あのカズオ・イシグロの最新作として去年話題になった長編。
すでに映画化の権利も買い取られているという。
解説によると、著者いわく「ラブ・ストーリー」。
でも、恋愛小説とするには、かなり異色。
舞台は中世、おそらく6,7世紀のイギリス。ブリトン人とサクソン人の間の対立が、くすぶっている。
主人公の老夫婦は、家を出た一人(おそらく)息子を訪ねて旅をし始める。
その世界には、鬼だの悪さをする妖精だのが居て、中でも最も恐ろしいのは雌竜。
そう、ある意味で、これはクエストーー冒険ものがたりでもある。
旅の途中で巡り合うのは、騎士とサクソン人の少年と、そしてアーサー王の老騎士など。
(ここで円卓の騎士という言葉は出てこない。)
彼らがゆるく結ばれながら、旅をしていくのだけれど、キーとなるのは、主人公たちにまとわりついてる
忘却という病。
この、物忘れを引き起こしているのが、この地域で恐れられている雌竜だというのだ。
初めから老夫婦たちの仲睦まじさが語られる。
若いときは、おそらく美しかった妻を「お姫様」と呼ぶ夫は、どうもただの村人ではなかったかも・・・。
物語が進むにつれて、この夫婦の過去が少しずつ明かされていくのだけれど、
それが読者をも霧に巻いているような、もどかしさ。
ファンタジーの手法を用いたということで、高い評価を得ているのだそうだが、
竜や鬼や妖精、さらには甲冑を身に着けた強い騎士たちなど、
どちらかというと、実は私は苦手なキャラクターが登場してくるのに、決してつっかかることなく読み進められた。
また、騎士の心情を表現しながら、ブリトン人対サクソン人の憎しみの連鎖を描いているところなど、
現代社会に警鐘を鳴らしていると解釈できるような点も、好ましく思った。
面白かった。
が、私には、何よりも、年とってもこんなにお互い愛し合っている老夫婦の存在こそが
ファンタジー。
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