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2018年12月22日13:58

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田部京子ピアノ・リサイタル

田部京子さんのリサイタルは、男性客が多い。

1年ぶりの田部さんのリサイタル。ここ浜離宮朝日ホールで続けている「シューベルト・プラス」のシリーズでは、この夏の回は都合でパスしてしまったので1年ぶりでした。今回は、CDデビュー25周年記念も兼ねての「特別編」。ふと気がついてチケットを買ったのですが、良い席は残っていませんでした。ところが2階バルコニー席が空いている。たぶんこのホールの2階席は初めて。その2階席から1階の客席を眺めると、どうも3分の2ぐらいは男性のような気がします。

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ホールの天井が紀尾井ホールに較べると低いので、こちらの2階席は敬遠していたのですが、聴いてみるとよい音です。1列しかないので眺望も悪くはありません。左側の席は鍵盤と手が見えるのでよく埋まっていますが、右側の席はあまり人気がないようです。でも田部さんのお顔が見えるし、音響的にはだいたいピアノ収録のマイク位置の延長線上に当たることから考えても、とてもバランスがよく響きも中立的でクセがありません。むしろ、私には最上席に思えて、紀尾井ホールでのピアノリサイタルなどでは好んで選択しているのです。

それにしても、田部さんピアノにはほんとうに至福の時というものを味わいました。

1曲目は、ショパンの嬰ハ短調の前奏曲。

田部さんは、いつもプログラム第1曲に短めの小品をあてています。それは遅参する客への配慮だと思いますが、そこにプログラム全体のテーマや、演奏者の思いのようなものが埋め込まれているように思えます。この前奏曲は、大作である24の曲集とははぐれてしまったような珠玉の小品。フランス中部のノアンにあるジョルジュサンドの別荘で比較的平穏な日々のなかで創作に情熱を傾けていた頃の作品。下降していく仄暗い和声と奥底から浮かび上がるような叙情的なアルペジオが交錯する寂しげな情感に満ちた美しい小曲。

そういうショパンの凝縮された叙情が呼び水となって、続いて登場するのシューマンの大曲「交響的練習曲」。

シューマンの曲のなかでも一番好きな曲です。「幻想曲」も名曲だと思いますが、あれはどこか壊れたソナタのよう。「交響練習曲」は、変奏曲として構成感が明快で、壮大なピアノ音響と技巧的な意匠の変化があってどんどんと高揚していくトリップ感覚があります。一方で、音や拍節を複雑に交錯させて刻むところはいかにもシューマンらしいのですが、田部さんの演奏を聴くと、そういうシューマンのギザギザ感が皆無で心中のさざ波だつようなふつふつと泡が吹き出すような高揚感がとても心地が良い。

以前のリサイタルの時と同じで「遺作変奏つき」。その時の順番について記憶は定かではありませんが、今回その5曲は、第9曲と第10曲との間に挿入されていました。シューマンのその細かい心の波立や泡立ちに満ちた心の彷徨がいっそう拡張されて果てしなさを感じさせます。そして本作へ回帰し最後の壮大な交響的なフィナーレへと駆け上っていくのです。

休憩をはさんでの最終曲は、シューベルトの最後のソナタD960。

5年前の20周年の時も同じこの曲でした。やはり田部さんの一番思い入れが濃い曲なのでしょう。

前回は、楽界を揺るがせた盲目難聴のニセ作曲家の贋作が暗い陰を落としてしまいました。その後に代作を勤めていたことを告白し名乗り出た作曲家の作品は、残念ながら東日本大震災の津波にのまれた犠牲者の遺族を深く傷つけることとなり二度と日の目をみないでしょう。

そういうことのせいなのか、この日のシューベルトの遺作はずいぶんと違った情感で心に染み入ってきます。その気持ちへの静かな浸透圧は、はるかに強く長くて聴いていて思わずたじろいだほど。平穏で、さながら、厳冬に訪れた小春日和のよう。どこまでも澄み渡った青い空から、暖かく穏やかな明るい陽光を浴びながら瞑目するひととき。足元には、時折、枯葉が舞い、微かにそよぐ冷気に身震いしながら短日の冬に気づく。陰のようにつきまとう定かではない暗い気配。

田部さんのピアノは、美しい。でも美しいだけではなく寂しかったり、懐かしかったり、悲しい悔恨がこみ上げてきたり…。決して激することもないのです。その強弱の起伏はとても小さく、とても細やかなアンニュイに満ちています。西洋的な激情の浪漫や深刻ぶった哲学はきれいに洗われていて、和紙の障子と畳だけの方丈の空間の無常観で、とても日本的。続く第2楽章は、哀切と悔恨の噴出。最後の2つの楽章の透明な幸福感は、浄福の来迎のようでした。

アンコールは、吉松隆さんのノエル。

答礼する田部さんが手を伸ばして指し示した中央席には杖を持った吉松さんが座っておられ、立ち上がると小さく会釈をされます。

グリークに続いて、3つ目のアンコールは、その吉松さんの編曲したシューベルトの「アヴェ・マリア」で締めくくられました。いずれも田部さんのキャリアを表象するようなおなじみのアンコールピースでした。




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CDデビュー25周年記念
田部京子ピアノ・リサイタル
〜シューベルト・プラス特別編〜
2018年12月19日(水) 19:00
東京・築地 浜離宮朝日ホール
(2階 R列7番)


ショパン:前奏曲 嬰ハ短調 op.45
シューマン:交響的練習曲 op.13〈遺作変奏付き〉

シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D960

(アンコール)
吉松隆:プレイアデス舞曲集より 真夜中のノエル
グリーグ:君を愛す op.41-3
シューベルト(吉松隆編):アヴェ・マリア
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