mixiユーザー(id:26897873)

2019年05月01日18:00

230 view

一夜明けたら スカラ座「チェネレントラ」(ヴェネツィア/ミラノ音楽三昧 その5)

一夜明けたその朝は、列車に乗って湖水地方へでかけました。

ミラノからほんの1時間ほども行けばそこはもうアルプスのふもと。氷河によって造られた湖がここに連なっています。35年前に初めてミラノを訪れたときも、同じように湖水地方へでかけて、いろいろと楽しい思い出があります。その時はコモ湖でしたので今回はマッジョーレ湖にでかけました。

フォト


湖畔のストレーザの沖合にベッラ島(「美しい島」)があります。全島がボッロメオ家が17世紀に建てた宮殿と庭園になっている夢のように美しい島。

いくつかの島を巡る公共の水上バスが通っています。湖畔にはいくつもの水上タクシーの業者がいて“PUBLIC”と称して盛んに客引きをしていますので、うっかりそちらに乗ってしまいそうですが、水上バスは専用のピアがちゃんとあるのでわかります。

フォト


宮殿内はとても優雅で、地下などには遊び心満点の貝殻壁面の部屋や洞窟風の部屋などもあって、何だかとても裕福な気分がします。

フォト


島の半分は、白い孔雀が遊ぶバロック式の庭園になっています。この日も晴天に恵まれ、間近に迫るアルプスの山々から凜とした風がそよぐ庭はまるで水面に浮かんだ楽園。ゆっくりと散歩していると、まるで、自分は夜明けのシンデレラ。いつまでもここいたいという幸せな気分になってしまいます。

再びストレーザの街にもどって小さなレストランで昼食。

土産ものの店が並ぶ通りからちょっと外れていたので、店内は地元のひとばかりです。食事も庶民的な定番のものばかりを注文しましたが、とても美味しい。



この日の席は、いわゆるボックス席。

フォト


スカラ座は、伝統的な歌劇場のスタイルで、1階フロアーのいわゆる平土間(“Platea”)席と後は全てボックス席(“Palchi”)になります。ボックス席は、4層になっていて、一番下の第1層は、平土間の中央と同じで一番高い席になります。英語では“first tier”“second tier”と呼ぶこともあって、それは文脈が違えばしばしば社会的階級や階層のことを暗に指していることがあります。なお、最上の2層は、いわゆる桟敷席(“Galleria”)です。中央以外は舞台が部分的にしか(あるいは全く)見えないので、細かく料金が違ってきますし、完全に立ち見になる場所もあります。

私たちの席は、舞台側から数えて3つめのボックスで、舞台を見るためには身体をかなりひねることになりますが、かえって舞台やピットに近いので、臨場感満点のとても楽しい席でした。

さて、この日は、ロッシーニ「チェネレントラ」。

お話は、要するにシンデレラなのですが、童話とは違って、魔法使いのおばあさんも、ガラスの靴も出てきませんし、12時の鐘も鳴りません。その代わりに、乞食の姿に変装した王様お付きの哲学者が案内役になったり、王子様は従者と、なりを入れ替わったりと、いかにもオペラ・ブッファ(喜劇)らしいドタバタ歌劇です。童話の意地の悪い継母の代わりに、自分の娘を妃にして役職を得ようという落ちぶれた貴族の継父がこっけい役として劇を面白おかしく盛り立てます。シンデレラをこき使い、いじめる二人の姉はそのままですが、最後には王子妃になった心優しいシンデレラに許されるという結末。

とにかく楽しい。モーツァルトのような疾走感あふれる音楽で満ちあふれていますが、どちらかと言えば早口言葉的なおかしさと高揚感が優先していて軽快そのものです。そのなかに、いわゆる《入れ替え》劇のなかで、シンデレラが乞食(実は哲学者)に心から寄り添い、身分の低い従者(実は王子様)への愛の真実を貫くという次第で、真摯で深みのある美しいアリアもあって観る者を飽きさせません。

このオペラは、19世紀には「セビリアの理髪師」と人気を二分したそうですが、コントラルトのコロラトゥーラという難しさがあって20世紀にはすっかり上演されなくなってしまいます。1970年代以降のロッシーニ・ルネサンスで、また人気演目に復活したというわけです。私自身も、80年半ばにTVで観たのが最初で、当時は珍しい演目という受け止めでした。バルトリなどの新しいタイプの歌手の魅力を引き出し、そういう新世代の歌手たちが現在の華々しい人気を支えています。

歌手陣は、さすがスカラ座というしかない布陣。

フォト


タイトルロールのマリアンネ・クレバッサは、美人で姿もよく軽快な歌いまわしという三拍子そろった新進ロッシーニ・メゾ。知性と真摯な雰囲気もあって、童話のシンデレラとは一線を画したちょっと大人のシンデレラ。この歌劇がドタバタの喜劇で終始せずに、一級のメロドラマの風格を保つ大事な要となっています。

フォト


マキシム・ミロノフは、これ以上の王子様はいないと思わせるテノール。こちらも、まるでブロマイドから抜け出てきたようなイケメン。テノールには珍しいすらりと長身のひとで、声も甘く伸びやかで繊細。しかもそのアジリタにも陶然とさせられるのです。

マニフィコ(継父)役のカルロス・ショーソンは、主役の二人以上に歌劇の中心となりますが、さすがにベテランらしく演技力抜群で舞台で大活躍。哲学者のシュロット、従者役のオリヴィエリなど脇役というにはぜいたく過ぎるほどの演技と歌唱で舞台が華やぎます。

フォト


二人の姉たちも大活躍ですが、この二人はスカラ座アカデミーの学生。サラ・ロッシーニは、すでに卒業しているようですが、昨年の新国立劇場・世界若手オペラ歌手ガラコンサートにアカデミー現役としてそろって登場しています。専属の修習生が、こんな大舞台で大活躍というのですから、ヨーロッパの歌手の層の厚さには舌を巻いてしまいます。

オーケストラも、やっぱり、素晴らしい。

フォト


ロッシーニの管弦楽というのは、意外に大編成で、その技法も音響も魅力がたっぷり。だからといってそういうサウンドがどこのオーケストラでも出せるものではないということも痛感させられます。ピアノフォルテが使われているというのも、もはや、こちらではロッシーニ上演の常識なのでしょうか。

本当に楽しい夜でした。なるほどロッシーニ・ルネサンスが起こったわけだと、私のような「ウィリアム・テル序曲」一辺倒で育った「ローン・レンジャー」世代も、一夜で一変、すっかり納得させられる充足のオペラ体験でした。







ロッシーニ「チェネレントラ」
ミラノ スカラ座
2019年3月30日 19:00
指揮:オッタヴィオ・ダントーネ
演出:ジャン=ポール・ポネル

アンジェリーナ(チェネレントラ):マリアンネ・クレバッサ
ラミーロ王子:マキシム・ミロノフ
ドン・マニフィコ(継父):カルロス・ショーソン
ダンディーニ(王子の従者):マッティア・オリヴィエリ
アリドーロ(哲学者):アーウィン・シュロット
クロリンダ(姉):サラ・ロッシーニ
ティスベ(姉):アンナ・ドリス・カピテッリ




La Cenerentola
Gioachino Rossini

Conductor: Ottavio Dantone
Staging, sets and costumes: Jean-Pierre Ponnelle
Staging retaken by: Grischa Asagaroff
Lighting Designer: Marco Filibeck

CAST
Angelina: Marianne Crebassa
Don Ramiro: Maxim Mironov
Don Magnifico: Carlos Chausson
Dandini: Mattia Olivieri
Alidoro: Erwin Schrott
Clorinda: Sara Rossini
Tisbe: Anna-Doris Capitelli
Fortepiano Maestro: Paolo Spadaro Munitto
16 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する