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2012年02月03日17:59

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映像の向こう側(12) めしのみに生きるにあらず

 成瀬巳喜男監督「めし」東宝1951年 原作・林芙美子(未完・絶筆)をみた。
 転勤で大阪に住む、夫(上原謙)妻(岡本三千代・原節子)の心のすれ違いを描いた成瀬監督の代表作とのこと。成瀬は、今では溝口、小津、黒沢に次ぐ世界的映画監督とのことだが、そうなったのは死後のことで、生前は国内限定の量産監督とした評価されなかったとのことである。
 時代は戦後6年目、まだ貧しい大阪郊外の長屋暮らしの子供のない夫婦、夫は家の帰れば、寝そべって新聞を読み、妻の顔を見れば「めし」としか言わない。・・・と妻は感じていて、それを大きな不満としている。心を慰めるのは飼い猫ばかりであった。そこへ、夫の姪(岡本里子・島崎雪子)が、進められる結婚相手に不満だとして家出してくる。三千代は面白くないのだが、夫は里子をやさしくいたわる・・・ように見える。
 いつまでも居座っている里子と煮え切らない夫に業を煮やした三千代は、里子を東京の夫の実家に連れ帰り、自分もそのまま母(杉村春子)と妹(杉葉子)夫婦のいる実家にもどる。三千代の気持は、離婚と不安の間で定まらない。そこへ、またしても里子がお父さんが怒る、と言って転がり込んでくる。とうとう、義弟(小林桂樹)も堪忍袋の緒をきらす。
 その後、夫は東京出張といって妻の実家を訪ねてくる。外の食堂でビールをのみながら、「今まで手紙を書かなかったのは、すぐ帰ってくるものと思っていたから」だと言う。三千代も一度書くことは書いたのだが、出さないままであった。そして、「勤め先を変えないかと誘われているが、妻と相談するからといって待ってもらっている」というのだが、三千代は「そんなことはあなたが決めればよいのに」という。夫は「ああ腹減った」といって、ごめんと謝る。顔を見ればそれしか言わないと、不満をぶつけられていたのを思い出したのだ。
 結局、二人は一緒に大阪へもどる汽車の乗り、三千代は手紙を細かくちぎって窓から捨てたのだった。
 夫婦のすれ違いは、「風呂、めし、寝る」としか言わないとされてきた日本の夫に原因がある、とするべきであろう。「サザエさん」にも、新しい服を着ておめかししたお母さんが、「あなた どお」と言ったら、「ああ めしにしてくれ」と返され、「あんたのお父さんという人は、そういう人です」とサザエさんに不満を言うマンガがあった。
 しかし、それだけではなさそうである。妻・三千代の不満は、夫に会話のないことにも一因があるはずである。しかし、東京に出てきた夫が、転職の相談をすると、そんなことと言って相談にのらないのである。生活を支える夫は、当然、結婚前にはしていたはずの、映画や文学の話ばかりをしていられないのであって、特に大事なのは仕事を変える、というような事態なのである。
 ただし、仕事も飯の種、飯のうちである。イエスの言うように、パンだけでは心が満たされないのだ。
 
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