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2023年09月09日16:12

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「祝宴」温又柔著

台湾生まれだが、日本語で小説を書く作家の中編小説。
久しぶりに純文学を堪能したという感じを持った。いろいろな本を乱読してきたけれど、これは、とてもよかった。

主人公は成功している”台湾人”実業家・明虎。
二人の娘と妻との四人家族だが、仕事のためにわたった日本に家族を残し、台湾で単身暮らしをしていながら、仕事で上海に頻繁に赴く。
実は明虎は大陸生まれなのだが、両親が台湾に移り住み、その後革命で大陸には戻れなくなったという過去を持つ。
したがって、明虎は台湾語が母語で、かつ赴任先の日本語は片言。
しかし娘たちは日本で教育を受けたので、日本語が母語となり、長女は大学院にまで進んだのだが・・・

これは父と娘の話でもあり、父・母それぞれの母国の大家族の話でもあり、
太平洋戦争で大きく流されたそれぞれの家族の歴史の物語でもある。
が、この作者が以前日経のコラムでずっと書いていたように、国籍と育つ国が違う若者のアイデンティティを探求する苦労話でもある。

これを読むまで、「中国語」とくくってきた言語には、広東語、台湾語がある?
それにきっと北部には方言もあるだろう、としか考えていなかったのが、
上海語も存在する、というのには驚いてしまった。

でも、言語のとらえ方のみでなく、もっと根本的な、人のありようという点で、
主人公たちは大きな苦悩をかかえてしまう。
それをどう受け入れるのか、或いは・・・

はらはらドキドキとは全く違う、「衝撃」の行く末を、見守っていくと
大満足で読了できた(私の場合)。

ワルモノがいなくても、謎ときがなくても、面白いものはおもしろいんだ、と読書の奥深さに改めて感心した。
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