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2014年12月06日08:50

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アベノミクスの検証と問題点〜田村秀男氏

 安倍首相は、今回の衆議院解散を「アベノミクス解散」と呼ぶ。選挙戦は、アベノミクスの評価を巡って争われる。ジャーナリストの中で、時々刻々と移り変わる経済の動きを捉えて、自らグラフを作成して読者に提示し、自らの主張を打ち出せる人は少ない。その数少ないうちの一人が、田村秀男氏である。
 田村氏は、アベノミクスの成果と問題点を、大意次のように述べている。アベノミクスが「最も目覚ましい成果を挙げたのは株価」である。「日銀がおカネを刷って、金融市場に流し込んで円安・株高に誘導し、景気をよくするという手法は弱いとはいえ、有効には違いないようだ」。だが、「GDPの改善基調は消費税率8%になった4月で暗転してしまった」。実は、勤労者家計の実質収入の増加率は、昨年10〜12月からマイナスに転じていた。それがなぜ起こったかと言うと、「インフレ目標2%を掲げる日銀は円安に誘導して輸入物価を押し上げ、消費者物価上昇率を1%台のプラスに押し上げた」。だが「企業の方はしばらくの間、景気の先行きを見極めるまでは賃上げには慎重になるので、物価上昇分だけ実質賃金が下がる。そこに消費税率引き上げ分が物価に転嫁されたので、実質賃金が急下降した」。「金融緩和を柱とするアベノミクスで消費は確かに上向いたが、航空機で言えば巡航速度に入る前に増税で逆噴射させたために失速してしまったのだ」。その結果、「GDP成長率は、実質収入のあとを追うようにぽきんと腰折れし、7〜9月期でさらに悪化した」、と。
 今後の見通しについては、田村氏は次のように見る。「安倍首相が来年10月に予定されていた消費税再増税を先送りしたのは当然だが、それでアベノミクスが息を吹き返すわけではない。消費税率8%が引き起こした家計への圧迫は今後も続く。安倍首相は引き続き、企業に賃上げを求めると言明しているが、国内需要に不安がある中では、おいそれとは実現しそうにない」。
 結論として、「アベノミクスに代わる現実的な脱デフレ策はない。総選挙を通じて、安倍政権と与党はアベノミクスのまき直し策を明示し、野党側も建設的な対案をぶつけるべきなのだ」と田村氏は述べている。
 田村氏自身は、次のような提案をしている。「安倍政権が消費税増税を見送るだけでは、アベノミクスを蘇生させられない。金融緩和に加えて、政府は財政出動に踏み切るべきだ。現役世代向けの所得税減税によって、増税デフレを払拭すべきだ」と。
 私は、概ね田村氏の意見に賛成する。私がアベノミクスの政策遂行に弱さを感じるのは、15年続いたデフレを脱却することがいかに大変な努力を要することか、また1年や2年で出来ることではなく数年はかかること、そしてその過程で一時的に実質賃金が減ったり、不景気が続くような時期がありうることを、しっかり国民に説明していなかったことである。この課題を国民によく理解してもらい、一致団結して取り組もう、と国民に心から呼びかける必要があった。今回の選挙で、アベノミクスの是非を問うに当たり、安倍首相及びアベノミクスを支持する政治家は、左記の点をよく腹に入れてもらいたいと思う。
 以下は、田村氏の記事。

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●産経新聞 平成26年11月23日

http://www.sankei.com/column/news/141123/clm1411230007-n1.html

2014.11.23 08:45更新
【日曜経済講座】
消せない「8%」の負の衝撃 総選挙の争点アベノミクスを検証する 編集委員・田村秀男

 あれよと言う間に衆院が解散され、総選挙が始まる。最大の争点はアベノミクスだ。打ち出されて2年近くになるアベノミクスの成果と問題点を検証してみよう。
 まずグラフを見てほしい。平成24年10〜12月期以降の日経平均株価と実質国内総生産(GDP)の伸び率、勤労者実質収入の伸び率の推移を追っている。実質とは、名目値から物価の上昇率を差し引いた正味の分だ。
 アベノミクスが本格的に始動した25年初め以来、最も目覚ましい成果を挙げたのは株価である。株価は上昇を続けた後、今年前半の停滞を経て再び上向いている。「第1の矢」である異次元金融緩和によって日銀がおカネを大量発行すると外国為替市場で円の価値が下がる。円安は輸出企業や多国籍化した大企業の収益をかさ上げする一方で、ドルに換算した日本株に割安感をもたらす。こうして日本株売買の7割前後を占めるニューヨーク・ウォール街などの海外投資家を引き寄せ、国内投資家が呼応する。
 読者の多くはここで疑問を持つだろう。確かに株高は投資家にとっては喜ばしいが、私たちが生活する実体経済をどれだけよくするのか、と。とりわけ、金融資産をため込むだけのゆとりのない一般の勤労者にとっては株式投資どころではない。
 リーマン・ショック当時のGDPと株価をそれぞれ100として、株価が100上がった場合の実質GDPがどれだけ上昇してきたか、日米の最近の2年間について筆者が試算してみると、米国は15前後で推移し、日本は3〜7の幅で動いている。米国はリーマン後、連邦準備制度理事会(FRB)がおカネの発行量を6年間で4倍以上増やして、株価を上昇させて景気を回復軌道に乗せた。
 日本の株高による景気押し上げ効果は米国に比べてかなり見劣りするものの、それなりに効き目がある。日銀がおカネを刷って、金融市場に流し込んで円安・株高に誘導し、景気をよくするという手法は弱いとはいえ、有効には違いないようだ。
 この好循環は今年1〜3月でぷっつり途絶えた。GDPの改善基調は消費税率8%になった4月で暗転してしまったが、その前に勤労者家計の実質収入は減り続けていた。


 実質収入の増加率は昨年10〜12月からマイナスに転じ、消費税増税後は下落に加速がかかった。GDP成長率は、実質収入のあとを追うようにぽきんと腰折れし、7〜9月期でさらに悪化した。収入が減れば、消費を切り詰める。家計消費が6割を占めるGDPが萎縮する。
 実質収入が減ったのは、物価上昇に賃上げが追いつかなかったためだ。インフレ目標2%を掲げる日銀は円安に誘導して輸入物価を押し上げ、消費者物価上昇率を1%台のプラスに押し上げた。企業の方はしばらくの間、景気の先行きを見極めるまでは賃上げには慎重になるので、物価上昇分だけ実質賃金が下がる。そこに消費税率引き上げ分が物価に転嫁されたので、実質賃金が急下降した。金融緩和を柱とするアベノミクスで消費は確かに上向いたが、航空機で言えば巡航速度に入る前に増税で逆噴射させたために失速してしまったのだ。民主党など野党は「アベノミクスの失敗」を騒ぎ立てるが、民主党政権が主導した「3党合意」による消費税増税が元凶だと素直に認めるべきだ。
 肝心の安倍首相も判断ミスを犯した。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は楽観的過ぎた。黒田氏は昨年10月初めの増税決断の際、異次元緩和をすれば消費税増税による悪影響を相殺できると首相に進言したのだ。
 そこで安倍首相が来年10月に予定されていた消費税再増税を先送りしたのは当然だが、それでアベノミクスが息を吹き返すわけではない。消費税率8%が引き起こした家計への圧迫は今後も続く。安倍首相は引き続き、企業に賃上げを求めると言明しているが、国内需要に不安がある中では、おいそれとは実現しそうにない。
 日銀のほうは10月末に異次元緩和の追加策に踏み切った。新規発行額の2倍近い国債を市場から購入すると同時に株価指数に連動する上場投資信託の買い上げ規模をこれまでの3倍にする。市場は沸き立ち円安・株高が進行しているが、それによる実体経済押し上げ効果に限度があるのは、上述した通りだ。
 筆者が知る限り、アベノミクスに代わる現実的な脱デフレ策はない。総選挙を通じて、安倍政権と与党はアベノミクスのまき直し策を明示し、野党側も建設的な対案をぶつけるべきなのだ。

●産経新聞 平成26年11月23日

http://www.sankei.com/premium/news/141123/prm1411230022-n1.html
2014.11.23 07:00更新
【お金は知っている】
アベノミクスは株高でも救えない 蘇生には財政出動を

 内閣府発表の7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値によると、実質成長率は前期比年率換算で2四半期続けてマイナス成長に落ち込んだ。消費税増税はデフレを再燃させつつある。
 甘利明経済財政・再生相はGDP速報値発表後の記者会見で、「デフレ下で消費増税を行うことの影響について学べた」と反省の弁。甘利氏周辺の内閣府エコノミストたちからは楽観論ばかり吹き込まれたのだろう。本欄などで、「消費税増税でアベノミクスは殺される」と1年半以上前から警告してきた筆者からすれば、これらエリート・エコノミスト、エリート官僚たちは、権力と納税者のカネを使って収集した豊富な情報をどのように歪曲(わいきょく)したか、知りたいところだ。
 安倍晋三首相が再増税を先送りし、衆院を解散したところで、アベノミクスが復調するわけではない。
 甘利氏は「大事なことは好循環をしっかり回していくことだ」と言い、「企業収益は過去に例のないくらいに好業績をあげている。それが内部留保にとどまらず、雇用者報酬に反映されることが一番大事だ」と賃上げを引き続き産業界に求めていくつもりのようだ。しかし、企業側は国内需要が継続的に上向かない限り、雇用増や賃金アップに乗り出さない。消費税増税で実質所得が減って消費が冷え込む中で、いきなり賃上げを求めるには無理がある。
 好業績なのは円安で為替差益が見込まれる輸出大手なのだが、内需型企業は原材料コスト上昇に悩まされている。
 即効性が期待されるのが金融緩和である。黒田東彦日銀総裁は10月末に思い切った「異次元緩和」追加策を打ち出し、円安、株高を演出した。円安は株高を導き、株高は実体経済を押し上げるという読みがある。
 伝統的な日銀マンにとっては、金融政策を通じて株高に誘導するのは「タブー」。株価を口にするのもいやがったものだが、黒田日銀は株式のインデックス投信を信託銀行全体の規模並みで買い上げるくらいなのだから、随分と変わったものだ。では、株高で実体経済はどのくらい押し上げられたのか。

(註 グラフは先の記事と同じもの)

 株高によるGDP押し上げ効果は、米国に比べてかなり弱い。グラフはリーマン・ショック後のデータをもとに筆者が試算した。株価が2倍になった場合、米国では2011年9月以降、一貫して実質GDPが15%前後増えるが、日本では12年12月以降は5%前後で、7月以降は2%台まで落ち込んだ。株高の効き目は薄れつつある。
 株価は一本調子で上昇するわけではない。株価押し上げをもくろむ金融政策自体、非常手段であり、期間、規模とも限度がある。さらに海外投資家の思惑に翻弄される。安倍政権が消費税増税を見送るだけでは、アベノミクスを蘇生(そせい)させられない。金融緩和に加えて、政府は財政出動に踏み切るべきだ。現役世代向けの所得税減税によって、増税デフレを払拭すべきだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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