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2014年08月20日10:24

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現代世界史23〜超大国の衰退

●米国の衰退の原因、その背景と根底にあるもの
 
 米国の経済は容易に脱却できない深刻な状態にある。米国の衰退の原因はどこにあるのか。
 米国は、旧ソ連の崩壊後、世界で唯一の超大国となり、ソ連・東欧を市場に組み込み、アジアに積極的に投資することで、帝国の繁栄を謳歌していた。しかし、今や米国は最盛期を過ぎ、衰退に向かっている。私は、衰退の主たる原因の一つに、米国が金融資本への規制を廃止し、強欲資本主義の暴走を許したことがあると考える。規制を廃止させて暴走を招いたのは、新自由主義の経済思想であり、リーマン・ショックは新自由主義が行き着いた結果である。だが、米国の指導層は、未だにこの点に関する根本的な反省と転換を行ってはいない。
 オバマ大統領は「Change(変革)」をスローガンに掲げ、共和党に替わって、民主党による政権を樹立した。しかし、アメリカの二大政党の後には、巨大国際金融資本が存在する。私は、第1期オバマ政権の開始時点で、オバマもまたアメリカの歴代大統領と同様、アメリカ及び西欧の所有者集団の意思に妥協・融和せざるをえないだろうと予想したが、やはりその通りになった。
 次に、私は、米国が金融資本への規制を廃止し、強欲資本主義の暴走を許し、衰退の道を進んだ背景には、米国の政治構造があると考える。米国の連邦政府は、大統領を中心とした行政組織というより、財界を基盤とした行政組織と見たほうがよい。国民が選んだ大統領が自由に組閣するというより、むしろ財界人やその代理人が政府の要所を占める。政治の実権を握っているのは財閥であって、大統領は表向きの「顔」のような存在となっている。国民が選んだ「顔」を掲げてあれば、政府は機能する。だから、誰が大統領になっても、所有者集団は自分たちの利益のために、国家の外交や内政を動かすことができる。このようになっているのが、米国の政治構造である。
 国民は二つの大政党が立てる候補のどちらかを選ぶ。片方が駄目だと思えば、もう片方を選ぶ。そういう二者択一の自由はある。しかし、米国では、大統領が共和党か民主党かということは、決定的な違いとなっていない。表向きの「顔」である大統領が赤であれ青であれ、所有者集団は外交・国防・財務等を自分たちの意思に沿うように動かすことができる。共和党・民主党という政党はあるが、実態は政党の違いを越えた「財閥党」が後ろから政権を維持・管理していると考えられる。
 次に、米国の政治構造の根底には、人種差別の問題がある。ノーベル経済学賞受賞者のジョゼフ・E・スティグリッツは、米国は1%の富裕層と99%の貧困層に分かれてしまったと指摘する。富裕層は、民主的な政治のもとで統治機構を通じてレント・シーキングを行っている。超過利潤の獲得である。「政治家やその応援団は常に1%のための政策を遂行するので、99%の不幸が続く。それが根本的に間違っている」との主張である。その結果、生じている極端な格差の背景には、エマニュエル・トッドがいうところの米国のデモクラシーの「暗い秘密」がある。家族人類学・歴史人口学の権威であるトッドは、米国では白人はインディアンや黒人を差別することによって、白人同士の間には平等の観念が成立した。トッドは、白人の平等と黒人への差別の共存は、「アメリカのデモクラシーの拠って立つ基盤」である、と指摘する。
 建国以来、初めて黒人の大統領が誕生したことは、まだアメリカが有色人種の優位な国になったことを意味しない。アメリカは貧富の差が大きく、社会保障が発達していない。新生児死亡率が高い。国民全体をカバーする医療保険制度がない。その面では、先進国とはいえない。極端な格差の原因には、「白人による人種差別意識がある」と、同じくノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンは告発している。
 新自由主義は、根底に人種差別意識のある米国社会では、市場における自由競争による格差拡大、弱者切り捨てを正当化する理論として働く。しかし、一部の富裕層が保有する富をさらに増大させても、社会全体の活力はそれほど上がるものではない。中間層の所得が増え、購買力が伸長しないと、国内の総生産=総所得=総支出は回復しない。中間層が上昇することで、貧困層も上昇できるような経済社会政策が強力に実行されないと、”1%対99%”に二極分化した帝国は、虚栄と荒廃の中で衰亡していくだろう。
 以上、米国の衰退について3点述べた。主たる原因は金融資本への規制を廃止し、強欲資本主義の暴走を許したこと、その背景にある政治構造、さらに根底にある人種差別意識であると私は考える。

●米国は慢性的経済危機を脱し得るか

 米国では、二大政党の間では、大まかに言って民主党は税収を確保し、社会保障などを充実させる「大きな政府」を志向する。共和党は税も含め規制など政府の国民生活への介入を最小限にする「小さな政府」を志向する。思想的には、共和党は古典的リベラリズム、民主党は思想的には修正リベラリズムがもとになっている。共和党は、1980年代から新自由主義が主流となり、新自由主義的なグローバリズムを推し進めてきた。グローバリズムはもともと民主党の特徴だったが、共和党がお株を奪った形である。民主党は、修正リベラリズムとはいっても、共和党と同じく米国独自の独立・自助の精神が根底にある。わが国や西欧諸国に比べると、米国は個人主義的な傾向が強い。
 デフォルト回避のため、その度に債務上限引き上げ法案をめぐって、米国連邦議会で期限の間際まで議論がされる。民主党の指導部が共和党への歩み寄りを見せると、民主党の左派が指導部に反発する。共和党でも指導部が法案成立に妥協を図ると、草の根保守運動の「ティーパーティー(茶会)」系の議員が反対する。このことが示すものは、民主党・共和党という政党レベルの対立とともに、それぞれの党内でも様々な思想・価値観の対立があることである。米国社会では、多様な思想・価値観がぶつかり合っており、一つにまとまることは非常に難しい。だが、米国の国家財政を維持するには、債務上限の引き上げは絶対条件である。富裕層への増税か、所得控除幅の縮小か、中間層・貧困層の社会保障の削減か、国防費の削減かーーデフォルトを回避するための妥協を積み重ね、対応策をまとめるには、険しい道をたどることになるだろう。
米国が国家債務不履行という最悪の事態に陥ったのでは、世界全体が混迷を極めることになる。世界最大の経済大国としての責任を以て、財政危機を打開してもらわねばならない。

●アメリカ人は生き方を変える必要がある

 米国は莫大な財政赤字・貿易赤字を抱えながらも、基軸通貨ドルの発行量を増加し、国際市場からドルを還流させるなどして、物質的な繁栄を追求してきた。だが、その結果、生み出された財政危機が、従来の経済政策で大きく好転できると思えない。米国は製造業を軽視し、金融主導の経済になっている。カネがカネを生むカジノ型資本主義は、国民経済を破壊し、社会の格差を拡大してきた。米国のGDPに占める家計消費額は71%だが、その消費は世界各国からの借金で欲望を刺激して生み出しているものである。米国民は、貧困層に至るまで贅沢な生活に慣れ、ローン利用の過剰消費癖から抜けられない人が多くなっている。
 一部のエコノミストは、米国は経済危機が深刻化すると、デノミか北米共通通貨・仮称アメロへの切り替えをやって、事実上の借金踏み倒しをするかもしれないと観測している。帝国中枢部の支配層とそれに連なる所有者集団は、自分たちの富を守るために、最後の手段としてこういう強引な方法を取るかも知れない。だが、米国には新たな再興の可能性が出てきている。シェールガス革命である。資源利用のイノヴェーションにより、シェールガスの生産が本格化しており、既に世界のエネルギー市場で資源の価格や販路に影響を与えている。国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、米国は天然ガス生産で2015年にロシアを上回り世界最大になり、産油量も2020年代半ばまでにサウジアラビアを抜き世界最大となる見通しである。2035年までに米国は必要なエネルギーのほとんどを自給できるようになるという。
 シェールガス革命は米国を救うことで、世界を救う天の恵みかもしれない。ただし、課題は米国が世界最大のエネルギー供給国になるまでの間、財政危機を克服できるかどうかである。米国がこの際どい隘路を転落せずに進み得るかは、アメリカ人が価値観、生き方、精神を改められるかどうかにかかっているだろう。民主党にせよ、共和党にせよ、社会民主主義者にせよ、ティーパーティーにせよ、この点に気づき、国民の意識・文化・生活の変革を進めないと、米国はいずれ放恣と対立の中で自滅しかねない。
 アメリカ経済に依存・従属している日本にとって、これは他人事ではない。帝国の本国が潰れたならば、属国もまた潰れる。本国は属国を食い物にして危機を生き延びようとする。当面そのための方策となっているのが、TPPである。国家債務不履行の危機を生き延びるために米国は、わが国に対して、一層強くTPPへの参加を求めるだろう。軽々しくこれに乗ってはいけない。安易に乗ったら、日本は奈落への道をたどることになる。
 私は、わが国が本来、ここでなすべきことは、米国民に対して、物質中心・経済中心の考え方を改め、生活を改めるよう促すことだと思う。物質的な繁栄は、精神的な向上と、ともに進むものでなければ、人間は自らの欲望によって自滅する。物心調和の社会をめざすのでなければ、真の幸福と永遠の発展は得られない。米国が従来の価値観を脱し、物心調和の文明を目指す国に変わらなければ、世界全体もまた人類が生み出した物質文明とともに崩壊の道を下るだろう。

 次回に続く。

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