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2016年12月02日20:30

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「マチネの終わりに」平野啓一郎著

芥川賞受賞作の「日蝕」を読んだ印象とは、まるで違うように感じる恋愛小説。
正直ちょっととまどったくらい。
主人公たちが、たとえるなら韓流ドラマに登場しそうなキャラクターでビックリ。
(ってこんなことを感じるのは、私があまりにも俗っぽいから?)

蒔野は天才ギタリストとして10代から活躍してきた。
知人を介して知り合った、フランス在住のジャーナリスト洋子と恋に落ちる。
彼女は高名な東欧人の映画監督を父としている美女で、アメリカ人の婚約者がいた。
そんな中、洋子はバグダッドに取材に行き、危うく命を落としかけたことから・・・

と、まあ舞台は東京、バグダッド、パリ、ニューヨークそのほか、世界をかけまわり、
格好のよい大人のロマンスが繰り広げられる。
とあらすじを述べると、なんだか陳腐な、昔のメロドラマみたいだけれど、
イラクからの難民の問題や、PTSD,さらにはリーマンショック前後のアメリカの様子などにもさらりと触れ、
くどくはないけれど、作家のしっかりした見識に基づいた、とてもリアルな物語となっている。

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてる」と蒔野。
洋子の父親の有名な映画監督が撮った映画が、リルケの詩「幸福の硬貨」 からタイトルをもらっていたり、
「ヴェニスに死す」が重要なモチーフとなっていたり、私なぞには高レベル過ぎる教養を要求される小説でもあった。

が、そこここにある描写が、とても洗練されていてオリジナルで、知的で、
それが、無教養人間にはベタなカップルと言われそうな主人公たちの、品格を美しくも高めているのだろうなと思う。

面白かったけれど、修飾語や比喩をそぎおとしてしまったら、やっぱりメロドラマ??
(ヒロイン洋子に、まさにピッタリ似合うという、有名らしいスーツケースのブランドを全く知らなったし、覚えられなかったから、ちょっと自分にムッとしている私でした。)

なお、ギターのリサイタルなどで主人公が演奏する曲目は、きっとどれも素晴らしいのだろうな、と
「アランフェス」ぐらいしか頭に浮かんでこないものだから、そこも悔しい気持ちがする。
せめてバッハくらいは、「ああ、あの曲ね」と言いたかったな。
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