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2024年11月23日14:34

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「アウシュヴィッツの小さな厩番」(ヘンリー・オースター ほか著)読了

アウシュヴィッツなど3つの強制収容所を奇跡的に生き延びた少年の物語。

淡々とした語り口だからこそ、少年の視点から見た冷酷で残虐極まりないホロコーストの実態がそのままに露わに伝わってくる。日常としてその極限に取り込まれてしまっているからこその無邪気さで、時にどぎつい言葉や情景が平然と出現してそのままさらさらと流れていく。

ガス室にこそ送り込まれることを免れたが、放置された死体とともに横たわったまま動けず餓死寸前にまで追い込まれる。〈餓えさせられ、残忍な扱いを受け、迫害されているという確たる事実にある意味依存していた〉と語る。〈依存〉という言葉に思わず息を呑む。

ドイツ市民も、他の多くの市民も、薄々なにかが行われていると感じつつも、少年の言う〈確たる事実〉を知らなかったし、知らぬふりをしていた。ナチスドイツの降伏後になって、ブーヘンヴァルト強制収容所をワイマール市民が見学ツアーに訪れる。そこで行われていた残虐行為とその現場をその目で見るようにアメリカ軍に命じられたからだ。

このワイマール市民の収容所見学は有名な話しだが、そのドイツ人市民たちを見つめて、〈自分もかつては一人のドイツ人だったのだ…几帳面で整然としたドイツ人らしい暮らしから離れて丘を登ってきた、罪の意識に苛まれ震えているその人たちと同じだった〉と、見学ツアーの人々の様子を眺める証言には初めて読んだ。ポジネガが突然のようにどす黒い画像に反転したようなを目眩を覚える。

著者のヘンリー・オースターは、解放後にアメリカの遠縁に養子として引き取られ、苦学して検眼学の博士号を取得。大学で教鞭をとるかたわら検眼店も経営していた。1977年から、ホロコーストからの生還者として毎月体験を語る活動を始め、アメリカやヨーロッパの各地を巡ってその先々で自分の体験を語ってきた。

本書は、そのオースター博士の検眼店でコンタクトレンズを作ってもらったことをきっかけに知り合ったライターのデクスター・フォードが記述したもの。実話そのものだが、長年の活動を経て記憶と記録が整然と整理されていて絵巻物のように自然に流れていく。翻訳もとてもこなれていて読みやすい。

そこにはホロコースト体験の実写だけではなくオースター博士の人格と質実な職業人生も滲み出ている。

原題は、"THE STABLE BOY OF AUSCHWITZ"。"stable"という単語は、日常的には「安定した」「復原力のある」といった意味を現す形容詞。それが名詞では「馬小屋」「厩」を指す別の単語になる。邦題はそれを忠実に訳しただけのもの。しかし、この同語異義は偶然なのだろうか。

ぜひ、手に取って読んでほしい。誰もが同じ思いに突き動かされることだろう。


フォト


アウシュヴィッツの小さな厩番
ヘンリー・オースター 、 デクスター・フォード (著)
大沢 章子 (翻訳)

新潮社
2024年8月10日 発行

原題=THE STABLE BOY OF AUSCHWITZ

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