今回の芥川賞候補作の1つ。この作家としては3回目の候補作だ。
読みやすく、わかりやすかった分、インパクトは薄めと感じた。
宇都宮の県立進学男子校2年生の達也は、文系の成績優秀な生徒。
だが、K の他には友だちもいない、いじめに遭いそうなタイプ。
物語は彼と彼の父の、1995年後半のできごとなのだが、
少しずつ達也の家族構成が明かされていく。
典型的な田舎の3世代で、嫁姑の様子や、
達也の両親の馴れ初めまでもが、自然に描かれるところは巧いと思う。
達也の父はカメラマンから身を起こし、広告制作会社を一から設立した。
そんな父を英雄と、達也は敬愛する。
でも、この掲載誌の表紙にある
「未来を拓く父と子の英雄譚!」
というキャッチコピーは、あまりにも大げさだと感じる。
ちょっとネタバレになるが、
達也の父は、ある目的を持って、真空管のオーディオを修理しているのだが、
その助っ人が、とてもユニークで浮世離れしている物語のキーマン。
男子高生の日常のさまは、男性の読み手には、あるあるで面白いかもしれないが、
女性にはあまりピンと来ない点も多いのではないか。
ただ、スピルバーグの映画とか使徒の登場するアニメ
等とぼかして表される個々の作品が全てわかる!
という点には、読み手としては大変満足した。
あの、モダンアートに革命を起こしたデュシャンの作品に関しては、
本物を見たよー!と、ほくそ笑みながら読めた。
こういうクイズ的読書体験も、アリかもね。そこはとても面白かった。
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