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2016年12月25日11:30

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「みかづき」 森絵都著

おりしも昨日発表になった、王様のブランチ2016ブックアワード大賞の受賞作。(しかも谷原章介賞とダブルで)

この著者は、私にとっては「カラフル」の、という印象だけれども、今回は社会派小説で、
戦後から平成20年くらいまで、時代を追って資料などの緻密な取材に基づく、
いわばドキュメンタリー的な印象を与える力作だった。
でも、もちろん、架空の主人公たちには大いに好感が持てるし、おもしろかった。

この小説は、千葉県内の東京のベッドタウンに創立された
個人経営学習塾の、親子三代にわたる奮闘記
なのだけれど、教職者としてきちんと公的教育を受けた者もいれば、
メインの男性キャラなどは、戦後のどさくさに紛れて、大学はおろか高校も卒業していない。
それでも、子供の心をとらえる天賦の才に恵まれた大橋吾郎は、
途中別な視点に物語が展開しても、最初から最後まで絶大なる影響を与えている。

その妻となる強烈な個性の第一部のヒロインとでもいうべき千明は、娘を連れ子として吾郎と結婚し、
彼女の提案で、二人して個人塾を立ち上げる。
元カフェ女給だったという千明の母・頼子も、とてもいいおばあちゃんキャラで、塾を支える。
波乱はあっても、家族が協力し合って、子供の補習塾を経営していくのは、
まだ世の中で学習塾が毛嫌いされていた昭和の高度経済成長期だ。

そして時代は流れて、教育ママという言葉が陳腐化する頃には、大手の塾が猛烈に力をつけて
個人塾は、今度は同業者との過酷な競争の波にのまれる。
そんな状況下で、主人公たちも代替わりというか、著者のスポットの当て方が巧みに変わってくる。

大河ドラマを見るような、という評もされたけれど、日曜8時からのドラマならば、
スポットは親や祖父母に当てる時があっても、毎回主人公は同じ(子役も含め)なのに
この小説は、そこも変化するところが、ミソ。

血のつながりというのは、本当に強くて、濃いものなのだ、と改めて痛感させられると共に
信念のある組織は、負けない、流されない、と思い知らされた気がした。

余談だけれど、今世紀に入り、その頃の主人公がボランティア組織を立ち上げる。
そこで広報活動をするにあたり、名前があがったのが、

ミクシィ

まだフェイスブックもツイッターもなかったころ、いかにミクシィが重んじられていたか、
関係者には注目して、考えてもらいたいものだ、などと感じた。

高校受験までの子供の教育に係わる人や、そういう児童の親に、特に読んでもらいたい小説であるとともに、
巻末の参考文献リストを見れば、近年問題となっている、子供の貧困対策に、教育面からヒントを与えそうな一冊である。
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