立し、「連合王国の分裂」が現実化することへの恐怖感が、浮動票を大きく動かしたのだろう。特に大票田イングランドの有権者の多くが危機感を強め、保守党に投票したと見られる。また、リーマン・ショック後の経済立て直しを最優先してきたキャメロン政権への有権者の一定の評価も、勝利の要因だろう。
 キャメロン首相は、総選挙で「欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票を行えるのは保守党だけだ」とも訴えた。これによって、「反移民、反EU」を訴えて急速に支持を伸ばしていた小政党、英国独立党の支持層の取り込みにも一定程度、成功したという見方もある。
今回の選挙の焦点は、スコットランドだった。スコットランドでは、昨年9月に英国からの独立を問う住民投票が行われ、独立は否決されたが、依然として独立をめざす動きは続けられている。住民投票で分離独立は10ポイント余りの大差で否決された。英国の分裂を国際社会は望んでいない。だが、住民投票を主導した地域政党スコットランド民族党(SNP)は、今回の総選挙で労働党の議席を奪い、解散時の9倍超の56議席を得て第三党に躍進した。2010年の前回総選挙から50議席増やしたものである。またスコットランドに割り当てられた59議席のうち56議席を獲得し、1党体制近い状態になった。
 今回の総選挙では、SNPは「独立は目指さない」と述べ、最大野党の労働党と協力してスコットランドへの税制優遇策や経済支援などを取り付ける方針を取っていた。だが、労働党が大敗したため、この方針はとん挫した。SNPのスタージョン党首はBBC放送に、「これでスコットランドの声を中央政界に聞かせることができる」と述べた。、スコットランド住民の英国中央政界への強い不満を代弁しているSNPは、英国からの独立に向けた動きを強めていくだろう。
 キャメロン政権は、2017年に欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票を実施すると公約している。これに対し、SNPはEUの一員であることを維持しようとしている。SNPは、来年5月に実施されるスコットランド地方選挙でも勝利して政権基盤を強化し、キャメロン政権がEU離脱を問う国民投票を実施するのに合わせて、再びスコットランド独立を問う住民投票を行うと見られる。
 キャメロン首相は、すぐさまEU離脱を目指すのではなく、EU残留の条件としてEU改革を求め.その結果を見て、EU離脱を問う国民投票を2017年に実施する方針である。エリザベス女王は5月27日、議会で施政方針演説を行い、EUと改革案をめぐり再交渉した上で、2017年末までに国民投票を行うと言明した。
 この背景には、増加する移民の問題がある。英国では「移動の自由」が保障されたEU域内からの移民急増などで、EUに対する不満が高まっている。キャメロン首相は5月21日、不法滞在者らが労働により得た賃金を「犯罪による収入」と位置付け、没収する法案を制定する考えを表明した。同日英統計局が発表した2014年の移民純増数は推定31万8千人で、 前年に比べ52%増えた。欧州連合(EU)だけでなくEU以外の移民も大きく伸びた。これまで英国で労働資格のない滞在者に対する罰則はあったが、不法滞在者や密入国者の労働に対する取り締まりは手付かずだった。移民の増加に対し、移民によって仕事を奪われたり、社会保障費が増えているという不満が高まっており、キャメロン政権は不法移民の取り締まりを強化しようとしている。
 英国のEUに対する改革要求に、EUがどのように応じるかによって、英国のEU残留か離脱かが方向づけられるだろう。キャメロン氏は5月25日、EU欧州委員会のユンケル委員長とロンドン郊外の英首相公邸で会談し、英国民がEUの現状に不満を持ち、EUは改革されなければならないと考えていると伝えた。これに対し、ユンケル氏は前向きに検討する意向だと述べたという。ユンケル委員長は、EU基本条約に規定された統合の基本原則である「移動の自由」について、大幅な条約改正が必要な要求は拒否する姿勢を取っている。
 キャメロン氏は6月末に行われた欧州理事会で英国の具体的なEU改革案を提示した。EU諸国からの移民に対する社会保障給付に関し、英国に4年以上居住していることを条件とすることや、半年以上職を得られないEU移民を強制的に国外退去できるようにするなど、規則の大幅な変更を求めている。
 EUは、ギリシャ経済危機などをめぐり加盟国の結束が揺らいでいる。そうした中で、もし英国というEU加盟国で第2の経済規模を持ち、国連安全保障理事会常任理事国でもある大国が離脱すれば、EUにとっては大きな打撃となり、またEUの国際的な影響力の低下は避けられない。
最新の英国での世論調査では、EU残留支持派が離脱派をやや上回っている。EUからの離脱は、英国にとってプラスになるのかマイナスになるのか、経済や金融の面については、明確な見通しは示されていない。英国中央銀行は、英国がEUを離脱した際の影響について調べ始めた。調査は当初、秘密裏に行われていたが、英メディアが報道したため、中銀側は調査の継続を表明し、調査内容を将来公表する方針を示している。
 世界における英国という観点から言うと、まずキャメロン政権は対中姿勢を改めるべきである。英国は、中国が設立を進めているアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加をいち早く表明し、ドイツ・フランス等の国々が雪崩を打って参加するようになったきっかけを作った。これには、米国も不満を表し、米英に隙間が生じている。英国は、香港の旧宗主国でありながら、「一国二制度」をめぐって学生らが民主化を求めた昨年のデモに対して、中国の国際公約違反に抗議しようとしなかった。自由や人権という理念よりも、経済的な実利を優先するキャメロン政権の姿勢は、中国に対する自由主義諸国の足並みに乱れを生じている。
 国際的な安全保障においては、英国は北大西洋条約機構(NATO)の中心メンバーである。また、米国にとっては最大の同盟国である。英国がここ数年のような影の薄い存在を脱し、ウクライナをめぐるロシアへの対応やISILが勢力を伸ばしている中東への対応等における国際社会の取り組みに存在感を発揮してもらいたいものである。単独過半数を取ったキャメロン政権には積極的な国際貢献を行うことが期待される。
 我が国との間では、21世紀型の日英同盟を実現し、英国にアジア太平洋の安全保障にも協力してもらいたいものである。

関連掲示
・拙稿「スコットランド独立否決とその後の展望」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/7bcdc5045289a67958c59eca1f784dbe
・拙稿「21世紀の『日英同盟』復活へ」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/c3f5f722106b0c44a505281ba549588e
・拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09i.htm

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