小学生の時コロナ禍でステイホームとなった主人公⋅冴と心晴(こはる)、
その後の彼女達の生きざまを、周囲の人々と絡めて描いた
心を揺さぶられる長編、とても読み応えあって面白かった。
冴は、夜の仕事に就くシングルマザーの一人娘、
母は明るく働き者だが、学校の中で冴は辛い立場にある。
一方心晴は、何一つ不自由のない家庭の一人娘だが、
教育熱心な母親に、様々なお稽古事を押し付けられている。
コロナウイルスが収まり始め、休校だった学校が再開されると、
二人は、望まなかった事態に見舞われるようになり…
一見して「恵まれない」家庭でも、親の愛さえあれば、
ということを呈示しつつ、
一つ間違えると母親の愛情は過剰な干渉となり、
不登校のような辛い状態の原因ともなり得る、とも。
作者の舞台設定がとても巧みで、
不幸を表しつつも、鮮やかに好転させる術を示して、大層好感が持てる。
ただ、読み手によっては、電車の中で読んでは絶対にいけない。
それこそカンヌのパルムドール級やベルリン金熊賞級の監督に
映画化してもらって、広く皆に知らしめたい力作だと思う。
親ガチャという言葉で、無情感みたいなものを
煽っている輩に突きつけたい小説だ。
見方を変えれば、
とても"強い"娘と母と、温かなコミュニティの物語。
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