mixiユーザー(id:34218852)

2014年05月14日21:17

233 view

フィクションの中へ(42) 西村賢太「疒の歌(6)」完結編

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1920182514&owner_id=34218852
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1921101772&owner_id=34218852

西村賢太「疒の歌」についてはこれまで二つ書いてきたが、いよいよ新潮2014・5月号で完結した。二十歳を前にした北町貫太が、これまでの自堕落な生活を改めようとして、新規まき直し、横浜に下宿のアパートを移して造園会社で働きだし、古本屋で出会った「田中秀光」を読み始める。一方、事務員の女性に惚れこんで、彼女にも好かれていると接近するのだが嫌われていたことを思い知らされる。それだけでなく、忘年会で同僚一同とも衝突して、憤懣やるかたなく会社を飛び出すのだが、アパートに帰って以前に買っていた田中秀光を読む進むことで癒されてゆくことに気がつく。
そして、秀光関連の古本を捜すうちに異様な「藤沢清造」とも出会うのであるが、社長から同僚たちが君と合わないと言うので辞めてくれと申し渡される。貫太はこの新天地に見切りをつけて元居た大塚や駒込に戻る決心をする所で終わりとなった。

ここではやっていけないと決心し・・・と言うところで、魯迅「阿Q正伝」を思い出した。子孫を残すためにはしための女と結婚せねばと思い込んだ阿Qが、彼女に付きまとって嫌われて主人に訴えられ、近在からの雑用仕事がなくなってしまう。腹を減らした阿Qは、尼寺の菜園で食べ物を探すのだが番犬に追われ、やっとの思いで塀の外へ逃れて、盗んだ大根をかじりながら新天地に移ろうと決心する場面である。
若い頃「阿Q正伝」を読んで感動したのだが、だからといって自分が阿Qに似ているとは思わなかった。今、貫太との共通点を見ると、やっぱり自分とも似ていたのかと思ってしまう。

しかし、全体としては、江戸っ子で、見栄を張って短気で、親父に似ていることにコンプレックスを持ち、ということなら「坊ちゃん」だった。「坊ちゃん」の場合は、松山に見切りをつけて東京に帰り、その後は、電鉄の技手となり清といっしょに住むということが知らされただけだが、貫太の場合、田中秀光から藤沢清造へと、どうしようもない自分を描く私小説作家と出会うことで、自身と向き合う習慣を身につけて行くのである。

気質のままに無意識を生きてきた「阿Q」あるいは「坊ちゃん」が、自身と向き合うことで北町貫太になったのに違いない。

0 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2014年05月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031