mixiユーザー(id:7990741)

2015年01月30日23:38

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「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」 江国香織著

繊細な感性を持ち、文章のきれいな、この作家ならではの長編で、
久しぶりに、きちんとまとまった小説。

タイトルの生物たちと「話ができる」のが、主人公の拓人、幼稚園児。
そして、小学生の姉を始め、拓人の家族と関わる人々の、ものがたりが展開する。

いきなり全てひらがなで書かれているページが数枚続き、ちょっとひきつったが、
それは拓人の心理を語っている部分であり、他の人々のところは、まともでほっとする。
ただし、そんな少年を主人公の一人に据えてあるのだから、登場人物たちは決して幸せな家族とはいえない、
当然でしょう?

父親は浮気性で、母親は常に苦しんでいる。
隣人は耳の遠い独居老婆。でも、御節介なくらいアンテナをはっている。
拓人と姉が教わっている、ピアノ教師は、婚約者と結婚寸前で・・・
離婚歴のある、孤独な男が第二の職場に選んだのは、拓人たちの遊び場でもある霊園。

そして姉と弟は、ヤモリやカエルたちと出合い、世界が広がってゆく・・・

恋愛小説の巧者の一篇だから、やはり中心は、恋愛
といえなくもないけれど、幼い少年少女の、一生懸命な行動の描写が、それは細かく、
あぁ、わかる!というか、鋭いっ!と舌を巻くような箇所が、いくつもあった。
江国香織は、お母さんになったのだっけ?

子育ては孤独。
特に夫に裏切られても、しっかりと家庭を守っていくというのは、たいへん辛い戦いだ。
「タンスにゴン」と割り切れれば、ずっと楽しい人生になるよ、
と声をかけたくなるような小説だった。

決して楽しい話ではないのに、なんだか引きこまれて読み切った。
結末に、とんでもないサプライズがあって、そんなところが、異様だった。
全体に漂う、哀しいような、もどかしいような印象が、どんでん返しのようになってしまう、
最後にものすごいインパクトを持たせて、「やるな、江国さん」という感じ。
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