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2012年09月04日10:01

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ファンタジーの往還(5)  アリスのその後

 先にアンの項で、続編があるのは主人公のそうなる前や後を知りたいからだといったが、考えてみればそれだけではない。魅力ある主人公に関して別の解釈をしたくなることもあるようだ。
 ティム・バートン監督「アリス・イン・ワンダーランド」2010(脚本リンダ・ウールヴァートン、いかれた帽子屋ジョニー・デップ、アリス ミア・ワシコウスカヤ)は19歳になったアリスが新しい生き方を模索する物語である。映画は見られなかったので入間眞によるノベライズ(竹書房)を読んだ。
 理解者である企業家の父をなくしたアリスは、父の共同経営者だった貴族の息子との結婚を勧められる。その時、子供の頃夢に見たウサギがあらわれアリスを地下の国に誘う。そこでは、寛容な白の女王を追い出した、妹で暴君の赤の女王の独裁下で、おなじみのキャラクターたちは苦しめられていた。彼等はアリスが赤の女王の悪龍と戦ってまた元の白の女王の世に戻してくれることを期待しているのである。となれば、「ナルニア国」や「オズの魔法使い」になってしまうのだが。
 アリスは龍を殺すのは気が進まないのだが、そうしなければ仲間たちが殺されると悟り剣を抜く。そして、現実の世界に戻って、結婚話を断り、代りに父が残した交易会社に中国(当時は清)支店を開設するように勧め、その支配人として中国へ旅立ってゆく。・・・と言うことで、監督は、テーマパークのお遊戯の後、貴族の奥様におさまらず(実際のアリスのように)、龍を殺すという通過儀礼を経てひとり立ちするアリスを見たかったに違いない。まことに今日的で、若者にとってためになる映画である。

 それで思いだしたが、昔もう一つのアリスの映画をみたことがあった。調べてみると「dreamchild」1985年のイギリスのテレビドラマだった。これは80歳になった未亡人アリス・ハーグリーヴズが、ルーイス・キャロル関連文書等を保存していたという功績で、1932年にコロンビア大学の名誉博士号を受けに行く船旅での幻想を描いたものである。アリスの物語の元となったのは1862年のオックスフォード大学数学講師ドジソン(キャロル)や同僚とリデル学寮長の3姉妹(次女アリス10歳)とのボート遊びであったが、二人の関係は微妙なものであったという。ドジソンのアリスを見る目は本当にイノセントな愛情だったのか(実際、昔からアリコンとして大いに疑われているのである)。逆に、アリスの方もドジソンのどもり癖をまねて馬鹿に(mock)して、結局は大地主で治安判事の家系の(つまり貴族に次ぐジェントルマン階級)学生ハーグリーヴズと結婚することとなった(従来のキャロルファンの見方は、母親が貧乏講師の出入りを禁じたから、というものである)。
 アリスは船室におなじみのキャラクターたちの出没するなかで心を整理し、聴衆や偽ウミガメ(mock turtle)などの前で、ドジソン先生(当時はすでに故人)と和解する。
 ということで、これは意表を突く設定で二人の関係、その深層意識でのトラウマ(あるはずと仮定して)に迫ったものである。
 そして、両方の映画に言えることだろうが、大人になれない心理状態の克服や深層のトラウマを癒すのには幻想的なキャラクターの助けが有効なようである。村上春樹の多用しているところだが。

 さて、いずれにしてもキャロルの原作はたのしいキャラクターが登場するこどものなぞなぞ遊び、せいぜい「おまえは誰だ」に答えるアイデンティティ確認のための思考訓練と位置付けられているようだ。大いに異議がある。そもそも、アリスの最後の場面は処刑の求刑される重罪法廷での弁護側の証人なのである。そこでアリスは敢然と暴君ハートの女王と対峙し一歩も引かなかった。
 となれば、それまでの不思議の国ワンダーランドでのなぞなぞ問答は何のためだったのか考え直すべきであろう。私の解釈では、法廷でのどんな詭弁にも惑わされないための弁論術や論理学の訓練の場であったということである。
 それに、暴君が女王というのが気になる。ヴィクトリア女王の時代であるが、そのあてこすりと取られなかったのであろうか。もちろん、この女王は名君として愛されているのであるが、しかし、立場がちがえばアリスも卵を食べる鳥の天敵、蛇と同類だとされているのだ。女王も植民地からみれば暴君であったろう。アリスの母親は、ドジソンに危険思想を見てとったのでなかろうか。・・・という設定で新しいドラマを作れるのでないかと空想する次第である。
 最後に、アリスの最後で、すべて夢だったこと明かされるのはよいとして、一緒にいたのが当時13歳だった姉とは思えないのである。無邪気なアリスが大人になって結婚して・・・などと考えるのは13歳では無理、母親がふさわしい。ではなぜ素直に母親としなかったのだろう。そこに姉も妹もいてもよいのだから。多分、母親が忌避されていたのだろう。
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