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2018年06月26日21:39

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「地球にちりばめられて」多和田葉子著

日経新聞の書評に「新しい傑作」とあったが、賛同したい。
また、別な記事に「海へ出るつもりじゃなかった」が大好きとあったが、
アーサー・ランサムを読んで育った、優れた作家がさらに一人、自分の原点を公開してくれて嬉しい。

これはとてもおもしろくて読みやすく、さらに好ましい長編だった。
数々の文学賞を受賞した芥川賞作家は、言語をキイに西欧を舞台とし、多様な若者たちが活躍する物語を紬いでみせた。
ほぼ一気に読んでしまった。

主人公はデンマーク人男性クヌート。
彼は大学院で言語学を研究しているのだが、ある日Hirukoという若い女性をテレビで見かけ、近づきとなる。
彼女はどうやら日本人のようだが、彼女の祖国は消滅してしまったらしい。
その彼女が話す言語が、スカンジナビアの言葉をベースにし、彼女が自分で作りあげたパンスカという言語で、
クヌートはその言語に強く魅かれ親しくなっていく。
さらにエスキモーなど他の多様な民族の人々が登場し、彼らと共に西欧を移動してゆく。

そういう若者たちが全て個性的で魅力的、おまけにそれぞれワケありだったりして、どんどん話に引き込まれて、
彼らと一緒にヨーロッパを巡っていくことになる。
自分の母国語を話す人と話したいというHirukoに、何とか実現させてあげたいという応援団がついて来る。

一貫して感じられるのは、著者の中立的立場からの描写で、
例えば日本語を「形容詞に過去形がある言語」と。
たしかに、それは個性的な特徴だろう。英語などは動詞を過去形にするわけだから。

そこここにちょっとピリっとした風刺も見られて、思わずクスッと笑わされる。
また、直接的に書かなくても、例えば、主人公がテレビのリモコンを扱うその習癖から、
彼の幸せだったとはいい難い生い立ちを明らかにするような、巧みな描写がすばらしい。
派手な動きはないものの、わくわくする感じが終始物語を貫いている。

本当に面白かった。
キャラクターたちがいとおしいと思えたのは久しぶりな気がする。

おまけのビツクリとして、朝の連続ドラマで出てきた方言

けなるい

が使われて本当に驚いた。岐阜ではなくて福井県の言葉として。
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