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2014年07月15日10:28

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イラクが過激派武装組織の進撃で内戦状態に5

●クルド人の動き

 イラク情勢が複雑なのは、シーア派とスンニ派の対立、各宗派内の対立だけでなく、アラブ人とクルド人の対立があることである。
 クルド人は主にイラク北部、トルコ南東部、イラン西部、シリア北部にまたがる地域に居住する民族である。宗教は大半がイスラム教スンニ派だが、一部はシーア派に属している。
 第1次世界大戦後、中東で新たな国境線が引かれたため、クルド人が住む地域は分断された。それぞれの国では少数派だが、民族全体では2000万人以上いるとされ、「国家を持たない世界最大の民族」といわれている。クルド人は、連携しながら各国で自治や分離・独立を求める運動をしている。イラクでは、北部3県で自治政府を構成し、自治権を行使している。
 クルド人は、フセイン政権時代には、虐殺や差別の対象とされた。クルド人は、シーア派主導のマリキ政権と同様にISとは敵対関係にある。ISにはスンニ派主導だった旧フセイン政権の関係者が多数協力している。クルド人にとって、ISはシーア派と共通の敵となっている。
 クルド人は、旧名ISISの進撃による混乱に乗じて、6月中旬、近隣の油田都市キルクークを掌握した。クルド自治政府は今年初め、トルコとの間に新設したパイプラインで石油の輸送を開始し、すべての石油収入は中央政府が管理すべきだとするマリキ政権と対立が深まっていた。今回掌握したキルクークにはアラブ人やクルド人が混在しており、中央政府とクルド自治政府は互いに支配権を主張して、小規模な衝突がしばしば発生していた。クルド自治政府は、ISISがモスルを制圧し、イラク政府軍が撤退したのを受けて、キルクークなど自治領域以外だが、歴史的にはクルド人の土地とみなしてきた範囲に、民兵組織ペシュメルガを進駐させた。クルド自治政府は「要衝のキルクークをテロリストから守る」ためと主張している。
 クルド自治政府は、マリキ政権が反攻を進めるイラク中部でISISが放棄した町を掌握するなど、勢力の拡大を図る動きを見せてきた。6月29日ISISが指導者バグダーディを「カリフ」として奉じる「イスラム国家」(IS)の樹立を宣言すると、クルド自治政府はこの動きに乗じて、自治区外の係争地に治安部隊を派遣し、実効支配を拡大した。さらにクルド自治政府の最高指導者バルザニ議長は7月1日までに、数カ月以内に独立の是非を問う住民投票を行うと、英BBC放送のインタビューで述べた。バルザニ議長は「もはや(独立という)私たちの目標を隠しはしない。イラクは今、事実上分裂した。独立するかを決めるのは私ではなく、人々だ」と語った。住民投票が実行されると、イラク分裂がさらに現実化する可能性がある。
 もしイラクの中央政府側が巻き返して「イスラム国」側が後退した場合、クルド自治政府と中央政府またはスンニ派の諸勢力との緊張が高まる可能性がある。また、仮に自治区がイラクからの独立を宣言すれば、トルコ、イラン、シリア各国に住むクルド人が編入を求める動きを活発化するだろう。
 こうした状況でイスラエルのネタニヤフ首相は6月29日、クルド自治政府の「独立を支持する」と言明した。この発言はイラク、イランの反発を引き起こし、中東の最も根本的な構造であるイスラエル対イスラム諸国という構造をあらためて浮かび上がらせている。ネタニヤフ首相は、右派リクードの党首である。クルド独立支持の姿勢は、単に民族自決の尊重という姿勢ではない。イラク等、イスラム諸国の内部分裂を促進し、自国の立場を有利にしようという計算だろう。またこの姿勢は、イラクでクルド人を含む挙国一致体制の構築を目指す米国政府の立場と対立する可能性がある。米国政府は、イスラエルのロビー活動によって、政治家の多くが極めてイスラエル寄りの立場を取っているため、米国の方針がイスラエルに引きずられることもあり得る。

 次回に続く。
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