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2024年05月21日18:49

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「ヒロイン」桜木紫乃著

釧路ノワールの著者が、今回は関西出身者をヒロインにした長編。
展開が良くて、面白かった。途中辟易するような描写もあったけれど。

冒頭、渋谷駅毒ガス散布事件の逃亡中容疑者として
岡本啓美が40歳で捕まるところから始まる。
オウム真理教事件を思わせる設定だが、
それは読みやすさを加えるための工夫だろう。
だからか、異常な状況も、かなり読み進みやすく、
その後の展開にずんずん入り込める。

毒母によりバレリーナになるべく厳しく育てられた啓美は、
父親が別な女性と去ったところで家出し、
向かったのは新興宗教団体だった。
が、合宿生活の終わりに、幹部の起こした毒ガス散布事件の共犯にされてしまい、
逃走生活を送る羽目に陥る。

頼るのは別れた父親の新潟の家、そこで、父親の再婚相手や異母妹に親切にされる。
そこも出たところで出会った女性ジャーナリストから、ある申し出を受けて…

実母はバレエ教室を運営し、自分の娘には
留学させ大成させたい野望を持つという典型的な毒母。
それに反して、父親の再婚相手は思いやりもあり、しっかり者で、
家事に長けている立派な母親なのだが、
幸せそうな家族には秘密がある。

また、イケイケのジャーナリストに助けられた先の
埼玉県の工場の町のスナックでは、出会いがあり、思わぬこととなる。

運命に翻弄される不幸な女性の半生
というくくりで評すこともできると共に、
移動先が北の方面に色々あって、お約束の釧路も少しは登場する。
そこの描写が、また、程よく詳しくて美しいのが、好ましい。

決して善人とは言えないヒロインが、たくましく生き延び、
強い意思を持って移動して行くさまが、共感を呼ぶ長編。


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