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2018年06月18日17:53

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ウィーン古典派とショスタコーヴィチ/紀尾井ホール室内管

ウィットに富んだ、しかも、素晴らしい快演だった。

ハイドンとベートーヴェンに挟まれたショスタコーヴィチのピアノ協奏曲には、ふんだんにその二人のウィーン古典派の大作曲家が引用されている。パロディ(引用)は、ショスタコーヴィチのお家芸だが、まだまだ若かった彼には《シリアスな音楽》ととられかねないクラシック音楽に大衆的なコミカルでユーモラスな健康さと楽天的な大衆性を与えたいとの目論みが潜んでいた。協奏曲の冒頭のモチーフは、ベートーヴェンの「熱情」ソナタの開始そのもの。それがまるでディズニーアニメのミッキーマウスのように走り出す。終楽章のロンドは、ベートーヴェンとハイドンとショスタコーヴィチ自身のみつどもえの追いかけっこ。

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そういうショスタコーヴィチのピアノ協奏曲が、無調と多調のにぎやかなパティとなって、上下のハイドンとベートーヴェンのパンズに挟まれている。しかも、一般的には楽天的で時として機知を利かせるというイメージのハイドンはあえて《疾風怒濤》時代の代表作である直情的でシリアスな「受難」。対して、ベートーヴェンは、彼としては例外的にコミカルで楽天的な気晴らしの音楽である「田園」を選択し、聴く者の気持ちを逆手にとっているところは、いかにも人を食ったようなプログラムだ。そういうエッセンスが実に愉快でにぎやかなハンバーガーの美味さになっている。

ハイドンの「受難」は、弦5部とオーボエ、ホルンだけの古典的編成。この編成で存分に感情を入れ込んでシリアスな音楽を奏でているのはさすが。響きに厚みがあるが重くならないのは、ヒストリカルな味わいに対する現代聴衆の味覚を踏まえていて、さすが紀尾井ホール室内管と思わせる快演。

ショスタコーヴィチは、弦5部とソロ・トランペットのみ。その古田俊博(東フィル首席)のトランペットは縦横無尽の活躍を見せて見事だった。手にしたB管からはこの楽器の低域の魅力も引き出して幅の広さを見せつける。こういうトランペットの音質は生でしか感得できないかもしれない。

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けれどもやはり驚いたのはアレクセイ・ヴォロディンのピアノ。

ロシアンピアノの強靱さとオルガンのように唸る最低音と、いかにもショスタコーヴィチらしい軽快さときびきびした中高音を両立させて聴く者の耳を心地よく刺激し、心を浮き立たせる。このひとのプロコフィエフも聴いてみたい。

ところが、アンコールで弾いたチャイコフスキーが素晴らしかった。トマトケチャップとマスタードとピクルスとチーズを合わせたような濃厚さ。ここまでやるか…というほどのしつこさだけど、こってりとした液状のソースは、美形の熟女のハートまでもドキューン!と射貫いてしまうほど。

「田園」は、慎ましい編成のようであって実は2管編成の楽員総出で、しかもトロンボーンにピッコロまで加わる。慎ましいと感じるのは、画期的なほどに楽器の用法が精緻で鮮やかだからだろう。木管楽器の用法が素晴らしく、弦5部編成もチェロとコントラバスが本格的に独立し、第2楽章ではチェロがトッププルトだけ分離する。そういう工夫は後代の模範となった。そういうオーケストラの魅力と面白さに満ちあふれた演奏で、素晴らしいバランスだった。

初っ端で、今どきのプロには珍しいリードミスをやらかしてヒヤリとさせたが、クラリネットの金子平(読響首席)は見事に持ち直して素晴らしい妙技を聴かせてくれたし、ファゴットの福士マリ子(東フィル首席)も相変わらずこの楽器の独特の融和性で魅せてくれる。今回、おそらく初登場のフルートのドブリノヴ(今年4月に読響首席就任)が出色の出来映え。じっと出番を待っていたピッコロの難波薫(日フィル奏者)も思いっきりのよいチャーミングさ。

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ホーネックの指揮は、前回とは見違えるほどの生気あふれるタクトの動きで、オーケストラと寸分違わぬ気持ちの一致があって、心から湧き上がるような晴れ晴れとした音楽が聴けた。おそらくコンミスの玉井菜採(ソロ・東京芸大教授)のインタープリテーションとオケ全体をまとめ上げるマネージメントのたまものだと思う。ホーネックにとっても会心の出来映えだったことはそのうれしそうな表情でこちらにもよく伝わる。そのホーネックが、終演後の大喝采のなかで玉井に恥じらうことなく何度も抱きついたり、声をかけたりしていた。

もうひとつ特筆しておきたいのは、コントラバス。ショスタコーヴィチでもベートーヴェンでも、軽快で力と深みのあるバスはおそらく日本最強。

ところが終演の最後に、相方の池松宏(都響首席)が大きな花束を抱えてステージを半周して河原泰則に献呈。紀尾井シンフォニエッタ東京創設以来のメンバーであり桂冠演奏家でもあるこの名バス奏者は、この日で引退ということのようだ。本場ケルンのオケやサイトウキネンでも活躍したこのうるさがたの長老が現場を去るのはちょっとさみしい。




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紀尾井ホール室内管弦楽団 第112回定期演奏会
2018年6月16日(土) 14:00
東京・四谷 紀尾井ホール
(2階センター 2列13番)

ライナー・ホーネック(指揮)
アレクセイ・ヴォロディン(ピアノ)
紀尾井ホール室内管弦楽団
(コンサートマスター:玉井菜採)

ハイドン:交響曲第49番へ短調Hob.I-49「受難」
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番ハ長調Op. 35

(ピアノ・アンコール)
チャイコフスキー/プレトニョフ編曲:眠れる森の美女Op.66第3番 No.28-B パ・ド・ドゥ


ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調Op. 68「田園」
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