東京の郊外にあり、夜7時から真夜中12時まで開館する
「夜の図書館」に勤めることになった乙葉の、
お仕事奮闘記で、とても面白かった。
オーナーは決して顔を現さず、職員採用面接には
ボイスチェンジャーを使用する徹底ぶり。
スタッフは殆どが乙葉より年上で、前に本に関わる仕事、
図書館、書店、古書店に勤務していた転職組。
そして図書館近くにある寮に、安く住まうことで、
決して高給ではなくても、生活に不自由はなく過ごせるという職場環境だ。
更に館にはカフェが併設されていて、職員は夜食を安く食べることができる。
その夜食は、例えば向田邦子や田辺聖子等が書いた美味しい料理ばかりだ。
登場人物それぞれが過去にワケありで、
更に、謎のオーナーの運営意志を諮ることが難しく、
乙葉の不安や希望を、読み手はなぞるように
どんどん引き込まれていく。
ネタばれになるかもしれないが、
ラストの方で、オーナーの採用基準が
「まずはとても傷ついてる人、疲れている人」
オーナーと実質的館長の篠井の壮絶な過去から考察すれば、
当然しごくな基準だなと納得しながら読み終わったのだが、
司書としてキャリアを積んできたが、ある小さな館のトップを務めた後、
疲弊して退職してしまった気の毒な友人のことを思い出した。
この小説は、軽いようでいて、出版された本を提供することを生業とするプロには、
とてもずっしりと重い内容と感じられもする長編だった。
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