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2019年05月11日18:44

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旅路の最果てに マノン・レスコー (ヴェネツィア/ミラノ音楽三昧 その7)

今回の音楽旅行もついに最後のシーンを迎えました。

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私たちのミラノ・スカラ座の最終夜は、いよいよ御大リッカルド・シャイーがピットに入ります。そしてスカラ座新制作のプッチーニ「マノン・レスコー」の初夜。会場は、いっそうの華やいだ雰囲気で沸き立っています。

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初演は、前々日に垣間見たトリノの王立歌劇場。1893年のことで、もちろん、焼失前の旧歌劇場です。3年前にミュンヘンに出かけたとき、ネトレプコとカウフマン主演との触れ込みでなかなかチケットが入手できず、ほとんどステージが見えない天井桟敷。しかも、ネトレプコは歌いにくい演出だとかで降板してしまったという、私にとっては曰く付きの演目。それでも、あの時のカウフマンの素晴らしい歌唱と、バイエルン国立歌劇場のオーケストラのサウンドは耳に焼き付いています。

物語は、修道院に連れて行かれる途上のマノンに、若い騎士デ・グリューが一目惚れ。同じようにマノンの美貌に目をつけた財務大臣で金持ちのジェロンテがパリへ連れ去ろうと知ったデ・グリューはマノンと駆け落ちしてしまう。ところが二人は引き離され、マノンはジェロンテの妾に収まっている。そのマノンと再び駆け落ちしようとする二人ですが、ジェロンテの指図でマノンは警察に捕らえられてしまう。ついには、マノンはアメリカへと追放の身となるのですが、デ・グリューはアメリカの砂漠の果てまでもマノンを追っていく…。まさに、魔性の女マノンと裏切られても裏切られても一途な愛を貫き通すデ・グリューの二人の転落と悲惨な破滅の物語。

原作は18世紀の古い小説で、当時、よく読まれており、しかも、マスネによって「マノン」としてすでに歌劇化も先行していたもの。プッチーニは、「マノン」では割愛されていた「植民地ルイジアナ」を終幕として加え、二人の悲劇的末路を最大のクライマックスに仕上げています。

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スカラ座新制作の舞台は、抽象的で極度に舞台が切り詰められていたミュンヘンとは対照的にリアルで装置が大仕掛け。最初に二人が出会う停車場の場面は、初演時と同時代の大きな鉄道駅になっていて、マノンらの一行が登場する場面ではステージ奥から実物大の蒸気機関車が豪華な客車を引いてが現れるというもので、まずはそこで度肝を抜かれてしまいました。

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ただ、この鉄道駅と豪華客車は手を変え品を変え、最終幕まで使い回されます。第2幕のパリのマノンの妾宅もこの客車が舞台となっていて、観ていてちょっとしっくり来ません。果ては、ルイジアナの荒野の場面でも、この駅舎の柱が林立する向こうに、ダリの抽象画のような砂漠の背景が連ねてあるという風で、いささか《最果て》の荒廃感に乏しい。いっそのこと「猿の惑星」のシーンのように砂に埋もれた機関車でも出すというようなところまで徹底すれば、相当なインパクトはあったかもしれません。ちょっと要求をエスカレートさせ過ぎかもしれませんが、せっかくの豪華で大迫力の装置なのに、後をケチって使い回したことでかなり興ざめしたことは否めません。

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演出面でも、しきりに登場する真っ白な制服風のワンピースの少女たちが、演出家の思い入れなのでしょうが、第一幕でこそ効果があったものの、第4幕までワンパターンで登場すると、だんだんうっとうしく感じてしまい、逆効果になってしまいます。マノンをファム・ファタールとしてではなく、美少女の純粋で無垢な穢れのない聖性をも持ち合わせた女性だと言いたかったのかもしれませんが、どこか、プッチーニの音楽とちぐはぐでなかなか真摯に伝わってくるものがありません。

案の定、閉幕後のアプローズでは、演出家だけが喝采のなかに床を踏みならしてのブーイングの嵐をお見舞いされることに。とはいえ、こういうものは新制作初日のお決まりのシーンですし、新演出が観客の心に浸透するのは日時を要するということなのだと思います。

歌手陣は、いかにもスカラ座らしい強力な布陣です。

何と言っても大人気だったのは、主役の二人。マノン役のマリア・ホセ・シーリはいまやスカラ座の看板というだけでなく、イタリアのリリコ・スピントの第一人者であり各地で大人気のマノン・レスコーです。ちょっと見かけの第一印象が、少女らしいみずみずしさとか、若い男の運命を狂わすような妖艶さのようなものとはずれていて、逃亡の間際にも宝石を持ち去ろうとする場面でも女の悲しさみたいなものを感じにくい。欲張ったことを言うときりがないけれど、ドラマが進行するにつれその歌唱の安定した深みのある美声に魅せられていきます。

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デ・グリュー役のマルセロ・アルバレスは、ほんとうに若々しくて情熱的。ただただ一途で直進的、それでいて優しい情にあふれるデ・グリューを熱演している。それでも、声だけでほとんど姿が遠くて見えなかった3年前のカウフマンの血を吐くような悲劇性には及びません。あのデ・グリューが聴けたのは幸せだったと改めて思います。

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スカラ座管弦楽団のプッチーニは、世界一のプッチーニだと思います。シャイーの指揮のスタイルもあってか、ことさらに何か特別な色彩をつけるわけでも何でもないのに、そこにはプッチーニのオーケストラの何重にも絡み重なり合うような歌と色艶が輝いています。こうして聴いてみると、プッチーニのオーケストレーションは、もちろん、ワーグナーとはまるで違うのですが、その重層性と深みはまったく同じです。昨今の日本のオーケストラは、何とかワーグナーの音は出るようになってきましたが、プッチーニのそれは鳴らすことがまったく出来ていないとさえ思っています。そういうことを痛感させられてしまうのです。

いろいろと贅沢な注文めいたことまで書き連ねてしまいましたが、スカラ座渾身の新制作のプッチーニの大作をこうやって現地で楽しめることの幸福感は格別でした。興奮のほてりが冷めやらぬままに宿に帰り、味気ない荷造りの作業にとりかかると、明日は帰国かとため息ばかりでした。


長々と駄文にお付き合いいただきありがとうございました。

(終わり)



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プッチーニ「マノン・レスコー」
ミラノ スカラ座
2019年3月31日 20:00
指揮:リッカルド・シャイー
演出:デービッド・パウントニー

マノン・レスコー:マリア・ホセ・シーリ
マノン・レスコーの兄:マッシモ・カヴァレッティ
騎士デ・グリュー:マルセロ・アルバレス
ジェロンテ・デ・ラヴォワール:カルロ・レポーレ
エドモント:マルコ・チャポーニ
他


Manon Lescaut
Giacomo Puccini

Teatro alla Scala Chorus and Orchestra
Teatro alla Scala New Production

Conductor: Riccardo Chailly
Staging: David Pountney
Sets: Leslie Travers
Costumes: Marie-Jeanne Lecca
Choreography: Denni Sayers
Lights: Fabrice Kebour

CAST
Manon: Maria Jose Siri
Lescaut: Massimo Cavalletti
Des Grieux: Marcelo Alvarez
Geronte: Carlo Lepore
Edmondo / Dance Master / Lamplighter: Marco Ciaponi
L'Oste: Emanuele Cordaro
Un Musico: Alessandra Visentin
Sergente degli arcieri: Daniele Antonangeli
Un Comandante di Marina: Gianluca Breda
Musici:
Barbara Lavarian, Roberta Salvati (first sopranos)
Silvia Spruzzola (second soprano)
Julija Samsonova, Maria Miccoli (altos)

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