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2014年11月11日08:57

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消費増税が異次元緩和を失効させた〜田村秀男氏

 黒田日銀総裁は、10月31日大規模な追加金融緩和を発表した。1年間に買い入れる資産を現在の約60兆〜70兆円から約80兆円に増やし、市場に流すお金の量を拡大する。黒田氏は「これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクを未然に防ぐ観点から必要にして十分な拡大をした」と説明する。継続的な追加金融緩和は必要だが、デフレ脱却は金融緩和だけではできない。市場に流通する通貨の量だけ増やしてもだめで、それが機動的な財政出動、民間の投資を呼び込む成長政策と有機的に連携しないと、デフレ脱却を進める強力な駆動力にならないだろう。ここで、最大のマイナス要因は、消費増税である。
 今回の日銀の金融政策決定について、政府が消費税を10%に上げる決断をしやすいような環境づくりではないかという見方がある。増税を目論む財務省と日銀が、裏で手を結んでいるのではないかという疑念がある。黒田総裁は、「再増税は政府が決めることであり、関与するところではない」と、政府の政策に影響を与える意図を否定しているが、もし今回の追加金融緩和に消費増税に結びつける狙いがあるとしたら、増税とともに効果を失うだろう。既に、これまでの大胆な金融緩和は、8%への消費増税で、相当程度効果を失っている。その二の舞となるだろう。

 財務省には、内閣府が財務官僚に都合の良い虚偽のデータを提供している。財務省と内閣府の姿勢をともに批判して、消費増税に反対してきたエコノミストは、少ない。その数少ないエコノミストの一人が、産経新聞編集委員の田村秀男氏である。田村氏は、本年4月の増税前に、次のように警告した。拙稿から自己引用する。
 「この状態で4月から消費増税がされる。その影響などで消費者物価は3%上昇すると見込まれるが、賃上げ率が3%以上にならないと、現役世代は消費水準をさらに落とすしかない。『物価は上がっても需要が大きく減る“スタグフレーション”という最悪の局面になりかねない。その先はデフレ不況の再来だ』と田村氏は危惧する」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/406ef1ccec34b9815767e04b19409c8c
 4月の増税後も、田村氏は、データを上げて、失策であったことを指摘し、このままさらに追加増税することに反対している。「せっかく脱デフレに向け自律的な回復軌道が見え始めたというのに、政府が自らの政策でそれを壊すのは悲劇と言うよりも奇々怪々、不可思議である」と。その意見は、4月24日の拙稿で紹介した。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/97ae426912eaf15105e9dd346d53731c
 消費者物価が上がっても賃上げ率がそれを下回る状態が続くと、インフレと実質賃金低下・需要減少型不況によるスタグフレーションに陥る恐れがある。スタグフレーションとは、1970年代以降、石油危機の中で米国等の先進国が経験した不況下のインフレという経済現象である。1970年代の米国はインフレからスタグフレーションに進んだが、今度はわが国がデフレからスタグフレーションに進みかねない。
 10月5日の産経新聞の記事では、田村氏は大意次のように書いている。
 「今年4月の消費税増税を機にアベノミクスの主柱である『異次元金融緩和』の効能が失せた」。すなわち「8%への税率アップが、金融緩和・円安・脱デフレの道を破壊した」。アベノミクスが開始され、当初は日銀のシナリオ通り、「円安軌道が生まれ、輸入物価上昇に引き上げられるようにして消費者物価もすこしずつ上がり始めた。鉱工業生産も上向いた」。ところが、「家計の消費水準の回復の足取りは重い。日本のデフレ病とは、物価が下がり続けるばかりではない。物価下落以上の度合で賃金が下がる、つまり、実質所得が下がる。収入が目減りするのだから、家計の消費は増えようがない。そこに追い打ちをかけたのが4月からの消費税増税である」「家計消費は4〜6月に戦後最大級の落ち込みをみせた後、7、8月も低水準が続く」「消費税増税前の駆け込み需要後の急減から7月にはV字形に反転するという楽観論は、実質的な家計収入の減少という日本病を甘くみた」
 この状態で、「焦点は今や、来年10月予定の消費税率再引き上げをめぐる是非論議」に移っている。だが、「4月の8%への税率アップが、金融緩和・円安・脱デフレの道を破壊した現実を無視するようだと、金融緩和と補正予算の組み合わせで増税ショックをかわせるという、破綻したはずの増税論理に押し切られかねない。その結末は円安下でのインフレと不況、いわゆる『スタグフレーション』の局面だ」と。
 私見を述べると、今の状態で、8%を10%に上げる追加の消費増税は、絶対やってはならない。日銀が大胆な金融緩和を行った後であっても、政府は消費税を8%にとどめて、まずデフレ脱却に目的を絞り、機動的財政出動、成長戦略をしっかり進めていったうえで判断すべきである。
 以下は田村氏の記事。

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●産経新聞 平成26年10月5日

http://www.sankei.com/column/news/141005/clm1410050008-n1.html
2014.10.5 12:45更新

【日曜経済講座】
効かなくなった異次元緩和 編集委員・田村秀男

■消費税増税が最大の障害

 今月1日以降は中国の国慶節休暇週。中国人ツアーのラッシュだと聞いて、東京・銀座に足を運んでみた。デパートの有名ブランドのバッグ売り場を覗(のぞ)くと、日焼けし、ギラギラした顔つきの中年の男たちが目に入る。「ニイハオ(こんにちは)」と話しかけると、「日本はとにかく安い」とご満悦。「女たちへのみやげに何個もまとめ買いする者もいるよ」とか。何しろ、年10%前後の高利回り信託商品も持つ中国の中間層や富裕層のフトコロは豊かだし、人民元は円に対して昨年初め以来約25%高くなった。
 円安が中国など外国人観光客の数を増やし、高級デパートの売り上げ増に貢献しているには違いない。が、われわれにはおよそ別の世界の生業のようだ。日本人ときたら、預金金利はゼロ、増える税負担と物価上昇のために使えるおカネは減っている。
 いったい何が起きているのか、まず結論を言おう。
 今年4月の消費税増税を機にアベノミクスの主柱である「異次元金融緩和」の効能が失(う)せたのだ。ほぼ1年前、金融緩和で増税による副作用を打ち消せるとみて、安倍晋三首相に増税実施を決断させた黒田東彦(はるひこ)日銀総裁はオウンゴールを演じたと、筆者は断じる。
 アベノミクスは異次元緩和に加え、「機動的財政出動」「成長戦略」の「三本の矢」で構成されるが、成長戦略には即効性がない。財政出動の柱は公共事業だが、建設関連の職人不足や資材価格高騰などで消化難に陥るなどの弊害が目立つし、持続的な成長にはつながっていない。
 日銀が年間六十数兆円もの資金を発行して、金融機関から国債などを買い上げる異次元緩和策は、市場金利を押し下げてきた。金利を生まない円の価値は金利が高いドルに対して下がると市場が予想するので円安となる。円安は輸入コストを上昇させる結果、消費者物価を押し上げる。
 その結果、名目金利から物価上昇分を差し引いた実質金利は全般的にマイナスに転じる。円建ての金融資産は目減りすることになるので、ますます円安が進む。円安で輸出企業の収益が増えて株価が上がるし、輸出が有利になるので、国内での生産や投資が増え、雇用や所得の増加につながるという筋書きだ。金融緩和の最大の狙いは円安であり、円安基調が続けば、物価も賃金も上がるので、15年以上も続いてきた慢性デフレから脱出できると黒田総裁ら日銀幹部は踏んだに違いない。

 ここでグラフを見よう。円の対ドル相場を含め、アベノミクスが始まった平成24年12月時点を100に置き換えて経済指標を月ごとに追った。上記のシナリオ通り、円安軌道が生まれ、輸入物価上昇に引き上げられるようにして消費者物価もすこしずつ上がり始めた。鉱工業生産も上向いた。ところが家計の消費水準の回復の足取りは重い。日本のデフレ病とは、物価が下がり続けるばかりではない。物価下落以上の度合で賃金が下がる、つまり、実質所得が下がる。収入が目減りするのだから、家計の消費は増えようがない。
 そこに追い打ちをかけたのが4月からの消費税増税である。消費者物価上昇率は昨年9月から1%台に乗ったが、今年4月以降は一挙に3%台半ばにジャンプした。春闘によるベアも物価上昇に追いつかず、実質賃金は押し下げられた。家計消費は4〜6月に戦後最大級の落ち込みをみせた後、7、8月も低水準が続く。企業のほうは在庫の急増にあわてて、減産に転じている。消費税増税前の駆け込み需要後の急減から7月にはV字形に反転するという楽観論は、実質的な家計収入の減少という日本病を甘くみた。
 今、産業界では円安について見方が二極に分かれている。輸出業種を中心とする大企業は円安を歓迎するが、輸入コスト上昇に悩む中小企業や地方の住民からの反発が高まっている。
 黒田総裁は9月16日時点で円安について「自然な形」と述べた。筆者は円安容認に異論はないが、黒田さんは大事なポイントを外している。消費税増税の回避である。
 焦点は今や、来年10月予定の消費税率再引き上げをめぐる是非論議だ。4月の8%への税率アップが、金融緩和・円安・脱デフレの道を破壊した現実を無視するようだと、金融緩和と補正予算の組み合わせで増税ショックをかわせるという、破綻したはずの増税論理に押し切られかねない。その結末は円安下でのインフレと不況、いわゆる「スタグフレーション」の局面だ。銀座でみた風景の明暗は一層どぎつくなるだろう。
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関連掲示
・拙稿「アベノミクスに情報戦略の強靭化を〜宍戸駿太郎氏2」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13u.htm
・拙稿「アベノミクスの金融政策を指南〜浜田宏一氏」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13t.htm
・拙稿「デフレ脱却の経済学〜岩田規久男氏」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13s.htm

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